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3.ただしくわるだくみをするほうほう。

「正直、その発想はありませんでした。

 目から鱗が落ちた気分です」

「まだまだ考え方が貴族のものだった……ということだな、レニー。

 さて、このわたしは剣聖の称号を得ているものとして、敵対するのは無辜の民を害するもののみ、と限定されている。

 仮に不正を……例えば、派遣先に軍の維持費を負担しろとギルドに強談しておいて、その費用を密かに着服するような罪人に対しても、剣聖としては、私的に制裁を与えるわけにはいかないだ。

 だが、誰とも知れない者が、人知れず勝手にやるのであれば、はなしは別だな。

 例えばわたしなぞも、聖剣を置いていけば剣聖ではなく単なる一人の女にすぎないわけで……仮に、仮にだぞ? もしも本当に、そういう不埒者が、この先現れるとして、どこかの誰かがその不埒者を成敗にいこうとするのなら、だ。

 そのときは一声、声をかけてくれなかったら……恨むぞ」

「あくまで無責任な世間話としてお答えしますと……どこかの誰かも、剣聖様の恨みは買いたくないので、その折りには必ずやお声をおかけすることでしょう。

 で、レニー。

 仮に、そういうことが起こったとして、だ。

 そのさい、被害に遭われた可哀想な軍人さんは、お上に対して、実は無法者におそわれまして……なんて、素直にそう申告するものかね?」

「しないでしょう。

 軍人として、貴族としての面子というものがありますから。

 実力行使に訴えられて力負けしました……などということになれば、その後、軍人としての出世の道が閉ざされるのはもちろんのこと、よくて降格、悪くすれば軍籍や爵位も剥奪。家名にも傷がつきます。

 表向きには急病、ないしは事故にあって任務の続行が不可能になった、ということにすると思います」

「つまり、本人の責任ではないところでおきた、不可抗力の災害扱いになるわけな」

「ええ。

 不可抗力の災害なら、仕方がないですね」

「さらにいえば、だ。

 そういうことが何度か重なるとなると……表向きはともかく、その他の部分ではひそかに不穏な噂が流れたりすることもあるのではないか?

 あそこのギルドに手を出せば、そういうことが起こる……傾向がある、と」

「そこまでいけば、都合がいいな。

 そうなると、多少なりとも要領のいいやつは、その赴任先をいやがるようになるだろうし……それでもこんな田舎にまで出張ってくるのは、あくまで任務に忠実な堅物か、なんらかの理由で上の方に疎まれているやつとかだけになる」

「いわゆる、呪われた左遷先ってやつだね!」

「で、レニー。

 こういうの……実際に出来ると思う?」

「シナクさんなら、余裕でできるでしょう」

「おれだけではなく、ある程度腕がたつ冒険者なら、誰でもできるよ。

 なら、この件については、これ以上、はなすことはないな?」

「ええ。

 あとは……今後、実際に赴任してくる人物についての、情報収集ですね。

 これについては、王宮にコネがあるぼくの領分でしょう」

「ヤバそうなのだったら、はやめに知らせてくれよな。

 あくまで世間話として」

「もちろんですよ。

 もし要注意人物だったとしたら、あくまで世間話として、それとなくその人物が派遣されてくる際の、詳しい日程などをおはなしすることになります。

 そのときには、どこかの誰かさんによろしくいっておいてください」

「二人とも、頼もしい黒さだね!」


「まあ、それはそれとして……だ。

 今日はこのあと、どうする予定だ?」

「昨日の今日ですから、いつもの探索業務とかができるかどうかわかりませんが……なにか手伝えることもあるでしょうから、迷宮の方へは顔を出すつもりです」

「同じく。

 様子をみておきたいってのもあるしな」

「そうかそうか。それなら、ちょうどよかった。

 昨日もはなしたが、うちのメイドたちを使って新入りの冒険者たちに稽古をつけることになってな。

 せめて今日だけでも、ぼっち王には少し手伝ってもらいたいのだ」

「……なんで、おれ?」

「昨日、うちのメイドたちを総なめにしておいてなにをいっておるのか。

 おかげで昨日から一日、メイドたちの機嫌が微妙に悪くて難儀しておるのだぞ。

 と、いうことを置くにしても、だ。

 昨日、おぬしが先走ってほとんど一人で大量のモンスターに手傷を負わせた一件、あれに疑いをかける者が少なくはないようでな」

「確かに……直に見ていなかったら……それに、普段のシナクさんを知らなかったら……にわかには信じられないでしょうね、あれは……」

「おり悪く、昨日、おぬしは、普段とは違って、メイド服を着用していた」

「ええ。

 誰かさんの悪戯心のおかげさまで」

「さらに、昨日は途中から、救援ということでうちのメイドたちも迷宮内を駆け回っていてな。

 そんなこんなで、どうも、昨日のおぬしの働きまでがすべて、最強のメイド服という、都市伝説めいた架空の存在のせいにされかかっているようなのだ」

「ええっと……おれとしては、それでもいっこうにかまわないのですが?

 っていうか、それ以前に、昨日の今日で、よくそこまで巷間の噂ばなしまで詳細に把握されいらっしゃるものですね、剣聖様」

「えして、女子供はその手の噂話を好むものでな。

 うちのメイドのうち、朝市に食材の買い出しにいったものが、早速小耳に挟んだそうだ。

 それで、だ。

 確かに、おぬしはそのままでも構わないのであおろうが……うちのメイドたちの溜飲が、どうにも下がらないようでな。

 是非とも、再度……今度は、衆人環視の元で、おぬしとやりあいたい、と……そのように、訴えられてな……。

 おぬしにしてみれば、いい迷惑であることは重々承知の上だが……ここは、このわたしの顔をたてると思って、ひとつ、頼みを聞いてはもらえないか?」

「シナクさん、モテモテですね」

「……他人事だからって、無責任に面白がっているんじゃねーよ、レニー……。

 あー……そういいうことなら、まあ……正直、ぜんぜん気は進まないんですが……おっしゃるとおりにしてみましょう。

 昨日、あんなことがあったばかりだし、ギルドの連中にとっても、いくらかの気散じになるかも知れないし……」

「見せ物としてみれば、すっごく面白そうだよね!」

「では、早速。

 誰か、ギルドまでひとっ走りいって、ことづけておいてくれ。

 少しあとに、剣聖の名において迷宮前にて規範演武をおこなう、と……」

「はっ!」

「……ちょ……規範、って……」

「なに、難しく考えることもなかろう。

 おぬしの力量を目の当たりにして、それでもなにがしかの異論がある者は、その場で名乗り出てくるであろうからな。

 その際、おぬし自身がその者の鼻っ柱をへし折ってやればいいだけのことであって……」

「おいおい……。

 いくら剣聖様だからって、そんな無責任なことを……」

「安心せよ。

 おぬしの太刀筋は、確かに我流もいいところだが……その分、実戦に鍛えられ、磨き抜かれた凄みというものがある。

 生半可な相手に後れをとることは、まずあるまいよ……。

 なにより、うちのメイドたちがおぬしとの手合わせを心待ちにしておる。

 よほどの理由でもない限り、女の期待には応えておくのが得策というものだぞ……」

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