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5.きょぞうのえいゆうと、ぎるどのほうしん。

 ぺた。

「右手、人差し指から小指まで四本、飛んだ。

 これで、右手の握力は死んでるね」


 ぺた。

「左目、死んだ。

 よりによって、顔の真ん前を防御できないのって、冒険者としてどうよ?

 おっさん、よく今までロストしないですんでいるな」


 ぺた。

「今度は、わきの下にはいった。

 肩胛骨までいっているから、本来なら今後、片手が使えない。

 おっさん、馬鹿なの? 死にたいの?」


「……地味にきついな、これは」

「ゼリッシュの野郎、最初のうちは勢いがあったのに、だんだん目が死んでいくんだが……」

「やつは人狼だからなあ。

 もともと半端ない回復力持っているし、滅多なことでは致命傷を負うこともない。

 それをいいことに、回避とか防御を軽視すすぎたツケが、この有様だろう……」

「生来の体質をあてにしすぎた結果が、これか……」

「ゼリッシュの力任せの攻撃を、避けたりいなしたりできるやつなんて、そうそういるっもんじゃないんだが……あのぼっち王が相手じゃあ、いくらなんでも相性が悪すぎる。

 あのぼっち王は、ゼリッシュの何倍も体が大きくて強力なモンスターを、普段から単身で狩り続けている男だぞ。

 多少なりとも分別があれば、なんの勝算もなくつっかかっていくことはないんだが……」

「まあ、あれだ。

 いいたくはないが、今回の件は、ゼリッシュの野郎が、あまりにも考えなしだったんだろう……」


「ぼっち王よ。もうそろそろいい頃合いだろう。

 その人狼の心を、完璧にへし折ってやれ。

 そやつは一度、ただのヒトに完敗しておいたほうがよい」

「へいへい。

 剣聖様が、ああ仰せだ。

 おれの趣味じゃないけど、少し派手にいくよ」


 とん。


「……ゼリッシュが振り回している棒の上に……乗った?」


 たっ。


「あっ。

 顎、蹴り上げた」

「こめかみにも、もう一発」


 だん。


「あっけなく、沈んだな」

「いいように頭を揺すぶられたんだ。

 いくら人狼が頑丈だといっても、脳味噌自体は普通のヒトと大差なかろう」

「案の定……起きあがる様子がないな」

「あれが……ぼっち王のやり口か……」

「同じ冒険者として、その……」

「ああ。

 おれたちとは、段違いもいいところだ。

 見かけだけをみれば、派手に棒を振り回していたゼリッシュのが、断然、迫力があるんだが……」

「ぼっち王の動きは、一見したところ、ゆっくりと静かにみえるんだが……それでも、いつの間にやら、適切に攻撃を当てているんだよな」

「ダメージを受けずに、着実に相手にダメージを与え続ける。

 軽戦士としては、理想的な戦い方だ」

「あれなら、今までソロでやり続けたというのはなしも、それに、昨日の件……ほとんんどあいつひとりでやったとかいう例の噂も、まんざら嘘ではなさそうだな」

「結局、あの大量に出てきたのって、最終的に何匹になったって?」

「まだ、最終的な確認はとれていないみたいだが……今まで判明しているだけで、五百は軽くくだらないそうだ。

 下手すると、千を越えているかも知れないとよ」

「そんだけの大群を、あれ一人でちまちま手傷を与え続けたってのか?」

「正気の沙汰じゃねーな」

「まったくだ。

 例えば、ゼリッシュのやつが相手ならば、おれたちが何人かでパーティを組めば、どうにか出来そうだが……」

「ああ。

 ぼっち王を相手にするとなると、おれたちが何人集まっても、どうにも出来ないまま、いつの間にか全滅していそうな気がするな」

「さっきのメイドたちの様子、みてただろ?

 おそらく、あんな感じで、すぐに片づけられるさ。

 あのメイドたちにしたって、おれならすぐに負ける自信があるぞ」

「おまけに、あいつの背後には、あの剣聖様がいるみてぇだし……」

「どっちかひとつでも、適いやしないのに、あの二人がつるんでいるとなると……」

「まあ、間違っても、敵に回さない方が、無難だろうよ」


「剣聖様。

 こんなもんで、満足っすか?」

「ああ。十分だ。

 これ以上の挑戦者も出てくる様子はないし、民草にとっても、少なくとも一人は頼りになる冒険者がいると実感できたことであろう」

「まったく……こういうのは、おれの趣味じゃないんですけどね……」

「ぼやくな、ぼやくな。

 こういう時期だからこそ、漠然とした不安を打ち消す存在が必要なんだ。たまたまおぬしがこの時期、この場所に……ちょうどいい立ち位置に存在した、というだけのことだ。

 そういう星まわりを恨んだところで詮無きこと。そういうものだと割り切って、受け入れておいた方がいい」


「……これでご用件は、お済みでしょうか?」


「ギリスさん」

「はい。

 もしお手すきのようでしたら、シナクさん、レニーさん、コニスさん、ルリーカさんには、ギルド本部までご足労願えませんでしょうか?

 今後のことでちょっと、おはなししたい案件がいくつかございますので……」


「ええと……塔の魔女さんの、迷宮に関する仮説、それに、レニーさんが聞いたという、王国中枢の動きに関して、大量発生モンスターの死骸の仮置き場として、コニスさんのアイテムを利用させていただくおはなし、確かに承りました。

 といいましても、ギルドとしては最後の一件をのぞいて、今すぐなんらかの対策を打てるおはなしでもなさそうですが……」

「ですね。

 当面は、今まで通りでいいかと思います。

 ただ、今の時点でそういう情報があるということを、ギルドが把握さえしていれば」

「ええ。

 ギルドといたしましては、もっと差し迫った問題がいくつかあります。

 まず、昨日発見された、別の世界に通じているとかいう門について。

 基本方針としては、当面の間、封鎖することにしました。そのために必要なものの準備も、すでにはじめております」

「具体的に、どうする予定ですか?」

「広間から出たところに詰め所を設置し、二十四時間体制で常時、数名の見張りをおきます。あそこには迷宮出口に直通する転移陣がすでに敷設されていますので、有事の際には見張りの者が警告を発し、注意を呼びかけることになります。

 それ以外に、職人さんに提案された地雷というものを、試験的に設置する予定です」

「地雷?」

「地面に敷設するタイプの、発破ですね。

 その上を踏むと、爆発する仕掛けです。今回は炸薬の上に細かい鉄くずを置いて、さらに威力を増すとか聞いています。

 これを、あの門の前の広場に、びっしり敷き詰める予定です。

 そうすれば、たいていのモンスターは、あそこで足止めできるでしょう」

「なるほど」

「それと、みなさんには、他の冒険者さんたちのレベル底上げについても、引き続きご協力願えませんかと……。

 先日から、試験的に新人教育にご協力いただいているわけですが、その成果か、昨日の一件でも、騒ぎの大きさからすると奇跡的なことに、一人も死者がでませんでした。残念なことに、若干名の軽傷者は出てしまいましたが……みなさんが指導した新人さんたちについていえば、実質、被害はゼロです」

「と、いわれましても……これまでの時点で、教えられることはすべて吐き出しているようなものですが……」

「これまでの講義内容は、すべて口述筆記という形で保管されています。それに目を通して、必要とあれば訂正や補足をしていただいて……。

 いうなれば、そう、教本の作成、ですね。

 特に安全確保を最重視する、シナクさんが担当した部分を、ギルドは高く評価しています」


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