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1.みなれた、てんじょう。

「……また、このパターンか……」


「剣聖様に、なに貴様わたしの酒が飲めないのかそうかそうかまだいけるだろうそうだろう、とかいわれたところまではおぼえているんだが……。

 なぜに、また全裸。しかも、おまけの二人つきで。

 ……昨日よりも、密着度があがっているし……。

 こいつら、なんでこうもしっかりと抱きついているかな。ほとんど羽交い締めにされているし。これじゃあ、まともに身動きも取れないじゃねーか……」


「……よ、っと……。

 こう、腕をはずして、っと……。

 二人そろって、よく寝ているよな。

 っと。

 脱出、成功。

 ええっと、腰に、タオルを巻いて……昨日からぜんぜん、進歩していない件。

 さて、トイレに……」


 ガチャ。


「おはようございます」

「……おはよう」

「昨夜も、大小二人の魔法使い相手にお楽しみだったようで……」

「いやいやいや。

 楽しんでいないから。

 あいつらとはそういう関係ではないから」

「……え。

 その気もないのに、女性をもてあそんでいらっしゃるのですか?

 はっ。

 ひょっとしてシナク様は、同性の方をお好みで……そういえば昨日も、メイド服がやけに板についていましたし、レニー様ともそれはもう親しげに……」

「いやいやいや。

 なんでそうなるかな……。

 はぁ。

 ご期待に添えずに大変申し訳ないけど、本当、おれたち、そういうのじゃないから」

「存じ上げております。

 ただいまのは場を和ますための、朝の軽いメイドジョークでございます」

「……なんだよ、メイドジョークって……」

「落ちつきましたら、いつでも食堂にいらしてください。朝食の用意はすでに整っております」

「あっ。

 あと、昨日洗濯してもらったとかいう、おれの服は……」

「そちらも、お部屋の方に整えてございます」

「ああ。そりゃ、どうも……。

 ……目下、ここのメイドさんとの距離感をはかりかねております」


「ふぅ。

 で……あった、これか。

 汚れが落ちているだけではなく、なんか生地がふわふわになっているな。

 洗い方に差があるのか、それとも高級な洗剤でも使っているか……。

 ともあれ、ひさびさの自分の服だ。

 ……やっぱ、これが落ち着くよな……」


「魔法使いコンビは……まだ寝てるか。

 見物しかしていない大きい方はともかく、小さい方は、昨日はいつもよりも激務だったもんな。

 もうしばらく寝かせておいてやるか……」


「食堂にいくか」


「おはようござい……」

「「……おにーちゃん!」」

 ドスっ。

「おっ。

 下腹部に、不意打ちが……」

「おにーちゃん、今日はスカートはかないの?」

「昨日、ママたちと枕投げやったって、本当?」

「今日はスカートをはきません。できれば二度とはきたくありません。

 あと、君たちは昨日、早くから寝ていたし、昼間、さんざん雪合戦やっていたでしょう? 夜に遊ぶのは、大人になってからねー」

「知ってるー。

 パパとママ、ときどき二人で遊んでるし……」

「はいはい。夫婦仲がいいのは、いいことですねー。

 ちょっと、椅子に座らせてねえ」

「昨日の今日でずいぶんとなつかれれたもんだな、ぼっち王」

「おかげさんでー。

 っていうか、遊んでくれる若い男が物珍しいだけでしょう」

「いっそのこと、このままうちの子にならないか?

 宿を引き払ってこの屋敷に移ってくるのも、選択肢としては悪くないと思うぞ。ご覧の通り、部屋は余っているし、家事をしてくれるメイドもいる。なによりわれら夫婦が長く家を空けるとき、男手がある方がこちらもなにかと安心できる」

「いいおはなしなのかもしれませんが……今の宿はそれなりに気に入っていますし、なにより、ここに住むとなると無駄に体力を消耗しそうなのでご遠慮させていだきます」

「そうか。無理にとはいわんが」

「わははははは。

 その気になったら、またいつでも声をかけてくれ」

「それはそうと……あれから、ギルドの方からなもにいってきてない?」

「今のところ、なにも」

「ということは、落ち着いているわけね」

「今ごろ、後始末にてんてこ舞いなんじゃないですかねえ。大量発生したモンスターの死骸を整理するだけでも、かなり難儀するはずでし……」

「だよなー……。

 あとで様子見に行って、手伝えることがないか聞いてみよう」

「どこか一カ所に集めてもらえば、この鞄にすっぽりしまえるんだけどね!」

「そうなのか?」

「そうなのだよ、シナクくん!

 同種類のものなら一品目として勘定されるから、いくら入れても容量を圧迫することがないんだね! しかも鞄にいれたものは、腐ったりもしないんだよ!」

「はぁ……。

 マジックアイテムってやつは……いろいろと反則だなぁ」

「処理法とかが確定するまでは、コニスちゃんの鞄に保管する。

 これについては、すぐにでもギルドに提案してみましょう」

「もちろん、保管料はいただくけどね!」

「それくらいは、いいんじゃないか?

 ギルドにしてみても、あんだけ大量の死骸、歩くのに邪魔になるわ不衛生だわで、放置しておいてもいいことなんか全然ないわけだし……」

「ルリーカさんはまだ寝ていますか?」

「ああ。ぐっすり寝ているようだったから、そのままにしておいた。

 おれはよくわからないけど、あれだろ? 魔法使うのだって、それなりに疲れるんだろう?」

「集中力が必要だと聞きます。

 どちらかというと、精神的な疲労なんでしょうね」

「いずれにせよ、ルリーカはまだまだ小さいんだ。幼いといってもいい。

 どのみち、昨日みたいな非常時には酷使されるんだから、普段は無理をさせることもないさ」

「ですよね。

 いくら魔法使いがレアだからといっても……ギルドも今の規模になってくると、ルリーカさん一人だけを頼りするのは、ぼちぼち限界なんじゃないでしょか?」

「レニーって、元貴族様なんだろ?

 知り合いとかに魔法使えるやつとかいないの?」

「魔法を使えたり、研究をしている人には、何人か心当たりがありますが……それぞれ、仕事や地位を持っていますからねえ。わざわざこんな辺境にまで、好んで来てくれるかどうか……。

 ま、ダメもとで、何かのついでに声はかけておくことにしましょう」

「細かいはなしはあとにして、まずはメシを食え、メシを。

 これからのことをどうこうするのにも体力はいる。よく休んでよく食べ、よく遊ぶ者こそが、よく働ける者だ」

「ええ。いただきましょう」

「なんだかんだいって、ここの食事は上等でうまいからな」

「シナクさんが、普段から質素で気を使わなすぎるんですよ。

 食べ物にも着るものにも、最低限のお金しかかけていないようですし……」

「そうそう。

 シナクくん、かなりの実入りがあるはずだけど、その割には全然使ってないよね、みていると。

 ほとんど必要経費のみ、じゃないの?」

「あー。

 別に、意識して倹約しているわけでもないんだが……ぶっちゃけ、これまでろくに稼いだことがなかったから、うまい金の使い方がわからんのだよな。

 酒は弱いし、賭事もしないし……」

「女も買わないし、と。

 冒険者の中には、それこそ無法者すれすれの者も少なくはないし、そのせいか無駄に金遣いが荒いものがほとんどなのだが……」

「ぱーっと稼いで、ぱーっと散財する。

 ちょうど、昨日のゼリッシュさんみたいなタイプのが、断然、多いですね」

「そぉかぁ?」

「ふむ。

 堅実で、稼ぎがよいぼっち王のようなタイプは……はやめに身をかためて、かみさんに手綱を取らせておいた方がいいな」

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