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20.はいごからだきすくめられ、みみをなめられましたがなにか?

「ペロッ。

 これは、同族の味だ……」

「うっひゃぁっ!

 耳が! 耳がぁっ!」


「なにあれ?」

「金髪巨乳……尖り耳の、おねーさんが、シナクさんを背後から抱きすくめて……」

「……なにぃ?

 このわたしになんの気配も感じさせず……ぼっち王への背後抱きすくめをやってのけた……だと。

 このわたしでさえ、成功しなかったというのに……」

「……かーちゃん……」

「いつの間に?」

「ああああ、あんた、いったい誰よ!

 いつの間に入ってきたのよ!」

「んふふふ。

 そーねー。

 おいしそうな匂いにつられて、ちょうどそこのおいしそうな子が、

『ときに、シナクさん。

 くだんのおじいさんと死に別れてから、何年くらいになりますかね?』

 ってこの子の生い立ちをはなしはじめたあたりから聞いていたんだけどぉ……。

 この子、この耳の形からして、おそらくあたしと同族だと思うんだぁ。ひょっとしたら、祖先帰りってやつ? 隔世遺伝的な者かも知れないけどぉ、このあたしにしても同族にあうのはひさかたぶりなもんでぇ、思わず抱きついて耳を甘噛みしちゃったてぇわけぇ……」

「あひゃひゃ。

 脇を、脇を指でぐりぐりしないで!

 くすぐったい、くすぐったいよっ!」

「あー。悪いが、ねーさん。

 ここは、そういう店じゃあねーんだ。

 商売だったら、よそいってやってくれないかい?」

「あーらー?

 あたし、商売女に見えちゃう?

 これでも結構、お堅いお仕事しているつもりなんだけどぉ……」


 ばたん。


「すいません! こちらに胸が大きくて、耳がとがっていて、この寒いのに露出度の高い衣服を着た女性が来ませんでしたか……。

 って、リリス博士!

 こんなところにいたんですか!

 歩いている途中でいきなり消えたりするから、探しましたよ!」

「はぁーい、レキハナくん、さっきぶりぃー。

 おいしそーな匂いにつられて、ここに入っちゃいましたよぉ。

 よさそうなお店だから、今夜はここでいいわよね?」

「え?

 ……あれ?

 昨日の……帝国官吏、さん?」

「ああ、ギルドのみなさんと、迷宮の案内をしてくれた冒険者さんでしたか……。

 奇遇ですね」

「この女性の方と、お知り合いですか?」

「……ちょうどいい。

 みなさまにもご紹介しましょう。

 こちらは、リリス・マグダル博士。

 帝国学院に籍をおく比較異族言語学の権威であり、同時に、嘱託職員としてわれらに協力をなさってくれる学究でもあらせられます。

 ぼくを追いかけるようにして帝都を発したのですが、今日の午後、この町に到着しまして……」

「それは、つまり……」

「ええ。

 今回の、迷宮内で発見されたヒト型異民との接触業務でも、重要な役割を果たしてくれるものと期待しております」

「こっちとしても、貴重なフィールドワークになる予定なんだけどねん」


 はむはむ。


「わわ。

 ちょっと、耳を甘噛みするのやめて!」

「えー。

 いいじゃん、減るもんじゃないしぃ」

「そんな、体をおしつけないで。

 当たっている。当たってますよ。なんか弾力のある球状の物体が……」

「当ててんのよん」

「……この人、本当に偉い学者さんなんですか?」

「残念なことに、この分野では当代随一と呼ばれている碩学であります。

 ご高名は以前より耳にしていましたが……わたしも、ご本人がまさかこのような方とは夢にも思わず……」

「ま、まじでやめてくださいって……」

「ここ? ここが、乳首が弱いのん?

 うりうり……」

「……本当にこの痴女が、そんな偉い学者の先生なんですか?」

「まことに遺憾なことながら、こと異族比較言語学を語らせたら、帝国内にこの方の右にでる者はいません」

「そんなことよりもさあ、レキハナくぅん。

 おねーさん、さっきこの子たちのおはなしをきいてたら、ちょっと気になることに思い当たっちゃったんだけどぉ……」

「……あまり期待していませんが、一応、お聞きしておきましょう。

 なにに、思い当たりましたか?」

「レキハナくん、一応、帝国官吏だったわよねぇー」

「一応、ではなく、歴とした帝国官吏です」

「この子、見た目二十前後だと思うんだけどぉ、この子が物心つくかつかないかという時期……おそらく、三歳から五歳前後から、おおよそ十年前後、なんだかよくわからないご老人に養育されていたんですてぇ」

「それが、なにか?

 捨て子は珍しくもないですし、わざわざ捨て子を拾って養う有徳の御仁も、数は少ないものの、まったくいないというわけでもない」

「でも、この子を拾ったお方の風体と時期を考えると、ちょっと心当たりがあるっていうかぁ……。

 ちょうどその頃から、単騎で、何頭かの犬をつれて、人目を避けるようにして帝国辺境部をさすらっていた……そんな人は、珍しいんじゃないかなぁ、って……」

「……いったい、だれのことを……」

「ヒント。

 当時、小さかったこの子からみて、じじい、だったそうだけど……まあ、実際は壮年ってところでしょうね。

 長旅で普段から汚れていたり髭が延び放題だったりしたら、ただでさえ実年齢よりもかなり年老いてみえる。

 それからねえ、この子の育て方がちょっと変わっていて、猟をするとき、犬といっしょに猟犬代わりに使っていたっていうんだけど……子どもをこういう風に鍛える人って、そんなに多くないと思うんだぁ」

「……逆算すると、十五年ほど前から……。

 ま、まさか……」

「その顔をみると、うん、レキハナくんもあたしお同じ方を思い浮かべたみたいねー。

 時期的にも、符合するしぃ……

 まことに残念なことに、この子を育てた方は、五年くらい前にお亡くなりになったそうだけどぉ……」

「い、いや、リリス博士。

 まだ、これだけの材料から明確に判断できないかと……。

 そこの冒険者の……ああ、シナクくんとか、いいましたっけね?

 その方が遺したものとか、なにか、持っていやしませんかね?」

「ちょ、ちょっと待って。

 昔、恵んでもらった古い短剣が、鞄の底に放りこんだまま残っていたはずだと思うけど……。

 その前に、本当、背中にぐにゃぐにゃはりついているこの人、なんとかしてぇ!」

「あら、ざんねぇん」

「……ふぅ。

 あんまり古びていてから売れないだろうし、それなりに思い出もあるから捨てるのにも忍びないんで、鞄の中に放り込んでそのまま忘れていたけど……。

 あった

 これ、だけど……」

「……これは……」

「柄頭にある、百合と蜘蛛の紋章……。

 間違いないようねん」

「本国に報せたら、大騒ぎになりますね」

「それを公が、いいえ、この子が、望むものかしらねぇ?

 あたしぃ、生前の公とはご縁があって、少々お世話になったりもしていたんだけどぉ……。

 公の性格だと、むっと不機嫌な顔をしたまま、

『捨て置け』

 の一言だけで、片づけていたと思うのよねん。

 あの方、美名と面倒な事柄すべてがお嫌いで、ほとんど憎んでいらしたから……」

「ええっ、と……先ほどからなにやらはなしが見えないのですが……お二人は、いったい、誰のことをおはなしになっていらっしゃるのですか?」

「端的に、事実だけどおはなししますと……。

 この短剣は、間違いなく……二十年前に家督を譲っていずこかへと出奔なさった、現皇帝の兄上のもの……ということになります」

「……え?」

「つまりこの冒険者の方は……まことにいいにくいのですが、その、自動的に……帝族の養子、というお立場に、なるわけでして……」

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