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119.ぜぐすのもんだい。

 迷宮内、射撃場併設合宿場内、秘密会議室。


 しゅん。


「……ルリーカと一緒だと、一気にここに来れるからいいな」

「魔法使い、便利」

「おお、ティリ様と、それにゼグスくんも来ていたのか」

「あの二輪車種族のところにいたのだが、わらわが引っ張ってきた」

「半ば無理矢理に、な」

「ゼグスがいつまでもあの種族に拘泥しようとするからじゃ」

「少し性根を入れて挑まないと、いつまでたってもあれに乗れるようにならない」

「乗用に必要な治具とやらをピス族が用意してからの方が効率がよいのではないのか?

 馬でも、裸馬に乗るのと鞍を置いてから乗るのとでは、まるで勝手が異なるものだぞ」

「……そこのシナクに出来ておれが出来ない事がある、というのが、どうにも承服できないのだ」

「おれか? おれのせいなのか?

 そんなことをいわれてもな。

 ……あんな変な種族の背中に乗れても、あまりいいことはないと思うんだけどなあ……。

 第一、ゼグスくんの方こそ、おれなんかにはとうてい真似できないユニークスキルとか持っているじゃないか。

 力だってなんだって、おれよりは断然上なわけだし……」

「そんなものは……おれが好んで身につけた能力ではない。おれの意志に反して、気がついたら身についていた能力だ」

「ああ」

「うむ」

「この不自然に強靱な体も超自然な能力も、すべて魔王の資質を源泉としている。

 そのおかげで、楽に稼いでいる事も確かなのだが……裏を返せばそれは、この魔王由来の能力さえあれば、このおれ自身にはなんの価値もないということではないのか?」

「……そーゆーこと、か。

 なんとなく、わかるような気がしてきた」

「つまり、ゼグスは……自信を持ちたいわけだな?」

「問題をごくごく単純化していってしまえば、そういうことになるな。

 このまま惰性で冒険者を続けていくのは、それこそ血のにじむような修練を重ねた末、ようやく冒険者としてやっていけるようになった他の元魔王軍兵士に対しても申し訳が立たないような気がして来ている」

「いや、わかった。

 わらわにせよシナクにせよ、幼少時に厳しい修練を積んだからこそ、現在の能力を持つに至ったわけだしの。

 そうした記憶を持たぬままギルドにExランク相当と評価された突出したゼグスは……」

「周囲から与えられた評価と自己評価の間に、かなりの齟齬がある、と……。

 なるほど。

 そうした境遇をラッキー! の一言で容認できればよかったんだろうが……」

「あいにくと、ゼグスはそこまで脳天気な性格ではなかったというわけだな。

 それで、魔法の知識を求めたり、いち早く二輪車族を乗りこなそうとしたりと……」

「全般に底上げされた資質について、今さら文句をいっても詮無きこと。

 だが……今、これから自分の意志で拾得したスキルは、どう考えても魔王に属するものではなく、おれ自身のものだ。

 そう、誰にはばかることなく、胸を張っていうことが出来る。

 今のおれが欲しているのは、そういう、おれ固有のスキルだ」

「筋道は通っておるようじゃな」

「……今のままでも、ギルドは十分にゼグスくんの存在に価値を見いだして利用しているわけなんだがな……。

 それでは、満足出来ないか……」

「満足、か。

 見方によっては、かなり贅沢な望みなのかも知れないが……」

「いやいや。

 贅沢とかそういうことをいいはじめたら、それこそ際限がない。

 持てる者には持てる者なりの、持たざる者には持たざる者なりの悩みってものがあるんだろう。

 傍目にどう映ろうが、当の本人にしてみればどうあがいても深刻なものなんだろうさ」

「幸い、現在のおれは、待機の時間を多く与えられている身だ。

 魔法にしろ二輪車種族乗りこなしにせよ、学ぶための時間はいくらでもある。

 おれになにか用があれば、どこにいようとギルドからの呼び出しはかかる」

「……いいんじゃないかな?」

「そうじゃな。

 前向きなのは、いいことじゃ」

「ルリーカも協力する」


 迷宮内、迷宮日報編集部。

「……こっちに王子様、いるー!」

「騒がしいな。何者だ?」

「ギルド迷宮内勤事務員の、マルガ。

 王子様、早速お願いがあるんだけど……」

「なにがらみだ?

 日報の紙面はそうそう避けぬし、読み書きが出来る人員もおおむね出払って……」

「そういうんじゃなくて、単純肉体労働用の人員、ちょっと多めに融通できない?

 まとまった人数さえ揃えてくれれば、こちらでシフトを調整してうまい具合に座学とか修練の時間もとって輪番をさせるけど……」

「……即戦力にはならない、迷宮に来たばかりの者たちなら、いくらでも用立てられるが……。

 おぬし。

 いったい、なにを企んでおる?」

「働きながら学べる環境づくり。

 迷宮で不足している寝台とか什器とか、制作する上であまり技術を必要とされない製品を分業で大量に生産する。迷宮内での需要が足りてきたら、部品ごとにどこかの倉庫にキープしておいて必要に応じてすぐに組み立てられるようにする。それでも余るようなら、迷宮外に格安で売り出す。

 これまでは、迷宮から外部へ輸出してきたのは製造するのに高度な技術が必要とされるものとかだったけど……」

「有り余るマンパワーと魔力を動力源と使用して大量生産、というわけか。

 ふむ。

 少学舎としても、即金の現金収入を得ながら様々なことを学べることになり、それなりのメリットもある……。

 いや、これまでだって、単純肉体労働の人手はそれなりに供給してきたわけだが……」

「保存食の工場とか迷宮内の片づけとかは、日によって必要とされる人手が増減するわけだし、その点、こちらは毎日一定量の人員を計画的に使うことが出来るので学習のための時間を確保しやすい。

 これは、十分なメリットになると思うけど……」

「具体的な事業計画書は、もうあるのか?」

「そういう準備は、まだまだ全然。

 それよりもこっちの人員がどれくらい動かせるのかを確認してからと思って……」

「まったくスキルを持たない女子どもでもよいのなら、それこそいくらでも斡旋することが出来る。

 国内の行き場のない貧民はだいたいここに集まってきたが、最近では近隣の国から遠路はるばるここまでやってくる者たちが耐えないのでな。

 この分でいけば、あと何ヶ月かは流入してくる一方であろう。

 そうした者たちに、仕事を、すなわち希望を与えられるのならば、こちらとしてもそれは歓迎するところだ」

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