6.おでかけのじゅんび。
「ついに吹雪がやんだ」
「おお。ついに!
ようやく、町に帰れる!」
「ちょっと待て、抱き枕。
帰るのはいっこうに構わんのだが、そのメイド服のままではいろいろと都合が悪くないか?
お前さん的に」
「ああ。
そういや、当座の着替えを探してもらったけど、塔の中にはヘンテコアイテムばかりでまともな服がないことが判明したんだっけな……。
このナイフは、なかなかの収穫だったが……」
「もしよかったら、わたしの服を貸してもいいんだが……」
「あんたの白衣とか魔法使いの長衣とか、おれが着ると裾を引きずるんだよな。
第一、町中でひとめで魔法使いとわかる服装をしていたら、なにかとトラブルに巻き込まれそうだし……」
「外では、まだまだ魔法使いは迫害されているのか?」
「迫害、とまではいかないけど……警戒は、されているかな?
圧倒的に人数が少ないし、一般人には逆立ちしてもできない奇跡をあっさりと起こしてみせるし……。
危険視されている分、報復や反撃をおそれて直接手出しをされることはまずないんだけど……逆に、魔法使いにしか出来ない仕事をいきなり往来で頼まれたりする」
「ふむ。
それで、下手に断ったりすると、トラブルになる可能性があるか」
「本物の魔法使いが魔法使いの格好してうろついているんなら、なんの問題もないんですけどね。
魔法を使えない者が魔法使いの格好して町中をうろつくのは、どうぞいちゃもんをつけてくださいって看板を担いで歩いているようなもんです」
「それは、困ったな。
わたしは、塔のまわりの森までなら問題はないのだが、人の多い町中までは出られないし……」
「ええっと……それはまた、どうして?
その昔、悪いことでもして、指名手配でもされているんですか?」
「悪いことは今も昔も数えきれないほどしているが、いつでも身バレしないように心がけているので指名手配はされていない。
このわたしが、そんな下手をうつわけがない」
「そんなところで胸を張らないでください」
「問題は、だな……。
その……町中、だぞ? 人がいっぱいいるじゃあないか?」
「いますね。
町中ですから」
「怖いだろ?」
「なにが?」
「だから、人が」
「……なんで、そうなる?」
「だぁーかぁーらぁー!
わたしは、他人が怖いの!
そのために、こんな塔まで造って、絶賛引きこもり中なの!」
「マジで?
そんな理由で?
こんな……デカい塔を造ったってんですか?」
「マジマジ。大マジ。
筋金入りの引きこもりを舐めるなよっ!」
「だから、そういう情けないところで胸を張らないでくださいって。
はぁ……。
呆れればいいのか、笑えばいいのか……。
では、そちらの木偶人形におれの着替えを買って来てもらうというのは?」
「わたくし的にはいっこうに構いませんが、わたくしのようなモノがいきなり町中に現れて普通に買い物とかしたら、町の方々がたいそう驚きなるのではないでしょうか?」
「そうだった。
普通のゴーレムでもかなり珍しいのに、人間とほぼ同じ大きさで、しかも普通にしゃべる木偶人形とかが買い物にいったら……たしかに……それはそれで、騒動になるな……」
「では、こういうのはどうだろう?
抱き枕が、そのメイド服のままでいったん着替えを調達してくる。
というか、これ以外の方法はないのではないか?」
「……あー……。
あんた。
なに、にやけているんですか?」
「なんなら、わたしのメイク道具も貸してやるぞ。
なに、お前さんは、そこいらの娘っ子よりよっぽど可愛らしい顔をしているんだ。自信を持っていい。通りすがりの人から見たら、絶対、お前さんがスカートの中に大層なモノを装備しているとは想像さえしないはずだ」
「褒められているんだか貶されているんだかよくわからないコメントどうもありがとうございます。
念のために聞きますが……この塔に、メイド服や魔法使いの服以外の服は……」
「ないな。皆無だ。
わたしは、この服を着ているか、さもなくば全裸かのニ択だ」
「そういや、寝るときも下着まで脱いでいたな、この人……」
「お前さんが来るまでは食事時でも全裸でしたがなにか?
というか、魔法とか研究をしているとき以外、特に服を着る必要性を感じないのだよな。
自分の周囲の空調その他の環境整備は、魔法を使って常時、快適な状態を保っているし」
「駄目だこの人、早くなんとかしないと……」