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96.きょういくてきしどう。

「得物は木剣でよろしいですな?

 では、使いだてして申し訳ございませんが、どなたかに開始の合図をば……」

「ああ……あい、わかった。

 では……はじめ!」


「うぉぉぉっ!」


 すぱんっ。


「なに?」

「え?」

「……あれ?」


 すぱんっ。すぱんっ。すぱんっ。


「ゴウモスさん。

 どうも、おれの目にはダミドスさんが打ち据えられているように見えるんですけど……」

「おれの目にもそうみえるな、マスチス。

 ダミドスも、果敢に攻撃を仕掛けているのだが……」

「空ぶってばかり、ですね。

 マテリスさんの動きに、まるでついていけてない」

「ダミドスとて、いささか浅慮であるとはいえ、武芸の腕前においてはわが騎士団の中でも一、二を争うほどの男だ。

 それが、こうもいいようにあしらわれようとは……」

「マスチスさん、ああ見えて武芸の達人とか……」

「いや。

 あの動きは……武術を嗜んだ者の動きではないな。

 木剣のふるいようが丸でなっていない。それよりなにより、動きに無駄が多い。

 どうみても、素人の動きにしか見えぬ」

「でも、その素人のマテリスさんに、ダミドスさんが圧倒されているっていうのは……」

「強いていえば、踏み込みが異様に速い……いや、非常識なほどに速すぎる。その上、予測が不可能なほどに不規則に行き先を変えるから……それで、ダミドスのやつも目と手が追いつかぬのであろう」

「……ああ! なるほど!

 マテリスさん、術式を使って移動力を底上げしていますね!」


 ひゅん。


「早速、見破られましたか。

 流石は、魔法使い。

 おっしゃるとおり、宿地と呼ばれる術式を使用しておりました。

 こうして、移動力を生かして敵を翻弄し、何度でも敵が倒れるまで攻撃を当て続けるのは、師匠の師匠のそのまた師匠が得意とする戦法なのでございます。

 もっとも……あのお方は、術式の助けを借りずとも、この程度のことは造作もなくやってしまえる方なのでございますが……」

「その、何代か前の師匠直伝の戦法というわけか?」

「直伝といってしまっては、支障がありましょう。

 管制術とは違い、こちらに関してはまったくの見様見真似。特に何事かを習ったというおぼえもございません」

「それで……見様見真似、であると?」

「例え後衛職であろうとも、ひとたび迷宮に入ればこの程度の技能を使用する機会には事欠きません。

 それに、いくら騎士様方がヒト族として屈強な方々であろうとも、よもやモンスターには適いますまい」

「道理、ではあるな。

 モンスターがそれほどくみしやすい相手であれば、高額な討伐賞金がかけられることもない。

 そして、マテリス。

 おぬしら冒険者たちは、日常的にそのモンスターと相対し、戦っているわけだ。

 たとえ、武芸の心得がまるでなくとも……ふむ。

 それぞれに似合いのやり方を工夫して、モンスターを制圧出来る術を学んでいるわけか」

「実戦に勝る修練はございいません」

「ま、待て!

 おれはまだ降参していないぞ!」

「見苦しいぞ、ダミドス」

「おや? まだご納得いただけませんか?」

「お……おぬしだけ術式とかいうものを使うのは卑劣であろう!」

「あいにくと、このマテリス。騎士の誉れにも縁がない卑しい出自でございましてな。

 なにより普段から手段を選んでいては相手が出来ないモンスターという難物を相手にしておりますゆえ、たとえ模擬戦といえども真剣に立ち合うとするのならば使用できる手段はすべて使いきることがすっかり習いとなっております。

 ですが……そうでございますね。

 ダミドス様がご承知できないようでございますれば、いっさいの術式を使用せぬという条件で今一度の立ち合いを致すことにしましょうか?」

「お、おう。

 今度は、それで頼む!

 同じ条件であれば、もはや遅れは取らん!」

「では、ダミドス様。

 ご存意に、どこからでもどうぞ」

「……貴様! 愚弄するのか!」

「滅相もない。

 このマテリス、ご覧の通りの貧相な小男にございます。

 立派な体格であらせられるダミドス様に対して正面から取りつけば不利になるばかり、と、そのような算段があるだけのことでして……」

「では……いくぞ!」


 ざっ。

 がっ。

 がしっ。


「後衛といえども、モンスターが前衛の守護を突破してこちらに向かってくることは、そう珍しいことでもございません。

 そのようなとき、このマスチスのような小男はどう対処するのか?

 まともにぶつかり合えば膂力でも重さでも劣るこちらは軽く吹き飛ばされてしまいます。

 そこで、相手に勢いを殺さずに、逸らす。受け流す。

 はは。

 二本足とはこのようなときは、はなはだ不安定な代物でございますな。すぐに地面に転がりまする。

 そして、いかに頑強、重厚な具足に身を包もうとも、間接までを保護するものではございません。

 このまま利き腕を捻りあげて肩を外しましょうか?

 それともこのまま指を突き込んで目玉をえぐり出しましょうか?」

「もうよい!

 そこまでにしておけ!

 ダミドスも異存はないな!

 いや、仮にあったとしても、この分では何度挑もうとも同じ結果になるだけだ!

 いうてはなんだが……このご仁とわれらとでは、どうやら踏んできた場数が違う!」

「……くっ……くそぉっ!」

「どうやらご納得いただけたようで、なにより。

 これで今後は、こちらにしてみましてもかなりやりやすくなります」

「ああ……。

 今後は、おぬしの指示に従うことにしよう。

 その方が……互いの身にとっても、実りが多いようだ」

「そのようにいってただければ、なによりでございます。

 それでは、早速。

 ダミドス様とゴウモス様には、そうさな、もっとも基本的な術式である、攻撃範囲拡張の術式についてみっちりと修練していただくことに致しましょう。

 藁束に古い甲冑でも着せて、甲冑を傷つけずに中の藁束だけを攻撃する。この動作を徹底的に繰り返していただきます。それこそ、そうと意識せずとも攻撃範囲拡張の術式を自然に使いこなせるようになるまで。

 古い甲冑は、商工会へいけばアンデッド系モンスターがドロップしたボロが、二束三文で購入することが出来ます……」

「それはいいのだが……マテリスよ。

 冒険者とは……おぬしのような者ばかりなのか?」

「さて?

 このマスチス、ご覧の通りの貧相な体格なれば、前衛には向かず、渋々カラス女史に師事して戦闘管制スキルを拾得した身であります。

 どちらかというと、直接的な戦闘行為は不得手とするところでございますが……」

「つまり……戦闘能力で比較するのなら、平均より下になるのか?」

「このマスチスの近接戦闘ランクは、Cにございます」

「これで……C、か」

「ええ」

「もうひとつ。

 カラス女史とやらが、おぬしの師匠にあたるのか?」

「戦闘完成スキルの師匠に当たりますな。

 そのカラス女史の師匠は、ぼっち王という傑物にございます。

 実は、パーティを組んだらまず最初に一番不平不満が多そうな人物をがっちり締め上げて主導権をがっしりと握っておけというのが、そのぼっち王から伝えられた、戦闘管制の基本中の基本でございまして……」

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