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88.たいふせいきあんけんとうかつじょそうせつあん。

 ギルド本部。

「管制から泣きが入りましたか?」

「通常の業務だけも、ここ数日で目に見えて増えていて、負担が増している状況です。

 それに加えて、あまり前例がない変則的な業務まで増え続けますと……」

「パンクする前に、こちらでなんとかしろ……ということですね?

 増員だけでは対処できないようですか?」

「各部署、後継者の育成につとめるという意味合いもあり、増員についてはかなり配慮しているつもりですが、人が育つ速度よりも仕事量が増える速度の方が早いのが現状でして……。

 加えて、農地経営や土木工事など、ギルドの多角化に熟練の人員が割かれていることもあり……」

「事務処理能力が追いつかない、と。

 なるほど。

 大量発生にはそれなり順応してきましたが、突発的な案件は、それだけではありませんものね」

「警務隊との連動の他に、魔法関係統括所からは新型術式の試用試験クエストが今後大量に発生するとの見込みも通達されてきています。

 通常のお仕事でしたら、多少量があっても前例に従っていけばなんとか処理出来るのですが、あまり前例のないお仕事に関しては、適正な賃金の試算からしなければならず……」

「そうですね。

 いわれてみれば、確かに。

 今の迷宮方面内勤には、そこまでの余剰事務処理能力はないかも」

「今の業務を回すだけでも、イッパイイッパイだと思います」

「わかりました。

 では……そうですね。

 シナクさんと、それに、キャヌさんをお呼びしてください」


 迷宮内、治安維持隊本部。

「……はい、シナクです。

 はい、はい。

 今からですか?

 いえ。今日は事務仕事ばかりをやっている予定ですから、急ぎの案件ってのは、とりあえず、抱えていませんけど……。

 ええ。

 はい。

 では、これからそちらにお伺いします。

 詳しいことは、そのときにでも……」


 ギルド本部。

「……どうもー。

 で、今度はなんなんですか?

 緊急ではないけど、相談したいことって……あれ?

 キャヌさん……まで、いるのか……」

「悪い?

 こっちも呼ばれたんだけど」

「悪いわけではないけど、本部でキャヌさんの顔を見るのも珍しいなあ、って……。

 で、ギリスさん。

 この組み合わせで、いったいなんの相談なんでしょうか?」

「実は、管制から泣きが入りまして」

「泣き……ですかぁ?」

「ええ。

 今、シナクさんが担当していらっしゃる警邏隊との連動とか、それに、今度増えてくる新型術式の試用試験とか……それに、迷宮の壁面を破壊していく件なんかもそうですね。

 とにかく、そういった、従来なかった形式のお仕事が急に増えはじめてきたわけです。

 うちのギルドは、素材の採取や害獣退治、商隊護衛などの通常の冒険者ギルドが手がけるような業務に加え、迷宮内の探索やモンスター業務についてはそれなりに経験やノウハウを持っています。

 しかし、あまり前例がないお仕事ばかりが来るようになると、適正な賃金の試算からして一からしなければならず……」

「事務方にしてみれば、悪夢だわ。

 通常の業務でさえ、ここ数日でめっきり増えて来ているっていうのに……」

「水竜作戦後始末が終わらないうちに、昨日の騒ぎだもんなあ……。

 確かに、裏方さんたちは忙しそうだ」

「忙しそう、じゃなくて、実際に忙しいの!

 正直、今までパンクしていないのが不思議なくらいで……」

「そ……そこまでのものなのか?」

「まあね。

 わたしは今、迷宮内の物流を担当しているから部署が違うけど……管制の方も、もうかなりイッパイイッパイ。

 前例がある仕事なら、多少量があってもそれに倣っていればいいだけなんでしょうが……」

「なるほどなあ」

「それで、ギルドとしましては、管制が本格的にパンクする前に、いっそのこと、例外的なお仕事や前例がないお仕事を処理するための専任部署を作ってしまおうかと考えているわけです」

「つまり、なんでも屋ってわけか」

「そうなりますね。

 一度前例が出来てしまえば、あとは管制でも処理できるようになるのでしょうけど……」

「事務方も冒険者も、想像外の事態に直面すると、意外に脆いからね」

「そうなのか?」

「そうなの。

 今はみんなそれなりに鍛えられてきたけど、管制の事務方だって大量発生が珍しかった頃にはみんなすぐに固まっちゃって、とてもではないけど使い物にならなかったもんだし……。

 それに、冒険者だって似たようなもん。

 想定外の事態や自分たちでは手に負えない案件に遭遇したら、すぐに脱出札を使用して離脱。そのあとに管制に報告せよと教えているのよ。

 おかげでロストはかなり減ったわけだけど……そういうときに真っ先に呼び出されるのが、他ならぬあんたなわけじゃない」

「あ……ああ。

 そーいえば……」

「そんなわけで、未知の案件に直面して、冷静に対処できる人材は意外に少ないわけです。

 シナクさんとキャヌさんは、冒険者と事務方の違いはあっても、ギルドの中でも冷静に動ける人の代表ということで、ここにお呼びしたわけですが」

「その……あまり前例がないお仕事、ってのは……具体的に、どんなものがあるんですか?」

「これまでにシナクさんが緊急出動という形で呼び出されてきたような、これまでにあまり例がなかったモンスターへの対処とか……先ほどもはなしました、警邏隊との連動業務、迷宮壁面の破壊工作業務、魔法統括所から発注される予定の新型術式試用試験、それに、剣闘場への出場する人たちの手配とか……とにかく、これまでにギルドが経験してこなかったお仕事はすべて、いったんこちらの部署で受けていただきます。

 そのあと、引き続き同じようなお仕事が発生するようなら、そこで作った前例を参照しながら管制でも処理できるようになると思うのですが……」

「前例作り……現場での具体的な対処法と、それに事務処理に必要な諸経費の算出方法を求めるための部署、というわけですか?」

「もちろんそれだけではなく、本物の緊急事態にもこちらで対処していただく予定です。

 というか、むしろそちらが本筋です。

 ギルドでも選り抜きの人員を配置して、どんな事態にも対処できるようにします。

 最近、迷宮の方も、変な意味で活発になってきているようですし……」

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