108.あるしんがたじゅつしきひょうかしけん。
迷宮内、新型術式評価試験所。
「乞われて来てみたのはいいが……なんだ。
相手は、年端もいかない子どもばかりではないか」
「非力な者を一人前以上の戦力にするための術式の試験だから、当然。
彼らはみな、少学舎から募った有志の協力者」
「こちらにしてみても、別段文句をいう筋合いはないのだがな。
それで、ルリーカよ。
わらわとしては、どの程度まで本気でやってもよいのか?」
「彼らの術式も、これまでの評価試験で効果のほどが実証されている。
油断をしていると、ティリ様の方が逆にやられる可能性もある」
「ふふん。
随分と面白いことをいってくれるではないか。
そこまで仕上がりに自信があるのであれば、わらわとしても少しは、本気を出さねばならぬな」
「彼らが使用しているのは常時発動型の複数属性攻撃魔法術式ならびに各種身体能力補正術式。後者は現在普及されている術式の機能を補増、改良したアップデート版。
これらの術式を駆使すれば、身体能力に劣る女性や若年者でも、第一線で活躍する冒険者以上の活躍が可能なはず。少なくとも、理論上では」
「ふふん。
理論上では、か。
だが、ルリーカよ。おぬしもすでに気づいておろう。これらの術式において、根本的な欠点が存在するということを」
「……現在、出現頻度こそさほど多くはないものの、魔法に関連する効果をすべて打ち消す能力を持つモンスターが何種類か確認されている。
そうしたモンスターに遭遇する可能性がある以上、これらの術式使用者のみでパーティを組むの行為は危険」
「なんだ。やはりわかっているではないか。
それでは、さっそく性能試験とやらを行うことにしようかの。
子どもたち、準備はいいか!」
「……ティリ様が魔法効果を除去する術式を持っていたとは思わなかった」
「そのようなモンスターのはなしたをしたところ、父上配下の魔法使いたちがひどく興味を示してな。
やつら理論畑の魔法使いたちが総出でその原理を解明し、術式にまとめてわららに送りつけてきたのだ。
とはいえ、このような際でもなければ使いようがない術式であるからの。ここに来て初めて実際に役に立ったというわけじゃ」
「高度な魔法理論の無駄遣い。
……それはいいけど、これでは性能試験としての意味がない」
「わかっておる。が……。
それ以前に、こやつら、もう少し性根を据えた方が良いのではないか?
いくら術式の効果を打ち消されたとはいえ、多勢に無勢。
これだけの人数がいて、わらわ一人にいいように振り回されるというのも……」
「実戦はおろか、修練もろくに経験していない子たちばかりだから、無理もない。
ましてや、ティリ様の動きについていける者は、ベテランの冒険者の中にも果たして何人いるか……」
「……果たしてそんな有様で、本番でモンスターの動きについていけるものかの。
術式によって各種能力値に下駄を履かせることが出来たとしても、それを使いこなせなければどうしようもないと思うが……」
「それについては、慣れて貰うしか対処方法がない」
「いずれにせよ、魔法を無効化する相手には極めて無力。
この手の者どもを実戦に配備する際には、せいぜい他の、術式にあまり頼らない装備の冒険者たちとパーティを組むように促すより他ないの」
「相手の種類によってはひどく脆い側面はあるものの、パーティの火力を底上げすることもまた確か。
運用面での不安要素については、これから研究して具体的な対処法を工夫していくつもり」
迷宮内、治安維持隊本部。
「……はい、シナクですが……。
え?
は、はい。
いや。
幸い、手は合いていますけど……」
迷宮内、管制所。
「ども」
「今度はどんなのが相手だ」
「ああ、シナクさん、ゼグスさん」
「え? ゼグスくんも?」
「ええ。
今度のは、ちょっと過去に例がないモンスターのようで。
強いていえば、少し前にシナクさんが相手にしたものに似ているところもありますが……」
「ずいぶん回りくどいいいかたをするんだな」
「あれが生物なのかそれともゴーレムなどのように魔法をかけられて仮初めに動いているものなのかはわかりませんが……今度のモンスターは、二輪車です」
「……二輪車?」
「体の前後に二つの車輪上の物体があって、それを回転させることによって移動するそうです」
「……よく倒れないもんだな、そいつら」
「動いている限りは、意外に安定しているそうですよ。
それに、移動速度もかなり速く……遭遇した冒険者たちもすれ違いざまに何体か倒したそうですが、大部分を倒し損ねて横を通過させてしまったそうす。
遭遇したパーティの何人かは、見事に跳ねられたり轢かれたりしたそうですが……」
「隔壁述式やバリケードの手配は?」
「かなり距離を置いて展開済みです」
「はなしに聞いてみただけでは、どうともいえないな……。
現場で、実物を見てみないことにはなんともいえないな。
とりあえず、そいつらと接触できる場所まで転移しても貰うか」
「お願いします。
こちらの転移陣になります」