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83.あるあさのじょうけい。

 迷宮内、射撃場併設合宿所内、シナクの部屋。

「……厚い……苦しい……身動きがとれない。

 はっ。

 な……なんだ、この状態は?

 視界のほとんどが肌色で……」

「おお。シナク、起きたのか?」

「ティリ様ですか?

 声はすれども姿は見えず……」

「ほれ。

 ここにおるぞ」

「ちょ……おれの腕になにを押しつけているんですか?」

「おなごが口に出せぬ部位になるな」

「……ん……シナク……」

「え? ルリーカまでいるのか?」

「……ぺろ。

 ここ……」

「こ、こら!

 そんなところ、舐めるな!」

「ん……うるさいな……朝から……」

「リンナさんまでなにやっているんですか!」

「残念なこことに、今回もなにもしてないぞ。

 全員で同衾していただけで」

「十分になにかしていますよ!」

「……ん……朝からテンションが高いのは、ここだけにしておけ……」

「変なところをさわらないでください!」

「一定量の酒が入ると熟睡するのは相変わらずだが、ここの元気さも相変わらずであったな」

「ほんに、逞しく」

「昨夜も、堪能した」

「おれが寝ている間になにをしているんだあんたらは!」

「……こら……大声を出すな……。

 頭に響く……」

「おいおい。全裸までいるのかよ?」

「先ほどから、ずっとな。

 ほれ、ほれ」

「だから、背中に無駄に大きな脂肪玉押しつけるな!

 あー、もう!

 おれは起きる! 起きますからね!

 おれの上からどいてくださいね!

 ………………っと?」

「……あ、あの……」

「……ギリスさん……も、いらっしゃったんですか?」

「は、はい。

 おはようございます。

 昨夜は珍しく深酒をしてしまいまして……。

 その。

 大いに、勉強させていただきました」

「勉強……ですか?」

「その、シナクさんの……」

「隅から隅まで、な」

「全員で、鑑賞会あんど勉強会」

「詳細な解説つき」

「……あ……お……」

「大丈夫だ。問題ない」

「鑑賞に耐えうる、綺麗な体であったぞ」

「肌、すべすべ」

「……お……お……」

「ここまでお膳立てが揃っても誰にも手を出さないというヘタレぶりを除けば、ご覧の通り、男性機能にも問題はないし」

「ご覧になるっているんじゃねー!」

「こら。

 無駄に騒ぐな」

「なんなら、今からでも」

「まだ早朝だしな。時間はある」

「わらわは一度射精という現象をこの目で見てみたいと思っておったのだが、これもいい機会か」

「いや、いい機会じゃありませんから!

 ええと、パンツパンツ。

 おれの下着は……」

「あの。こちらに」

「あ、どうも。ギリスさん。

 ……って、ギリスさんも脱いでるんですか?」

「ええ。

 服を着たまま寝ると皺になりますし、ここのベッドは大きいと聞きましたし、みなさんが全裸でひとりだけ服を着ているというのもなんですし……」

「よかったらそのまま寝ていてもいいですよ。おれはもう起きますけど!」

「みなさんほど見映えのしない裸体で申し訳ございませんが……。

 塔の魔女さんほどはちきれていませんし、リンナさんほど細くありませんし、ティリ様ほど若くありませんし、ルリーカちゃんほど小さくありませんし……」

「なにわけがわからないことをブツクサいっているんですか」

「そこへいくとシナクさんの裸体は、小柄なかにも男性らしい勢いがぎゅっと濃縮されているようで、大変に眼福でございました」

「いえいえ。どういたしまして。

 ……まだ酔っているのかな、ギリスさん……」


「脱出成功。

 ……シャワーでも浴びるか。今の時間帯なら空いているだろう。

 みんな、自分の部屋があるのにな。

 ときおり、ああやっておれの部屋に泊まろうとするから、油断がならない。

 あのうち約一名はほとんど毎晩のように抱きついて添い寝しているわけだが」


「……ふう。さっぱりした」

「あ。オーナーのシナクさん。

 今朝ははやいっすね」

「おお、おはよう。

 なんか食べられるもの、ある?」

「もう少しでパンが焼きあがりますよ。

 お飲物はいつものやつで?」

「ん。カフェオレ頼むわ」

「蜂蜜たっぷり、ですね」

「昨日の肉もたっぷり残っているんですけど」

「じゃあ、肉料理も適当に」

「はい。では、すり下ろした生姜と絡めてソテーしますね。

 あと、野菜の煮物もおつけします」

「いつもすまないな」

「いえいえ。体が資本のお仕事なんですから、毎食しっかり食べないと。

 はい、ハニーカフェオレですね。

 あと、焼きたてのパン、と」

「この、柔らかくて白いパンにもすっかり慣れちまったな」

「堅焼きの方が保存が効くんですけどね。

 ここでは毎日四回はパンを焼いていますし、保存のことを考える必要もありませんから」

「こっちの商売の方は順調なの?」

「おかげさんで。

 射撃場も合宿所も外食の方も、まだまだ人手が足りない状態が続いております」

「人が増えたからな、この迷宮も」

「そうですね。

 食品や衣料、武器などはあればあるだけ捌けていく状態ですし。

 うちの方も、射撃場の拡張とか出店とかを考えているみたいですよ。

 お金と需要はあっても、人手が足りなくてなかなか実現に移せないみたいですが」

「出店かあ。

 やっぱ、独立とかしたいもんなの?」

「機会があれば、してみたいっすね。

 迷宮の中で経営まで一通り経験して、そしたらいつか郷里に帰って、自分の店を開いてみたいす」

「ああ、いいな。そういう堅実な人生設計。

 おれみたいな稼業をしていると、どうにも地に足がついていかなくていけない」

「冒険者にもなりたいとは思ったんですけどね。

 やってみたたら、パン焼いたり料理を作ったりするのもなかなか性にあっている。

 真面目に働いていれば、それなりにお金も貯まりますし……」

「そりゃあ、なあ。

 交代制で、こんな時間から全開で働いているくらいだし、それで金が貯まらないというのなら、そりゃ、よほど待遇が悪いってこった。

 きみたちみたいなふつうの人たちがしっかり商売に励んでくれるからおれたちも不自由することなく働くことが出来るわけでな。

 今後も、無理をしない程度にがんばってください」

「はい。

 パンとモンスター肉の生姜焼き、野菜の煮物お待たせしました」

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