73.こうさくからはじめよう。
迷宮内、治安維持隊本部。
「ああ、どうも。
一応、リンナさんと一緒にこちらの責任者ということになっているシナクといいます。
で、頭脳種族の方々にやっていただきたいのは、ですねえ。
捜査活動の補助や緊急出動時など、これまでにあまり例がない仕事に関する報酬体系の確立と、備品類を揃える際に必要となる予算の管理……」
「ようは、経理事務全般というであろう」
「そう。流石に、はなしがはやい。
それと、治安維持隊の規則も、詳細に見直しておいてください。
従来、扱ってこなかった職務もこれからはこちらで請け負う形となります。
様々なパターンに対応できるような形に……」
「わかった。それも、確かに必要なことであるな。
使用可能な予算の総額はギルド本部に、これから必要となる仕事の詳細についてはそこの猫耳に尋ねればよいのだな?」
「あ、はい。
そこのミルレイなら、これまでの事情をよく知っているはずですから。
ミルレイとマスターのところの三姉妹。
こちらの頭脳種族の方々と協力して治安維持隊の土台を作り直してください」
「……それはいいですけど……」
「そうなると、この人数では完全に手不足です」
「……少学舎の方からも人を送るようにせっついておいたんだけどなあ……」
「あの王子様も、軽いというか調子がいいところがありますからねー。
いまひとつ、言葉に重みがないというか……。
あ。
シナクさん。
とりあえず、一番戦力になりそうな五百名をピックアップし終わりました」
「それ、ナビズ族に渡して。
そんで、ナビズ族。そのリストにあるやつらに、片っ端から維持隊の仕事をやらないかって打診する仮想文を出して。
よさそうな感触が帰っ来た者は、順次、修練所のカスカ教官のところに案内して」
(了解ー)
しゅん。
「すみませーん。
少学舎から斡旋された事務員ですがー……」
「おお。来たか。
えっと……二十名……くらいかな?
思ったよりも多くよこしてくれたな。
ナビズ族、追加の机と椅子は、まだ?」
(まだー)(目下、予約待ちー)
「……職人が足りないとかもいってたしな……。
しゃあない。
材料と図面、工具とかはどこからか調達できるのか?」
(それぐらいならー)
「じゃあ、その手配をしてくれ、ナビズ族。
人数が増えて必要なものがいつ届くかわからない状態なら、こっちで作っちまった方がはなしがはやい。
ええっと、たった今来たばかりですまないが、君たち。
材料と工具が届いたら自分で使う椅子と机を作りはじめてくれ。
それまでは……」
「……治安維持隊概要とこれからやるであろうと予想される職務について、こちらにまとめておきました」
「お。ミルレイ、でかした。
いちいち説明するのも面倒だから、これを回し読みして必要だと思ったものをメモもしておいてくれ」
(シナクー)(木材と工具はあるけどー)(運んで来る人がいないー)
「おっと。
では、さっき来た人のうち、体力に自信がある人十名くらい、おれについてきて。
ナビズ族。
案内を頼む」
迷宮内、資材置き場。
「ちわーっす。
治安維持隊の者ですがー」
「おお。こっちこっち。
思ったよりも早く取りに来たな」
「こちらも急いでおりますので。
……持って行くのは、こちらの木材になりますか?」
「そう、それだな。
なんだ? 台車もなにも持って来てないのか?」
「そもそも、おれたちは本職でもなんでもない臨時の者でしてね。今回はあくまで臨時で引き取りに来たわけです。
それで、出来ればその、あんまり大きすぎるものに関しては、持ち運びしやすい大きさに切ってくださると有り難いのですが。
あ。
鋸かなんか貸してもらえれば、こちらでやっても構いませんが」
「いいよ、いいよ。素人さんに任せるとかえって時間食うし。
そっちの板材なら、持てるだろう?
そっちを運んでいるうちに角材も適当な長さに切っておくよ」
「そりゃ、どうも。
で、受け取りの書類は?」
「ああ。こっちだな。
ここのところに、署名を……」
「あ、どうも。
シナク……と。
これでいいっすね?」
「はいよ。
……なんだ、あんた。
よりにもよって、あのぼっち王と同名なのか?」
「ははははは。
確かに、同じ名前っすねえ」
迷宮内、売店。
「ええっと……紙とインクとペンと……。
そうそう。
それから、照明用の術式も、ええっと……五十ばかし仕入れておくか。
あ。
領収証、ください。宛名は冒険者ギルドで」
迷宮内、即売会場。
「ええっと……工具。
鋸と金槌と釘と……塗料も、あった方がいいのか。
とりあえず、こんだけください」
迷宮内、治安維持隊本部。
「……なんだ、この有様。
とんてんかんとんてんかんという金槌の音をここで聞くようになるとは……」
「あ、リンナさん。お疲れ様です。
いやね。
本職の職人さんの手がふさがって、什器類がいつ届くかわからないというから自分らで作った方が早いかな、って。
椅子にしろ机にしろ、複雑な造作でもないんで図面通りに作れば素人でも作れそうでしたし……」
「それは、奇特な心がけだな。
そちらの作業が一段落したら、ついでにこれから使わせる予定の棒を用意させようか。
いくらかは修練場にも用意したが、この分ではまだまだ数百本単位で必要となりそうだからな」
「材料買ってきて研修生に作らせた方が早いっすよ。
それこそ、加工といっても寸法通りに切って塗料を塗るくらいだろうし」
「そうだな。そうするか。
自分で使う道具を自分で作らせるというのも、いいかも知れぬな」
「で、どうですか? そっちの様子は」
「なに。
今となっては剣聖様の土壇場になっておるな。
剣聖様が各所関係者のところを回って、都合のよい約束を取りつけておる。
いくらもしないうちに、かなり具体的な構想が出来上がって来るであろう」
「ま、あの人のやることだしな。
多少の無理はごり押しで通しちゃうだろうし……」
「それで、シナクよ。
こちらの方の進行具合は?」
「見ての通り、急に人数が増えて賑やかになってきました。
先ほど、新たにピックアップした候補者五百名に連絡を取って、カスカ教官のところに送り込んだところです」
「……そんなに一気に増やしても、受け入れる側が難儀するのではないか?」
「こちらから声をかけた候補者が全員、応じてくれるものではありせんし、修練所にはカスカ教官以外にも大勢の教官がいらっしゃいます。
向こうで手に負えないようだったらこちらに連絡してくるでしょう」
「それもそうか。
……ナビズ族。
今現在、治安維持隊の候補生として修練を受けている者の人数は?」
(六百八十六名ー)(なお増加中ー)(明日以降から研修を受けると意見を表明した者ー)(別に、二百六十七名ー)
「今の時点で九百名前後がほぼ確定、か。
……想像していたよりも、悪くはないな」
「本職の軍人さんたちなら、探索業務よりはこっちの仕事の方が向いているような気もしますしね」
「癖が強い冒険者たちと直につき合うとなると、色々摩擦も起きやすいしな」
迷宮内、迷宮日報編集室。
「王子。
最新号の見本が刷りあがりました」
「……どれどれ。
うむ。いいな。
同時多発案件の続報に、商工会見本置き場に現れた巨人と、それを秒殺した冒険者シナク。
そのシナクたちが立ち上げつつある、新しい形態の治安維持部隊。
広告欄では、有害薬物撲滅キャンペーンを開始。
この調子で、せいぜい派手に盛り上げていけ」