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90.いつまでも、かとき。

 迷宮内、某所。

「今は、地形の計量や地図の作製もすべて術式によって自動化されておるからの。

 以前と比較すると、断然楽になっておる」

「とおっしゃると……以前は、いちいち人が測って書き留めておいたのですか? ティリ様」

「冒険者が歩数を数えて簡単な地形図を書き留め、そのあとに正確な計測が必要ならば、ギルドが測量班を手配した。

 今では、ただ通り過ぎるだけで即時的に迷宮内の複合知性体に情報が送られ、共有される」

「複合知性体……ピス族の機会とナビズ族と……」

「その他の諸々も、魔法的な仕掛けが絡み合って出来たネットワークシステム、ということになっておるな。詳しい仕組みや仕掛けは、正直なところ、わらわにもよく理解出来ぬだが」

「はあ。

 では……以前は、本当にすべて手作業でやっていたんですね」

「以前、といっても……そんなに、大昔のはなしでもないのじゃが。

 せいぜい、半年くらい前のことじゃぞ。

 ふむ。

 それだけ、ここの変化の速度が、激しいということか」

「新型の術式も、今後、加速度的に増えていくというはなしですからね」

「もう噂が流れておるのか?

 日報の紙面にもまだ流れていないというのに……」

「関心の強さが違いますよ。

 昨日、貸与された新型術式の威力があまりにも凄かったから、マジック関連の動きについては、みんな、注目しているんです」

「なるほどのう。

 とはいえ……今は、便利な道具よりももっと根本的な冒険者としての心得を学んで貰うぞ、新入りども!

 ほれ、早速、モンスターの反応じゃ!

 遠距離攻撃が可能な者は準備を!」


 迷宮内、治安維持隊本部。

「……ふぅ」

「お帰りなさい、シナクさん。

 はい、お茶」

「はい、どうも。

 で、どう? こちらの具合は?」

「どうもこうも、見ての通り、ようやく本格的な事務仕事がはじまったばかりで、皆さん、慣れない仕事に苦労なさっています。

 まずは、こちらの所蔵することになる人たちのリストを整理して貰っていますが……」

「まあ、まだまだ完全に立ち上がっていない状態だからな。

 まずは過去の記録を参照したりこれから発生する仕事を予測したりしているだけで十分だろう」

「シナクさんの方は? 本部の用件って、結局なんでしたか?」

「そうさな。

 ひとことでいえば……将来に対する備え、ってことになるのか。

 おれ的にいえば、今までにやってきたことの延長なんだけんどな」

「今までにやってきたことの延長……ですか?」

「そ。

 便利な、なんでも屋。

 それを、今後はもっと組織的に行ってくれって」

「……ああ。

 なんとなく、イメージ出来ます。

 つまりは、過去に類例がないお仕事を処理して、誰にでも処理できる形に落とし込んで、手順所を整備したりするわけですね?」

「……今の説明で理解できるのか?

 凄いな、リルレイは。

 おれでさえ、何度も質問してようやく把握出来たのに」

「シナクさんは、ご自身がなさっていることについて、あまりにも無自覚ですから。

 ですが……こちらのお仕事は、どうなさるのですか?」

「このまま続行。

 呼び出された件も、今すぐどうこうっていうわけでもないし……これから本格的に準備に入るから、まずはこっちの意見も聞いておきたいってことで……」

「ああ、なるほど。

 そういえば、こちらを出る前に、緊急ではないとかいっていましたものね」

「そういうこと。

 で……リンナさんの方からは、なにか連絡あった?」

「あったら、先にお伝えしています」

「それもそうか。

 まあ……確率的なことを考えれば、初日からいきなりなにかが出てくるってこともないだろうしな。

 相手だって、そんなにやばいお薬なら必死に隠そうとするんだろうし……」

 

 迷宮内、物資一時置き場。

「こうして歩いてみると、予想外に広いな。

 物も多いし、出入りも激しい」

「そうでしょう。

 おそらく、ここを全部捜索するだけで数日はかかるものと思われます」

「物資の保管所は、ここが最大のものであったな?」

「ギルドからは、そのように説明されていますね。

 他に、迷宮内の業者が個々に保管している場所は、大小様々、多数にあるそうですが……」

「それを、虱潰しに捜索していくのか。

 気が遠くなるな」

「今、国中から使えそうな犬をかき集めているところです。

 多少時間はかかりますが、焦らずじっくり、見落としがないように行きましょう」

「だな。

 少なくとも、迷宮からの荷の出入りはがっしり固めているわけだし……」

「迷宮の入り口も、ね。

 転移魔法を使われたり、迷宮の中でもほとんど誰もいかないような辺鄙な場所に保管されたりしたら、見つけるのにかなり難儀するとは思いますが……」

「こちらは、半永久的に見張りをし続ける側だ。

 取り締まりとは、つまりはそういうことであろう。

 成果を焦らずにどっしりと構え、慎重に事に当たるより他、なかろうな」

「そういうことです。

 取り締まりよりは、抑止力としての側面をまずは重視しましょう。

 目立つ制服を着て犬を連れたわれわれがこれ見よがしに迷宮内をうろつくだけでも、無法者たちへの威圧としては十分なはずですよ」


 迷宮内、魔法関連統括所。

「ルリーカさん。

 時魔法楽団の増員についてですが……」

「これ以上の増員を望むのなら、予算がネックになってくる。

 こちらよりも、ギルドに相談してお金を無心するのが最良の解決策。

 第一、楽士の養成は、こちらの本来の仕事ではない」

「は、はあ。

 医療所の方からは、抗生物質の生産期間を短縮出来ないかとせっつかれているのですが……」

「水竜作戦時に、いくらかでも間に合ったのが、むしろ奇跡。

 いくらせっつかれても、ない袖は振れない。

 抗生物質の生産に取りかかってから、まだいくらも経っていない。

 医療所はこちらをせっつくよりも、不良品の割合を少なくし、歩止まりをあげる方法でも考えるべき。

 こちらの専門はあくまで魔法であって、薬品製造でも音楽でもない。

 いくら魔法でも、出来ることと出来ないことがある」

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