17.しごとがすんだらいっぱいのもう。
「昨日の件で迷宮内の魔力がかなり増大したから、あと五十前後は、余裕」
「そんなに!
ますます、助かる!
じゃあ、ちょっとこの地図をみて。
まずは、ねぇ……」
しゅん。
「終わった」
「じゃあ、次は、この地図でいうと……ここに跳んで!」
「……まさか、ついてきて直々に指示をするとは思わなかった」
「なによ。
わたしがついてきちゃ、悪いってわけ?」
「別に、悪いとはいってないけど……ほかの仕事は、いいのか?」
「いいの。
昨日から今朝にかけての混乱は、おかげさまでかなり収まってきているし……」
「跳ぶ」
しゅん。
「……それに、あんたの奥さんがびゅんびゅん飛び回ってくれたおかげで、邪魔な死体もかなり片づいて、通りやすくなったし……。
っていうか、あんたの奥さん、いったいいくつレアなマジックアイテム持っているのよ? あれ、身体能力以外ににも、いろいろ補正しまくっているでしょ?」
「さあ……。
正確なところは、ぼくも把握していませんが……なにしろ、先祖代々コレクターをやってきたとかいっていますからねぇ。膨大な数であることは、確かなんですが」
「まったく……あるところにはあるっていうか、世の中って不公平にできているわよね。
あ。
そこ。
その、十字路のど真ん中に設置してくれると、便利がいいわ。
ここの転移陣は、ここから迷宮出入り口付近への一方通行でお願い」
「了解」
「外からみても、ルリーカがぼーっと突っ立っているようにしかみえないな」
「魔法に関することについては、門外漢にはうかがい知れないところがありますね」
「ちょっと。ランタン、ちゃんと地図の上にかざしてくれない?」
「ああ。
すまん」
「魔法について、魔法のセンスを持たない者にうまく説明するのは難しい。
たとえると、目のみえない人に、色について説明するようなもの。
うまく説明しようとすればするほど、的外れなものになりがち」
「そんなもんか」
「もう、終わったの?」
「作業自体は、終了。
ただし、うちこんだ魔力タグが完全に空間に定着するまで、もう少し時間をおいた方がいい」
「はい。ご苦労様。
あといくつくらい設置できそう?」
「あと、三十以上は、可能」
「じゃあ、余裕をもって、あと三十箇所以内に納めるように考える」
「定着終了。
次の座標へ」
「はい。
次は、ここ……」
しゅん。
数時間後。
迷宮出入り口付近。仮設管制所。
「お疲れさま。
もういい時間だし、今日はここまででいいわ。
明日は、相互通行型の、こっち側の出入り口を設置するところからはじめましょう」
「了解」
「護衛っていっても、結局、出番なかったな」
「そういう、まったくモンスターと遭遇しない日も、わりと多いですよ」
「そぉかぁ?
おれなんかは、そういう日はほとんど記憶にないんだが……」
「人夫たちのはなしによると、人通りが多いところとか、人が大勢いるところには、モンスターもあまり寄りつかない傾向があるみたいね。
もちろん、この傾向も絶対とはいえないんだけど……」
「冒険者の心証としても、その傾向はあると思います。
シナクさんのエンカウント率が比較的大きいのも、そのせいなのかも知れませんね」
「さすがは、ぼっち王」
「なんだか、すごく馬鹿にされているような気がする。
それはともかく……この術式、できればもう少し実地で試してみたかったんだが、明日以降にお預けだな」
「焦ることもないでしょう。
なんならシナクさん、試しといわず、さっそくひとつ、術式付加の武器、買ってみませんか?」
「ああ、そうだな。
遅かれ早かれ、手に入れることになるだろし……今夜にでも、コニスと相談してみるか。
できれば、この、塔の魔女からもらった短剣に、術式を刻んでもらいたいんだが……なにしろ、切れ味ならこいつが今まででダントツだからな。
こいつ、昨日あれだけ酷使しても、刃こぼれどころか、曇りひとつついてやしねぇんだぜ?」
「みたところ……魔法のたぐいは、かかってない」
「そうなのか?
じゃあ、単純に、ものがいいってだけのことなのかな?」
「われわれにとっては未知の鍛造技術とかが使用されているのかも知れませんね」
「まあ、魔法ではない、っていうんなら……そういうことになるんだろうな」
「ところで、今晩、これからどうします?
いつものように、マスターのところに……」
「ああ、いこう。
たぶん、コニスも寄るんだろう?」
「おそらくは」
「ちょっと待って!」
「……ん?」
「あんたたち、これから飲みにでもいくの?」
「まあ、そういうことになるか……。
飲むのが目的いうよりも、あくまでそいつはついでで、情報交換とか打ち合わせとかがメインになるんだけど……」
「興味あるから、わたしも一緒にいく!
すぐに支度がするから、ちょっと待っていなさいよ!」
「いや……別に、いいけど……」
「……本当に、待ってなさいよ!」
「いやあ、彼女も、攻めにきましたねえ」
「どゆこと?」
「さあ?」
酒場、羊蹄亭前。
「ここが、あんたたちいきつけの……」
「ああ。
マスターが、元冒険者でな。
話題があうし、今の時間だとまだ早いから、ほとんど常連しかいないから静かなもんだし……」
ぎぃ。
「……だぁかぁらぁ、ねぇー。
わたしもー、別に、困らせようとしていたわけじゃなくてね……」
「わかった、わかりましたから、ギリスさん。
もう少し静かに飲みましょう。
ね? ね?」
「いけますね、この味つけ。
少し濃いめだけど……」
「だろ?
ここで出すとなると酒のつまみになるからな。どうしても、味は濃いめになりがちなんだが……」
「そこなんすよね。
うちとこの保存食も、もう少し薄味にしたいところなんすけど、塩分控えめにすると今度は日持ちの方に影響してくるし……」
「ふはははははは」
「わはははははは」
「ギルド事務員の慰労会と重なったのは偶然だが、おぬしらも明日からお世話になる身。
ここの払いはわたしが持つから存分に楽しみ、交遊を深めるがよい!」
「「「「「御意!」」」」」
「……ぜんぜん、静かじゃねー……。
ってか、前にもこのパターン、なかったか?」
「なにぶつくさいってのよ。
はやくはいりな……」
「あー!
シナクくん、みっけ!」
「え?
こっちに来なさい是非来なさい」
「あっ。
マルガ……さん?
なんで、シナクさんと一緒に……」
「い、いや。
そういうのじゃなくて……。
ほ、ほら、レニーとかルリーカとかも一緒だから。
うちの主要冒険者がよくいく店というやつを、後学のために一度みておこうかなー、って……。
それはともかく!
あんたたちこそこんなところでなにを!」
「こんなところで悪かったな」
「すねるな、マスター」
「今日は珍しく大入りですね」
「珍しく、は、余計だ。
みんな、いつものでいいな」
「ああ」
「はい、それで」
「よろしく」
「ちょ、ルリーカちゃん!
あんた、なにさりげなくシナクの膝の上に!」
「これ、指定席」
「ん?
ルリーカ、ちっこくて軽いから、別に邪魔にはならんぞ?」
「そういうはなしじゃないっ!」
「あっ。
どうも。こんばんわっす。
昼間はちょっち、見苦しいところをみせちゃって……」
「いえいえ。
ここは酒の席ですから、そんな深刻にならずに……」
「なぁなぁ、マスター。
なんで、剣聖様んところのメイドさんたちとギルドの事務員さんたちが、鉢合わせしているわけ?」