111.きょうのまとめ。
迷宮内、某倉庫。
「……今日は、こんなところですかね?」
「もうこんな時間か」
「ええ。
先は長くなりそうだし、根を詰めすぎても保ちませんから……」
「捜査活動の主導権は、そちらが握ることになっている。
拙者らとしては、警邏隊の指示に従うことにしよう。
記録係!
これまでの捜索した範囲はしかと記録しておろうな?」
「しっかり記録しています。
今日はこれでお開きですか?」
「各所に散っている全員を集合させてから、解散だな。
われわれは、今日取った記録の整理をしなければならないが……」
「はい。
では、仮想文で各捜査班に集合の連絡をいたします」
迷宮内、治安維持体本部。
しゅん。
「……ふぅ」
「あ。
リンナさん、お帰りなさい。
どうでした? 警邏隊のおともは?」
「どうもこうもあるか、シナクよ。
警邏隊の護衛なぞ、なにも起きなければやることがない。
一日中、犬の散歩につきあわされているようなもんだぞ、あれは」
「なにもない方が、平和でいいと思いますけどね。
では、手順書もすぐに作れそうですか?」
「問題なかろう。
捜査活動の邪魔をする者が現れれば、捕縛して事情聴取。怪しい挙動をする者がいたら、捕縛して事情聴取。
それ以外の場合は、漫然と犬の散歩におつき合い。
なにも起きなけれ大変に楽ではあるのだが、どうにも退屈で退屈で……」
「有事の際に備えて気を抜けないというところは、見廻り組の業務と共通するところがあるようですね。
今日も一件、今度は迷宮の入り口付近に十体以上の巨人が現れたそうですが……」
「またかっ!
それで、どうした?
入り口付近といえば、部外者も多く居合わせる場所であろう」
「大事になる前に、手近にいた冒険者たちが殺到していくらもしないうちにしとめたそうです。
流石に皆さん、実戦慣れをしているというべきでしょうか……」
「……そういえば、常時大勢の冒険者が待機している場所でもあったな……」
「管制の事務員さんたちのはなしによれば、始末をつけるときの騒動よりも、その後の掃除が完全に終わるまでの期間の方が気を使ったそうで。
大きさを除けばかなりヒトに近い外観のモンスターでしたし、すぐにしとめたものの、血とか臓物とかが盛大に飛び散って、匂いとかも美観的にかなり酷い有様になったようでして……」
「きれいな殺し方を心がけられるほど、余裕のある冒険者ばかりではないからな。
場所が場所であるから、なによりも安全を優先せねばならぬし……」
「ガサツなのが多いですからね、冒険者って連中は。
結果として無関係の人たちに死傷者が出さずにすんだのは、よかったと思います」
「外来者に被害が及べば、今後どんな障りがあるか予想がつかぬからな。
他に連絡事項はあるか?」
「剣聖様の方は、例によって予備戦力への修練をずっとやっていただいていますし……。
ああ、そうだ。
また奇妙な種族が、迷宮内で発見されましたよ」
「奇妙な種族? また、知的なやつか?」
「知性は、そこまで高そうでもありません。
せいぜい、家畜なみといったところでしょうか?
いくつかの単語はおぼえているようですが、それを一定の規則に従って並べて、意味のある文章を作る能力はなさそうですし……」
「ふむ。
その種族の、いったいなにが特筆に値するというのか?」
「やつらは二つの車輪で移動します。
それと、ヒトくらいの大きさ重さなら軽々と背に乗せて高速で移動できます。
こちらのやり方次第では、飼い慣らすことも出来そうで……」
「……馬のように使役できる、ということか?」
「その可能性は、充分にあるかと。
今、ゼグスくんに具体的な調教法を開発させているところです。
彼も、管制からお呼びがかかるまでは時間を持て余している身だそうですから……。
あと、 ビーストテイマーのダウドロ一家にも協力を要請しておきました。
あの種族の上手な世話の仕方を手探りで確立しておきたいので……」
迷宮内、某所。
「……はぁ。
かなり、変わった見てくれんも動物だねえ」
「水を飲み、砂や石や木を食べる。
この外観と手足の代わりに車輪で移動することを除けば、意外とわれらが知る動物に近い」
「ゼグスくん。
これを、飼い慣らそうってのかい?」
「ぼっち王は、そのつもりのようだな。
迷宮内外での足として、利用価値が高いと考えているようだ」
「確かにその食性だと、万が一勝手に繁殖することがあっても、あまり大事にはなりそうにないだけど……」
「……被害?」
「うっかり未知の生物が繁殖してしまったりすると、食べ物を取り合ってそれまでにいた生物間のバランスがあっけなく崩れてしまったりするもんさね。
だから、迷宮内で発見されたモンスターを家畜化する際にも、よほど慎重に事を運ばなければならない。
そうしないと、何代も後にまで祟る禍根となりかねないからね」