104.じせだい、じゅんびちゅう。
迷宮内、修練所。
「ダドモス様とゴウモス様は、そのまま攻撃範囲拡張術式の修練をお続けください。
攻撃範囲拡張術式が使いこなせるようになったら、今度は疑似質量付加術式、筋力や俊敏性を向上させる術式、宿地術式などの取り扱い法や注意点をお教えいたします。
マスチス様は、迷宮内で使用可能な魔法の一覧とその効果、詠唱時間などをすべて書き出しておいてください。
わたくしは、少々……」
「テマスリ。
この場を離れるのか?」
「少々、必要なアイテム類を買い込んで、知り合いを頼ってこちらのパーティに加えた方がよい人材を都合して参ります」
迷宮内、射撃場、事務室。
「仮想文……テマリスも、か。
あー。
水竜作戦からこっち、どこもかしこも銃使いを欲しがってるなあ……」
「遠距離支援があるのとないのとでは、パーティ全体の安全性が大きく違ってくるからねぇ。
騎士連中も、そりゃ、目の色変えるわぁ」
「そうはいうがな、ククリル。
こんなにいっぺんに銃使いを紹介してくれ、っていわれても、それなりに使えるスキル持ちなんか、右から左にぱっと差し出せせねえっての。
しっかり手順を踏んでこちらの修練プログラムに参加してくれる騎士様たちを見習って欲しいね、まったく……」
「騎士連中も、みんながみんな、人数とかお金に余裕があるってわけでもないんでしょうねぇ。
水竜作戦には、疫病や自然災害の被害を受けており、ここのギルドに物資やお金を貰った恩をわざわざ返しに来た小国の軍隊も少なからず含まれていたそうだし……」
「ったく。
よくやるよな。
戦利品のあてもない、正体不明だった大物モンスター討伐作戦に手弁当で参加、って……。
普通に考えれば、見返りよりも損害の方がずっと大きくなりそうだって気づきそうなもんだろうに……」
「実際にこうして来て、少なからぬ打撃を受けて、さてこの先どうしようか、っていうところよねぇ、今。
大金と投じて遠い外国まで軍隊を動かして、やられる一方で得るところはありませんでした、では、国元に帰ってから肩身が狭いでしょうし……」
「それはいいんでが……今のおれたちには、この需要にどう応じるか、ってのが切実な問題なんだよな……。
とはいえ、今までこちらで狙撃銃の扱いを学んだ人たちは、だいたいもう現場で働いていて、わざわざ別の場所に河岸を変えるいわれもないわけだし……」
「いくら需要があっても、供給が、ねえ……。
えっ、とぉ……。
あ。
ないことも、ないかなぁ……供給元」
「心当たりあるのか? ククリル。
すぐに紹介できる狙撃銃使いって、今、ほとんどいないはずじゃあ……」
「それが、いるのよねぇ。
まだ、冒険者として活躍していないけど、狙撃銃は使えるって人たちが……。
でもこれ、思い出さない方がよかったかしらぁ?」
「冒険者として活躍していないけど、狙撃銃は使えるって人たち……って……。
おい! ククリリ!
それってまさか……」
「王子に頼まれて、継続的に小学舎の子たちに、射撃場が空いている真夜中とか時間帯に、継続的に無償で練習させていたでしょう。
教官役も小学舎の人たちが用意して、万が一、事故とかが起こってもこちらに責任を押しつけないって約束で、こちらは場所だけを貸していたんだけどぉ……。
あれ、もうもう何ヶ月も続けているし、小学舎には数十名単位の狙撃銃スキル持ちがいる勘定になるはずなんだけどぉ……」
「……冒険者として独り立ちが出来ていないってことは、例え狙撃銃の扱いが出来たとして、まだまだ幼い連中だってことで……」
「でも、背に腹は変えられないんじゃないのぉ?
少学舎側と銃使いを求めている人たちに事情を説明して、それでもよいってことになれば、具体的な条件を煮詰めていくしかないと思うんだけどぉ……」
「……はぁ。
また、面倒な……。
苦労する分、仲介料をふんだくってやるぜこん畜生!」
「はい、お茶をどうぞ」
「あ、どうも。イオリスさん」
「仲介といえば……例の、今整備中の街道筋に建築中の宿場町、そこの宿屋や食堂で働く人材を、
ギルドが求めているそうですが……」
「ああ、あの件ですね。
うちで働いているので希望するやつがいたら、どんどん外に出してください。
幸い、新しく来てくれる人には事欠かない状況ですから、ある程度仕事をおぼえた人から店の経営までを含めた経験をさせていいと思います。
場合によっては、ギルドの支援金以外にも、うちからも資金援助をしてもいいし。たとえ紐つきでも、本格的に独立したいやつにとってはいい経験になるはずだ。
うちで料理やパンの焼き方を学んだ連中があちこちに散っていくってのも、愉快な状況じゃないですか」
「そういうと思っていました。
これ、希望者のリストになります。
仮に、彼らが一度に抜けたとして、こちらの経営にはあまり影響ありません」
「これはまた、手が早い。
まったく、イオリスさんがこちらの手伝いをしてくれてよかったですよ。
おれたちもそのおかげで、どれほど助かっていることか……」