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45.じゅうにんとしょくのだいじゅうりん。

「ちわっーっす!

 お届け物にあがりましたぁ!」

「なんだ、この小娘……。

 お前、死臭がするぞ」

「そりゃあまあ、これでもアンデッドの一種でありますから! その中でも上位種の吸血鬼ですから!」

「……どうでもいいけど、あんま近づくな。

 おれは、活きの悪い肉と年端もいかない女が嫌いでな。熟女スキーの狼男だ」

「そりゃどうも。

 でも、こっちも頼まれた仕事はこなさないと怒られちゃうんで、これ、確かにお渡ししましたからねー……」

「って、おい!

 ……どこに消えた、あの小娘。

 そんで、こりゃあ……槍か?

 こんな、何本も……」


 どごぉぉぉぉんっ!


「おわっ!

 シャワーだ! 生暖かくて生臭いシャワーがいきなり……って、なんか落ちてきたぁー!」


 ぐしゃっ。


「あのモンスターの……首?」


「わはははははは」

 ぶぅぅぅんっ。


「わはははははは」

 ずしゃぁぁぁっ。


「わはははははは」

 ざしゅぅぅぅっ。


「あそこで真っ赤になって笑ってるの……ありゃ、バッカスの野郎か?

 あっという間に一匹……文字通り、血祭りにしやがった……。

 あいつ、本当に人間かよ……」


 「装填完了!」

 「発射します。

  喉に命中」

 「次弾、装填するねー」

 「慎重を期して、移動してからにしましょう。

  暴君たちはどうやら、今までに経験したことがない攻撃にさらされて、浮き足立っているいるようです。

  このまま一気にいきますよ」


「ありゃ……合戦に使うバリスタか?

 あんなでかいものを担いでとりまわしている、あの二人……」


 GYOOOOOOOO!


「おっとぉっ!

 なんだ、いきなり倒れて……」


「あっ?

 なんだ、おっさん。

 そんなところにぼーっとつったってないで、さっさと仕事しろや、おらぁ!」

「……さっきの、メイドさん……」

「吸血鬼のやつから武器は貰ったはずだよな!

 おっさんひとりのおかげで、こっちはしなくてもよかったはずの余計な仕事まで背負い込んじまってるんだよ!

 当の本人が、なに気抜けしてやがる。おっさんもさっさと働けや、おらぁっ!

 ったく、つきあってらんねーや……」


「……返り血を浴びて、殺気立っているメイドさん……。


 ……いい……。


 っと、こうしている場合じゃねーや。

 お仕事お仕事。メイドさんに罵られるご褒美もらっちまったら、気を入れて働かなければいけねーよな……。

 この槍……みたいなのを使えっていうのか? 穂先からいやな匂いがしてくるのが、気になるが……」


「大変大変。

 はやくしないと、敵モンスターがあっという間に全滅しちまうですよ。っていうかあの人たち、本当に人間ですか? ただの人間が強いはずないんですが。

 ともあれ、少しは活躍しておかないと、役立たずだと思われたらあとでどんないじめにあうか……。

 とりあえず、手近なのにしがみついて、最後の一滴まで血を飲み干しちゃいましょう。

 いっただきまーっす!」


「……槍なんかで、どうやってこのどでかいのに対抗しろってんだ……。

 ええい。

 なんにもやらねーよりはマシかぁ!

 人狼の力で、正面からどてっぱらにぶっ刺してやらあ!」


 ずさっ!


「穂先が完全に、モンスターの腹に埋まった!

 そんでもって、抜けねぇ!」


 ぐいぐい。

 ……ぼすぅんっ!


「……ぷっはぁっ!

 爆発しただぁ?

 臓物やら血やらを、まともに浴びちまっちゃじゃねーかよ、おい!」


 「ナイスだよ、ゼリッシュさん!

  はじめてでよく、その新兵器を使いこなせたね!」


「新兵器、だぁ?

 そうか、この槍……もともと、こうやって使うもんなのか。

 モンスターの内側から爆破するための、爆弾槍か。

 おし、そうとわかれば、今度はもっと効果的に、間接部や急所を狙うぞ」


「実際にはじめてみると、意外とあっけなく片づいたものだな」

「正直、ぼくももう少し手こずるかと思いましたが、一人一匹づついけましたね。一匹あたりの所用時間は、およそ数分といったところでしょうか?」

「あのモンスター、狩ることはあっても狩られることには慣れていないようだったから、戸惑っているうちにざーっと一気にいけちゃったね!」

「羽とか、手かがりになったから、思ったよりもよじ登りやすかったな。

 あとは動脈とか脊椎のあるあたりに見当をつけて、滅多斬り。大きいだけの肉食獣だと聞いていたんで、いつもの方法でいけた」

「わはははははは。

 ドラゴンと比べると、やわかったな」

「……っていうか、お前ら、本当に人間か?

 どうみても強すぎるだろ、お前ら」

「そういわれましても……。

 あっ。

 一応、ぼくとコニスちゃんは、各種補正アイテムを使いまくって、パラメータをかなり底上げしてはいますよ?」

「じゃあ、お前ら二人は除外するにしても、だ。

 バッカスとかそこのメイドさんとか、どうみても普通じゃねーだろ……」

「わはははははは。

 そういわれても、この程度のことはできないと、うちのかーちゃんの相方はつとまらないからなあ……」

「救出されたやつが救出にきたやつに、偉そうなこと吹いているんじゃねーよ……」

「げふっ。

 どうもごちそうさまでした。おいしくいただかせていただきましたです」

「そこのゼリッシュとか吸血鬼とか、人外の者は、一般的にヒトより秀でた能力を生得的に保持していることが多い。そのため、その生得的な能力に依存して、より強力な存在になるための努力を怠る傾向がある。また、通常、それでもほとんど支障はない。

 例外として、今回の場合のような、特殊な事例をのぞいては」

「うわぁ。

 耳が痛いっす」

「……おれが手を抜いてるから、ただのヒトにも劣るってーのか……」

「事実だろ、おっさん」

「バッカスさんやシナクくんのような例を、普通のヒトとして扱ってもいものか、疑問ではありますが……。

 ゼリッシュさん。

 この二人と一対一で決闘したら、おそらく、負けるのはゼリッシュさんの方ですよ。

 こういってはなんですが、彼らは、遊び半分で冒険者をやってきたゼリッシュさんとは、これまでに踏んできた場数の質と量が違います。

 単純に、体力とか瞬発力とかだけを抜き出して比べたら、人狼であるゼリッシュさんの圧勝でしょうがね……」

「そ……そりゃあ……」

「われわれヒトは、あなたがた人外の方々に比べれば、それはそれは、それこそオハナシにならないくらい、脆弱にできています。

 ですが、その脆弱さを埋め、あるいは乗り越えるための方策をほどこし、知識や経験を蓄え、体を鍛え、魔法を学び、便利な道具を作り……長い時間をかけて、ようやくここまで到達したんです。

 侮るのも見下すのもそちらの自由というものですが……そんなことをしていると、いつか足元をすくわれますよ」

「……おっ……おう」

「さて、当面の危機は去ったようですし、われわれも外に帰る準備をしますか。

 ルリーカさん。

 この門からこれ以上、モンスターが出てくることがないよう、結界かなにかを張ることは可能ですか?」

「短時間……三日以内しか効果の持続しないものであるのならば、可能。

 今、この場の魔力濃度はかなり濃くなっているが、その魔力をかき集めたとして、それくらいしか保たない」

「わかりました。

 ギルドと相談して、その三日以内になにか別の手を打つことにしましょう」


「……ふぅ。ようやくついた」

「「「「ダウドロのおかみさん」」」」


「ねえ、さっそくだけど、ここいらに転がっているモンスターの肉、うちの子たちのご飯にしてもいいかね?」

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