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6.めいきゅうこうりゃくこうしゃ。

 どさどさ。


「これが……全部?」

「ええ。

 筆記したものになります」

「こんなに、あってもな……。

 そもそも、冒険者になろうなんてやつらの大半は、文弱か文盲だ。いくら資料を用意しても、目を通してくれないようなら、それまでなんじゃないか?」

「それは……そうかも知れませんが……」

「やるんなら、できるだけ簡単な、誰にでもわかる言葉で要約して……場合によっては図解とかして、どんな馬鹿にでも飲み込めるようにしておいた方が、無難だと思いますがね」

「そうですね。

 では、ギルドの事務方でそのような方向にまとめておきますので、監修をお願いします」

「監修?」

「出来上がったものの、チェックです」

「まあ、そのくらいなら……」

「武術の方に関しては、剣聖様ゆかりのメイドさんたちの協力を仰ぐことが、正式に決まりました。

 あくまで受講を希望する方のみを対象としてものになりますが、剣聖様のネームバリューと、それに、ちょうど先ほどデモンストレーションが功を奏して、主として現役の冒険者の方々からの問い合わせがさっそく来ています。

 これから具体的なスケジュール調整に入るわけですが、今の段階から定員オーバー気味の反応ですね」

「まあ、おれなんかもそうだけど、冒険者の大半は食うのに困ってやっているわけだからな。

 剣術やら戦闘方法を正式に習った経験がある方が、少数派だろうな。

 習う機会をギルドが提供してくれるっていうんなら、渡りに船だろう」

「あとは、簡単な応急処置など、負傷時の対応法などについても、ギルドに所属している冒険者の方には例外なく、数ヶ月に一度、講習を受けていただくことを義務づけます。

 消毒の概念とか止血方法を徹底して教えるだけでも、かなり違ってくるはずですし、発注していた応急手当キットも、ようやくまとまった数がそろいはじめました。

 さほど高価なものでもないので、最初は代金を賞金から天引きした形で、順次配布する予定です。それ以降は、同様のものを他の消耗品と並べてギルド直営の売店で販売します」


「冒険者の方への教育による底上げについては、現在のところ、こんな状況ですが……あとは、売店とか、迷宮内の各種施設の設置について、ですね。

 といいましても、そんな大がかりなものでもないのですが……昨日の一件でも痛感しましたが、やはり、迷宮内に、いくつか分散して物資を備蓄しておいた方がいいという意見が強くなりました。

 具体的にいうと、保存食や水、医療品、いくらかの武器などを、迷宮内の主要な箇所に分散して置いておき、気軽に補給を受けられる状態にする、ということですね。小規模な売店を迷宮内にいくつも開店する、ということになります。もともと、有事の際の支援物資確保が主目的なわけですから、物資の価格はできるだけ抑えます。一種のチェーン店になりますから、扱う物資も大量に発注するのが前提です。必然、単価もかなり下げることができるでしょう。

 この場合、問題となるのは、扱う物資の流通を保持し続けること、になるわけですが……これについては、ルリーカさんと相談の上、段階的に転移魔法陣を増やして交通網の拡充をはかり、移動時間を短縮する方向で考えています」

「昨日一日だけでも、迷宮内の魔力濃度は、かなり濃くなっている。

 おそらく、今、ギルドが構想しているよりも、多くの魔法陣を設置できるはず」

「それは幸いです。

 詳細については、のちほどじっくり詰めていきましょう。

 どもみち、あと数日は昨日の後始末に追われて通常の探索業務はほとんど出来ないと思われますので、すみませんが、ルリーカさんにはお時間をいただいてギルドの相談に乗っていただきたいと思います」

「それはいいんだが……今朝、レニーともはなしていたんだが、このままギルドの規模が大きくなり続けて、仕事が増え続けるとなると……いい加減、いつまでもルリーカ一人に頼り続けるってのも、危ないんじゃないのか?

 ほかの魔法使いを増やすあてとか……ギルドの方で、ないの?」

「一応、求人はかけているのですが……なにぶん、魔法使いの数自体が極端に少ないので、たいていの魔法使いはすでに所属が決まっている状態でして……所属先の各機関も、よほどのことがなければ、手放しはしませんし……。

 むしろ、シナクさんのお友だちの、例の塔の魔女さんに頼めたりは、しないんでしょうか?」

「ああ。無理無理。

 だってあれ、引きこもりでここ何百年か、まともに人づき合いしていないってはなしだし……」

「……ですよねー」

「まあ、念のため、今度、聞いてはみるけどな」

「なんとか、なるかもしれない」

「ん?

 どうした、ルリーカ」

「現在、迷宮の中は、今までにないくらい、魔力が濃くなっている。

 塔の魔女の仮説が正しかったら、今後も、魔力は集まり続ける道理」

「だな」

「ということは、迷宮内でなら、適切な条件さえ整えれば、本物の魔法使いでなくとも、魔法を使用することが可能。

 現に、今設置している魔法陣だって、一度設置したら、周囲の魔力を吸い上げて自動的に作動し続けている」

「つまり……どういうこと?」

「今、ギルドに必要なのは、正確には魔法使いではなくて、魔法の知識を使いこなせる人材」

「ええっと……それは、どう違うんですか?」

「前者は、迷宮とか特殊な環境でなくとも、魔法を使える。

 今の迷宮は、単独で魔法を使えないものでも、適切な知識さえあれば、魔法を使用できる。

 必要とされるのは、単独で魔法を発動する能力ではなくて、正確な術式を記述できる能力」

「あっ……。

 そういう、ことですか……。

 でも、魔法の研究者だって……魔法使いに負けず劣らず、レアな人種になるわけですが……」

「そこで、塔の魔女に頼む」

「あれに……か?

 おいおい。

 あんな、とうの昔に人間やめちまったやつに頼みごとなんかしちまったら……あとが怖いと思うぞ」

「塔の魔女その人に、不相応な知識を求めるのなら、その通り。

 しかし、魔女自身の、先進の知識ではなく……われわれにとっても既知の、むしろありふれた術式を正確に記述できる者を供与するよう、求めるのでは、意味は違ってくるのではないか?」

「あれに……そんな知り合い、いるの?」

「いなければ、作って貰う。

 この場合、正確な術式が記述できるのなら、ヒトでなくても問題ではない。

 魔女は、かつて、剣聖の知性剣の制作に荷担している。つまり、知性あるものを創製することが可能であると推測。

 あるいはすでに、手持ちのゴーレムの中に、必要な性能を持ったものがいるのかもしれない」

「それを貸してくれ、と談判するわけか……。

 でもよ。

 あの気まぐれなのが、あっさりこっちの思い通りに動いてくれるもんかな……」

「取引をする。

 塔の魔女の、もっとも強力な行動原理は、好奇心。

 ギルドは目下、塔の魔女でさえ全貌を掴んでいない、謎の存在を抱えている」

「それって……迷宮……のこと、か……」

「魔女に協力を呼びかけ、かわりに……一緒に迷宮の謎を解明しませんか? と、提案する。

 一種の、提携事業」

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