95.とあるじゃくしょうきしだん。
迷宮前広場。
「……勝手に脱出札使っているんじゃねー!」
「もう使用後ですよ、ダドモスさん」
「……はぁ、はぁ。
お、おれは……。
まだまだ、負けてはいなかったぞ……」
「負けてから、囲まれてからでは遅いんです」
しゅん。
「予想されたことではあったが、やはりわれらだけでは無理があるな」
「そうですね。
戦闘管制と遠距離攻撃が可能な弓使いか狙撃銃使いは、最低限、欲しいところです」
「遠距離攻撃なら魔法使いである貴様の領分であろうが! マスチス!」
「常時索敵をしながら同時に攻撃魔法の詠唱を行うことは不可能です。
第一、かなり距離が空いているのに、何も考えずにダドモスさんが猪突猛進するから、こちらも打てる手がどんどん限定されてくるんじゃないですか」
「……ぐっ……」
「この場合、マスチスの言い分の方が正解だな。
ともあれ、われら三人だけで迷宮に挑むのは無謀だということがこれで確定した。
われらだけで迷宮に入ることにこだわってこのまま無駄働きを続けるのか、それとも他の面子を加えて余裕を持って探索業務を行うのか、どちらが確実に報酬を得れると思うのか?
本当のところは、ダドモスにも理解できているのだろう。
このまま意地を張り続けて何日も空回しを続けていたら、いつまでたっても団長たちの治療費は捻出できぬぞ」
「ですよね。
人数に余裕がある大騎士団ならともかく、ぼくたちはそうではないんですから。
弱小騎士団は弱小騎士団らしく、素直に外部の人たちの助けを借りましょうよ」
「弱小いうなー!」
「ともあれ、ダドモスが反対したとしても、おれとマスチスの意向は決まっている。
ニ対一で、こちらの方針に従って貰うべきだな。
それとも、ダドモス。
お前さん、おれたちとここで袂を分かつか?」
「……くそっ!
勝手にしろ!」
「よし。
では、管制に迷宮を出たことを届けて、その後、新たに迷宮に組み入れる人材を捜しにいくぞ」
「今からでよければー」「適切な人材に仮想文を出してー」「打診して見ますがー」
「おう。
頼むぞ、ナビズ族」
迷宮内、修練場。
「えー、どうも。
ナビズ族経由でご紹介に預かりました、テマスリといいます。
これでも、戦闘管制のスキルランクはギルドに寄ってA判定と見なされております。
よしければ、どうか今後ともご贔屓に、どうぞ」
「おれは、グラバス王国騎士団のゴウモス。
それで、こっちの仏頂面が同じ騎士団所属のダドモス。
あの魔法使いが、マスチスだ」
「へへへ。
どうも、ただの平民ですいません」
「なに、そのようにへりくだることもあるまい。
聞けば、冒険者とは前歴身分を問わず、互いを対等と見なすそうではないか……」
「……けっ!」
「おやぁ?
どうも、ダドモス様は、ご不満がおありのようで……」
「ダドモス!
われらだけでは埒があかないことはつい先ほど証明されたはず!」
「いえいえ、よろしいのですよゴウモス様。
由緒ある家柄のお人がいきなり見ず知らずの平民風情を対等に扱えるものではございません」
「いや……しかし。
それでは、これよりともにパーティ組む同士として……」
「それはそれ、これはこれでございます。
実はわたくし、管制スキルを習った師匠の師匠のそのまた師匠から、このような際に有効な処方箋を伝授されておりまして」
「……ほぉ……。
して、それは、具体的にはどのような……」
「この修練場を集合場所として指定したの他でもありません。
これからパーティを組む方々についきましては、実地に迷宮に入る前にその腕前のほどをこの目で検分させていただくことにしておりまして。
なにぶん、こちらもたったひとしかない命を預けますわけですから、その相手のスキルを完全に把握しておくにこしたことはございません。ギルドが計測した書面上のデータだけでは、些か、心許なく、加えて、戦闘管制を行うに際しても、スキルだけではなく普段の性格や戦闘時の振る舞いなどについても把握しておいた方が、なにかとやりやすいものでして」
「いわれみれば、もっともないいようだ。
だが……どのようにしてわれらの力量を推し量るつもりか?」
「いやなに。実に簡単なことなのでございますよ。
このテマスリと一献、手合わせを願えれば、それでもう、かなりのことが理解できますわけです。
魔法使いのマスチスさんついては、こちらにしてみましても推し量るべき尺度を持ち合わせておりませんので、後ほど手合わせの代わりにどのような魔法が使えるのか詳細にご説明していただくことになります。
騎士のお二方については……そうですね。
お二人とも随分と立派な具足をあつらえておいでだ。
それだけ防備を固めていらっしゃるのであれば、実戦形式の模擬戦を行ってもかなりの安全性を確保できましょう。
まずは、そうでございますね。
そちらのダドモス様から先におつき合い願いましょうか?」
「い……いや。
テマリスとやら。
職分をまっとうしようとする熱意は買うが、お主のような軽装でわれら騎士と正面からやり合おうとするのは、無謀にもほどが……」
「まあ、待て! ゴウモス!
せかくこうして本人がやりたいといっているんだ。
無碍にすることもなかろう」
「ま、待て! ダドモス。
それではいかにも、騎士道にもとる……」
「まあ、まあ。ゴウモス様。
ご配慮は大変にいたみいりますが、この場はこのマテリスの顔を立ててはくださいませんか?
なに、悪い結果にはなりませんから……」