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26.へいさくいきへいこう。

「なんでしたら、少しお時間をいただければ、うちの備品の吸血鬼とかやさぐれた人狼とかも召集できますが……」

「あ。

 あいつらはいいや。

 単純な討伐任務ならともかく、微妙な判断が必要な今回みたいなパターンには不向きだし……」

「ですよね。

 単純に打撃力だけみても、ルリーカさんとバッカスさんが揃っていれば、たいていのことはなんとかなるはずですし……」

「欲をいえばコニス、もっと詳しくいうと、あいつの鞄の中身が欲しいところだけど……」

「あれ、反則的なくらい、多様な状況に対応できますから……でも、今はお忙しそうですし……」

「ですよね。

 結局、この面子におちつくのか……。

 で、例の場所って、今、どうなっているの?」

「シナクさんが発見して以来、不用意に未知のヒト型と接触しないよう、安全マージンをかなり広範囲にとって閉鎖中です。

 したがって、現在その中がどうなっているのか、まるでわかりません」

「そんな中……大事な帝国のお客人をいきなり連れていくのは、ちょっとアレなんじゃないか?

 もうちょい、慎重に……何度か、下見をしてからとか……」

「ギルドとしても、そうしたいところなのですが……なにぶん、当のリリス博士のご要望ですので……」

「この先生、そんなに偉いの?」

「偉い……ですね。

 ご専門の分野で自他ともに認める第一人者ですし……とくに、未知の異族との接触交渉時に多くの功績があったとして帝国中枢部にも覚えがめでたい。帝室にも、個人的なコネクションがあるようでして……」

「ぶっちゃけたはなし、書類上の権限はともかく、実際的には、木っ端役人風情でしかないぼくなんかよりもよっぽど大きな影響力を持っている方です」

「……この痴女先生が、ねえ……」

「そのような次第ですので、ギルドとしましても、リリス博士のご要望を無碍にはできないわけです」

「で、当座のベストメンバーを急いで召集した、と……。

 先生。

 あらかじめいっておきますが、一度その閉鎖区域に入ったら、なにが起きるのか予測ができません。

 とてつもなく危険な目に遭うのかも知れないし、逆に、いけどもいけども何者にも遭遇できず、肩すかしを食らうこともありえます。

 それでも……よろしいのですね?」

「それは、仕方がないことなのねん。

 少なくとも、君たちが心配するしてどうにかなることではないでしょう?」

「ギリスさん、念のため、誓約書を書いてもらってください。

 こちらも安全確保のために全力は尽くしますが、それでも万が一ってことがある」

「それはもう。

 ギルドとしても、最初から事故責任の言質はとっておくつもりです。

 それでは、このクエストは受理ということで?」

「ええ。

 お断りしても、どうにあってもよりいい方向に転びそうにありませんしね。

 探索する予定の、最新の地図もお願いします」

「すでに用意しています。

 何日か前にシナクさんが調べたものを清書しただけなのですが……」

「まったくなにもないよりは、はるかにマシってもんです。

 それから、バッカス……には、聞いても無駄か。

 ルリーカ。

 なんか、改めて用意しておくものとかあるか?」

「ない。

 シナク、昨日買った剣は?」

「ああ。

 今は預けて、術式を刻んでもらっている。取りにいけるのは、今日の仕事が終わってから、夕方か夜になるな。

 あと、例の木彫り人形は、今、どうしているんだ?」

「夕べから、うちの屋敷、書庫の魔法書を、片っ端から読ませている。あの子は眠りを必要としない。

 うちは、魔法書の蔵書量では、近隣諸国でも随一」

「有名な魔法使いの家系、とかいってたもんな。

 用意は……おれは、いつもの装備、担いでいるし……だいたい、こんなもんなか?

 帝国のお二人も、よろしいですか?」

「いつでも」

「いっきましょっいっ!」

「じゃ……ルリーカ、このバリケードの手前まで、転移できる?」


 しゅん。


「した」

「とりあえず、これ……壊すところから、はじめるしかないのか……」

「わははははは。

 シナク、なんなら、一気にどっかーんと、景気よくいくか?」

「あとのこと、考えろよ。このあとも、バリケード自体は使うんだから……通過したあとまた通り道をふさげるように、丁寧に壊さなけりゃ駄目だろ?」

「わははははは。

 いわれてみれば、そうだな」

「一気に、このバリケードの中に転移するとかはできないんですか?」

「可能。

 ただし、バリケードの向こうが現在、どのようになっているのか不明」

「身の安全を重視すると、地道にいくしかないってことのようねん、レキハナくん」

「リリス博士……。

 手伝ってくれなくてもいいので、せめて明かりぐらいはお願いします。

 簡単な魔法なら使えるはずですよね?」

「そうねん。

 そのていどのことなら、おやすいご用よん」


 ぽう。


「……人夫どもに、大工道具でも借りてくるべきだったな……」

「かなり、頑丈に釘づけされているもんですね……」

「わははははは。

 道具も破壊することもなしに、これをなんとかしようとしたら……かなり、時間をくうんじゃないのか?」

「だな。

 ルリーカ、こういうとき、なんとかする魔法って……」

「そんなピンポイントで便利な魔法は、ない」

「だよな」

「……工具、調達してくる」


 しゅん。


「初っぱなから、ケチがついたな」

「しかたがありませんよ。

 準備をする余裕を与えられていたのならともかく、なにぶん、かなり唐突に決まったことですしね」

「帝国官吏の方にそういってもらえると、幸いです」

「レキハナと呼んでください。

 ぼくは、官吏とは名ばかりの、下っ端役人でしかありませんので」

「帝国官吏の登用試験は、かなりの難関と聞いていますが?」

「ペーパーテストだけで、すべてが推し量れるわけでもありませんので」


 しゅん。


「借りてきた」

「ええっと……この中で使えそうなのは、まず、釘抜きかな?

 ほい、バッカスも一本」

「わははははは。

 任せろ」

「ぼくも手伝いますよ。

 どこから剥がしましょうか?」

「……んー。

 この横木が……こっちを、こう支えているから……。

 あー!

 ギリスさんにいって、人夫の一個小隊でも都合してもらうんだったぁ!」

「ここを突破すれば、もうバリケードはないはずですから……」

「そうっすね。

 慣れない仕事だけど……ちゃっちゃと終わらせましょう!」


「……ふう。

 これでなんとか、ひとひとりくらいは通れるかな?

 バッカス!

 この中でお前が一番、体が大きんだが……なんとか、通れそうか?」

「……んー……。

 なんとか、頭を低くしていけば、いけるんじゃないかな?」

「……んじゃあ、この場は、これで……。

 先頭おれ、次、ルリーカ。そのあと、帝国のお客人ふたりに、しんがりはバッカスな」

「シナク、あかりを先行させる」

「おう、あの、火の鳥か。

 ん。

 前方には、なにもいないっぽい。

 ……いきます」


「全員、こっちに来ましたね?」

「わははははは。

 シナク、この穴、すぐに塞いどくのか?」

「いや……。

 それは、帰りでいいだろ。このへんには、誰も近寄っていないはずだし……。

 このまま、ゆっくり前進します。

 なにか気づいたことがあったら、いつでも声をあげてください。

 誰か、地図で現在地の確認を……」

「それは、ぼくが担当しましょう」

「では、レキハナさん、お願いします」


 ざっ。ざっ。ざっ。ざっ。ざっ。ざっ。

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