118.しゅこうぎょうたいりょうせいさんこうじょう。
迷宮内、治安維持隊本部。
しゅん。
「……シナク」
「なんだ、ルリーカ。まだ帰っていなかったのか?」
「まだ帰っていなかった。仕事、山積み。やってもやっても減らない」
「そりゃあ、また……ご愁傷様、だな」
「そう、ご愁傷様。
それで、シナク。
明日より不正規案件統轄所という部署が開設されると聞いたのだけど……」
「……ずいぶんと、耳が早いな。
おれも、たった今知ったばかりなのに……」
「仮想文が回ってきた。今では、冒険者の半分以上が知っていると思われ」
「なにぃっ!」
「今では、噂が広まる速度は以前とは比較にならなくなっている」
「それで……ルリーカの要件は?
こんな時間にわざわざここに来るくらいだから、あまりいい予感はしないんだが……」
「今行っている、新型術式の試験関連。
あれのために外部からも広く応援を求めることにした。
対象は、国内外の魔法使い並びに魔法関連の研究者」
「おう、よいことだ。
予算とは、大丈夫なのか?」
「術式はあれで、利益率がとても良い商品だからそれくらいの経費はどうとでもまかなえる。
むしろ、人件費その他をもっと使った方が結果として節税になる」
「そうなのか?
では、なにが問題なんだ?」
「集まった人たちに必要な設備を不正規案件統轄所で揃えて欲しい。家具職人とかは現状、手一杯予約一杯で、何ヶ月先まで予定が埋まっているという。
こちらでは、自前で什器を揃えているというし、そのようなノウハウがあれば……」
「……はぁ。
マルガさん。
そういうのも、こっちの仕事になるわけ?」
「不正規件統括所の職務内容は、その性質上、あえて限定されてないわけだけど……いいんじゃない?
必要な経費は向こう持ちになるわけだし……それに、少学舎にたむろしている連中にお金を落とすことにもなるわけだし……」
「ルリーカ。
工具と材料の手配、それに、短期で雇ってきた連中を管理する人員数名をこちらで出して、必要な作業が終わるまで出向させる……っていうことで、いいかな?」
「それで、いい。
あと、什器関係だけではなく、寝台とかも、出来れば……」
「……必要となる具体的な数量がはっきりし次第、こっちに知らせてくれ。
こちらの人手も有限なわけだから安請け合いは出来ないが、それでも可能な限り善処する」
「それでいい。ありがとう、シナク」
「ま、詳しいことは、明日からな」
「……寝台、か……そういえば……総務でも宿舎の分が、ぜんぜん足りないって……」
「……あのー……マルガさん?」
「ちょっと待ってね。
今、仮想文で問い合わせてみるから……。
あ、もうレス来た。はやっ!
数百台のオーダーで足りてない、いくらあっても余ることはない……か。
せっかく来てくれた人たちを、いつまでも床に寝かせておくこともないよね……」
「……おーい……」
「素人でも作れたの? ここの什器や棚って?」
「図面とかは職人さんに貰ったものだけどな。
それに沿って、材料切って組み立てただけだし……多少不具合があっても、自分らで使うだけだから……」
「そう。
それ、もっと大々的に出来ないかな?」
「はい?」
「がーっと人数を集めていっせいにばーっと作るの。
工程ごとに細かく分業をして、いわゆる、大量生産ってやつ?」
「やれるかやれないか、っていったら……やれるんだろうけど……」
「そっか。では、やっちゃおう。
需要は、ありすぎるくらいあるんだし、雇用を確保できてお金も回せるし……」
「なんだかよくわからないけど、細かい手配はそちらでしてくれよな、マルガさん」
「任せて!
こっちで什器を作ったときの手順書は?」
「もちろん、整理してある……はずだ」
「それ、見せて」
「はいよ……事務員さん! お願い!」
「はい! 今日まとまったばかりですから!」
「……何部か、複製も欲しいんだけど」
「ああ、もう!」
「少し時間を貰えれば。
簡易打鍵機の連中がてら……」
「じゃあ、お願い。
明日中くらいでいいから。どのみち、人集めに少し時間がかかるし……。
ちょっと、少学舎に行ってくるね!」
「おう、お好きに!
とはいえ……おれ、今日はもうやることがないから帰っちゃうよ!」
「……お疲れ様ー!」
「やれやれ。
動き出すと、激しいやつだなあ」
「シナク」
「おう、なんだ。ルリーカ。
聞いての通り、詳細は明日にでもまとめてこちらに知らせてくれれば、なんとかして貰えるみたいだぞ」
「今日はもう、お仕事終わり?」
「ああ。そうだな」
「では、一緒に飲みに行こう」
「そうだな。
えっと……リンナさんはどうします?」
「この報告書を仕上げてからあがりたい。どうせあそこで飲むのであろう。
先にいっておけ」
「はいはい」
迷宮内、射撃場併設合宿場内、秘密会議室。
しゅん。
「……ルリーカと一緒だと、一気にここに来れるからいいな」
「魔法使い、便利」
「おお、ティリ様とゼグスくん、来ていたのか」