8.なんじにてきせいありや?
「そこで現在、武術、探索などいくつかの項目にわけて冒険者ひとりひとりの適性を何段階かにランクづけする案がだされています。
ギルドでの仕事をしたことがある方に関しては、過去の実績から判断できます。報酬の支払い記録をたどれば、モンスターの討伐記録からこれまでに探索してきた面積など、かなり詳細なデータが残っていますので、判断する材料にはことかきません。
これらの適性レベルをもとに、それぞれの資質にあったお仕事をギルドから斡旋させていただく、という形になります。場合によっては、パーティメンバーを紹介させていただくこともあるかも知れません。冒険者ロスト率の抑制、という観点からみると、特に経験がない方に、最初からソロのお仕事は頼めませんから。
これからお仕事を開始される方に関しては、いくつかの適性試験を受けていただいて、最初のうちは低レベルのお仕事から斡旋していきます。
ただ、武術ランクに関しては、剣聖様ゆかりのあの方々に検定業務を委託する予定ですので、かなり正確に腕前のほどが推し量れるかと思います。
例えば、武術ランクが高くて経験に乏しい方は、商隊や採取パーティの護衛、迷宮内の巡回任務などから徐々にお仕事に慣れていただくわけです。反対に、武術ランクが低くても、そのほかの適性が高い方の場合、その他のお仕事も、これからならご紹介することができます。
物品の加工や精肉、革皮加工などの職人、流通、接客や販売など、今、この町では、たいていの業種で人手が足りなくなりつつあります。希望者の適性に応じて、そうしたお仕事も、ギルドで仲介可能です。
こうなるともう、冒険者ギルドといってしまっていいのかどうか、迷うところですが……」
「もともと、迷宮に出入りする人夫さんたちも、ギルドの差配で働いているわけですしね。仕事を求める人と人手を欲しがる側、その仲介をするのなら、誰にも文句はいわれないでしょう」
「ええ。
異業種の場合、ギルドはあくまで仲介するだけで、具体的な雇用契約は、それぞれの当事者同士で結んで貰う形となります。クエスト依頼のときのように、掲示板に雇用条件を張り出してもらい、それに納得がいけば、お仕事を探している人が直接相手方に出向いて交渉して貰う……という形になるかと思いります。
とはいえ、こんな交通の便が悪い場所にわざわざ出向いてくるような方にとっては、やはり冒険者の高額な報酬が魅力なのでしょうから、最初からそっちに向かう方は、少数派だと思いますが……」
「ま、危険手当込み、最低保障もなし、あくまで実績に応じた分しか貰えない、完全出来高の報酬なんだがな……リスクが見えない素人さんには、たいそう魅力的にみえるのかも、しれない」
「でも、ギルドによって適性なしと判断された場合でも、冒険者以外の受け皿が用意できるのは、長期的にみて、意外に大きいのかも知れませんね。
シナクさんによると、冒険者になろうなんて方は、たいがいが食いつめた人だそうですから……」
「ああ。
育ちのいいレニーあたりには、あまりピンとこないのかも知れないが……せっかくこんな田舎まで来て、はい、冒険者としての仕事がありませんでした、この町では食えませんでした……なんていうのよりは、それでも断然マシってもんだ。
どうしても冒険者への道あきらめきれなければ、ほかの仕事をしながら、地味で報酬も低い採取クエストをときおり引き受けて実績を積み上げる、ってルートも用意されているわけだし……」
「ギルドとしましても、最初に適性をはかる以上、適性ありと判断した方については、ある程度自力で稼げるようになるまで、各種のバックアップをすることになります。
先ほどもおはなししました各種講習や訓練のほかに、数日間の食事と寝泊まりする場所のお世話も、希望者には提供する予定です。あくまで最低限のものになりますが、幸いなことにその程度の補助を提供できるていどには、現在のギルドは潤っていますので……。
それに、人材の確保と育成は、どの道、ギルドにしてみれば、長期的な課題です。あだやおろそかにするわけにはいきません」
「そりゃあ、いいんだが……というか、まことに結構なことだとは、思うんだが……。
その、そこまで大がかりにやっちまうと……上の、お役所の反応とかは、どうなんだい?
その、縄張り的な意味で、怒られたり睨まれたりは、しないの?」
「ああ。
そちらについては、とくに問題はありません。
鉱山が閉鎖されてからこっち、この町の行政業務は、領主様が雇った代官に丸投げ……もとい、一任されています。領主様は放任主義で、税収が滞らなければなにもいってこないと、代官は保証してくれました。
また、代官自身は町全体の税収が目に見えて増えていることを、たいそうお喜びになっています。代官の収入はこの町の税収の何パーセントとかの取り決めを、領主様とかわしているそうで……つまり、税収があがり続けている現在時点では、悪い反応を引き出す要素がありません。
ただ……次の決算期以降、ひょっとすると、具体的な税額をチェックした領主様が、さらに欲を出して何事かをいってきたりする可能性も、将来的にはあるわけですが……」
「ありえますね。
ですが、決算期までまだ時間がありますし、領主様のご機嫌を伺う方策はいくらでも思いつきますので……今後、どうとでもできるでしょう」
「レニー、そういうのは得意そうだもんな」
「では、領主様対策は、レニーさんにお願いします。
……もともと、そういうのはギルドの職分には含まれていませんしね。
ギルドが計画していることに関しては、今のところ、こんな感じになるわけですが……ここまでで、なにかご質問はございますか?」
「あの……今さら、なんだけどさ……。
なんで、ギリスさんは、さ。
一介の冒険者であるおれたちみたいのに、わざわざギルドの内情とか計画とか説明して、意見とか求めているわけ?」
「ええっと……。
その……説明しなければ、わかりませんか?
一応、流れでギルドの事務方筆頭、なんて肩書きをつけていますが……わたしは、これまでこういう業務を経験したことがありません。冒険者の登録とか、報酬金額の算定とかは前例に倣って機械的に処理をしていけばいいだけのことですが……それ以外のお仕事については、ほとんど、手探り足探りでやっているのが現状です。
わたしみたいな小娘に、こんな大金を任せて貰える職場なんて、そうそうありませんよ。その重圧が、想像できますか? みなさんの報酬から推察できることと思いますが、今、ギルドを通過していく金額は、ちょっととんでもない金額になるんですよ?
事務方のほかの子たちはたいがい商家の出ですから帳簿とかには強いけど、全体の流れをみた上で新しい施策を考案する能力には欠けますし、その他のギルド職員はほとんど渉外員……つまり、町の外に出て、ギルド経由で売りに出される物品を少しでも高く売りつけてまわる営業さんです。
レニーさんはお上の事情に明るし、為政者の発想とか考え方を熟知していますし、コニスさんとルリーカさんは、それぞれ、商人あるいは魔法使いとしての専門知識をお持ちです。シナクさんは、生粋の冒険者というだけではなく、塔の魔女さんとのコネクションとか、ときおり意外な発想をしてくれます。
みなさんは、わたしにとって、それぞれ重要なブレーンです。
そんなみなさんを、わたしがあてにしては、いけませんか?」