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71.そなえるひとびと。

 迷宮内、迷宮日報編集部。

「こちらが最新号の早刷りになります」

「ふむ。

 同時多発大量発生案件の特集か」

「この案件についてはまだまだ誰も全容を把握しておらず、あくまで今の時点で判明していることをまとめただけですが」

「とりあえずは、それで十分だろう。

 ギルドの正式発表はまだないのか?」

「諸データを集計してあとめている最中で、公式見解を発表するまでには今少し時間がかかるとのことです。

 モンスター討伐数もクエスト参加者数もかこ最大規模とのことですから、多少の混乱があるのは無理もないことかと」

「で、あるな。

 ところで、記者の中で一番不慣れな者二名というと誰と誰になるのか?」

「見習いも記者のうちに入るんですか?

 それでいいのでしたら、ゼガスとバイズスになるのかなあ……」

「その二名をここに呼べ。

 しばらく、治安維持隊の事務員としての仕事をこなしながら、こちらへも情報を流して貰うことにする。

 あそこは、しばらく動きが激しく新鮮なニュースを提供してくれそうな部署になりそうであるからな」


 迷宮内、某所。

「頭目。

 各班長、揃いました」

「はい、ご苦労様ぁ。

 すでに耳に入っていることかと思うけどぉ、これまでの任務に加えて勅命として迷宮内に入り込んだ違法薬物を流通させる行為そのものを殲滅する任務についてもこちらでやるようにいいつけられましたぁ。

 それで、まずはそれらしい痕跡なり手がかりなりを虱潰しに探していこうと思っているんですけどぉ……」

「頭目。

 新たなにそこまで大がかりな仕事を手がけるとなると、人手も資金もまるで足らなくなると思われるが、そのあたりについてはいかがなさいますか?」

「……んー。

 なんたって、勅命だからねぇ。

 いいんじゃない? ばんばんつかっちゃっても。

 なんたって、帝室の意向に逆らうわけにはいかないわけだしぃ……」

「では、郷里から人数に制限なく呼び寄せてもよいと?」

「経費は帝室持ちで使い放題なわけで?」

「うん。それでいいと思うよぉ。

 なんたって、勅命なわけだしぃ」

「「「「「……やったぁ!」」」」」

「今回は単身赴任が長かったからなあ」

「ああ。ようやく家族を呼ぶ事が出来る」

「迷宮で仕事をしているっていうと、一緒に連れていけってうるさいんだよな。

 こっちは別に、遊びで来ているわけではないのに……」

「はいはい、みなさん。お静かにぃ。

 お金も人手も使い放題でいいけどぉ、とにかくそれに見合った成果は確実に上げてちょうだいねぇ。

 今回のお仕事は地元警邏隊との合同捜査という形になります。

 そこで帝国影組がヘタをうったらいい笑い物よん」

「「「「「はっ!」」」」」

「それでは、やることはもうわかったわねん?

 散って、各自必要なお仕事を開始してちょうだい」

「「「「「はっ!」」」」」


 迷宮内、入り口付近。

「通常の探索業務を再開したとはいっても、管制窓口は思ったよりも混んでいないな」

「冒険者も別に、全員が全員仕事熱心というわけでもないからな。

 午前中の同時多発案件でもう十分に稼いだと思って飲んだくれたり寝たり遊びに行ったりしている者も多いし」

「確かに、相手が多かったから討伐報酬だけで大した稼ぎになったな、あれは」

「あの新型術式、ずいぶんと使い勝手がよかったな。

 最初の設定が面倒くさかったけど、そこさえ越えれば自動でばばばばーんとモンスターを吹っ飛ばしてくれるわけだし。

 あれが正式に売りに出されれば、それこそ誰だって冒険者として通用するようになるぞ」

「あの案件が終わったら、すぐに回収されちまったからな。

 あそこまで完成していれば、正式に売りに出されるのも時間の問題なんだろうけど……」

「……いずれ売りに出されるにせよ、最初のうちは高いんだろうなあ」

「まあ……威力を考えると、白金貨が何十枚、って単位だろうな」

「初心者こそ重宝するであろう術式でありながら、そこそこ仕事をして金を貯めていないと買えない価格になるこの矛盾」

「そうなったらなったで、分割後払いとかそういうフォローがあるだろうよ。前例があるし、うちのギルドも大量投入を狙っているだろろうし……」

「だな」


 迷宮内、射撃場係員控え室。

「……というわけでぇ、あなたたちにはしばらく治安維持隊の事務員としてシナクさんたちのお手伝いをして欲しいんだけどぉ」

「ママ。

 まだ本職の冒険者になるのは駄目なの?

 はやく冒険者にならないと、迷宮が完全攻略されちゃうよ」

「うーん。

 あなたたちがもう少し大きくなったら考えないこともないんだけど……今の時点では、パパが反対すると思う。

 一見遠回りに思えるかも知れないけど、基礎的な知識やスキルをしっかりと身につけておけば将来きっと役にたつはずだから、もう少し我慢して下積をがんばってみて。

 そうしたら、ママ、折を見てパパを説得してあげるから」

「……ママ、いつも、それだしぃ」

「なんだかんだいって、射撃場でのお仕事も学ぶところが多くて、将来役に立てそうなスキルがいっぱい取得出来たでしょ?

 今度の治安維持隊はこのギルドでもトップクラスの冒険者が未知の事態にどう対応するのか、実地に見聞できるとても珍しい機会なの。

 シナクさんたちがなにを見てどう考え、どう判断してどう動くのか、間近で見続ける機会なんてそうそうありはしないんだから、文句をいわないでしっかり働いて、見て、そして盗むべきところを全部盗んでいらっしゃい。

 それらは絶対、あなたたちの貴重な財産になるはずだから」


 迷宮内、魔法関連統括所。

「……以上が、新型術式の使用例を集計した結果。

 これを見て、なにか思いついた改良点を述べる」

「あの……ルリーカどの。

 われらは魔法兵であって、魔法の研究者でも技師でもないわけであるが……」

「黙れ、想像力欠乏症患者」

「……ひっ!」

「午前中の案件で、この術式の効果を間近に見た者。

 挙手」


 ざざざっ。


「挙手した者に問う。

 この術式の効果は、十分に性能を発揮していなかったか?

 あるいは……この術式さえ使用できる状況下であれば、魔法使いは不要といっても差し支えない性能ではなかったのか?」

「そ……それは、確かに……」

「しかし、それではわれら魔法兵の立つ瀬というものが……」

「第一、おのれの体内魔力を使用しない術式は邪道といってよく……」

「では、あなたたちは迷宮内において、この術式よりも自分たちの方が役に立つと……そう、大声で請け合うことが出来るのか?

 迷宮内の魔力を使用するこの術式は、魔力切れなどとは無縁の代物。

 半永久に最大出力で攻撃魔法を放ち続けることが可能。

 あなた方はこの術式よりも強力な攻撃魔法を永続的に放ち続けることが可能なのか?

 どうした?

 返答がない。

 つまりは、自分たちがこの術式よりも劣ると認めるわけだな?」

「し……しかし、ルリーカ殿!」

「では、次の問い。

 この中で、冒険者のパーティに混ざって探索業務に参加した者は、挙手。

 意外と、多いな。

 では、その中で冒険者たちとうまくやれた者、次も一緒にパーティを組もうと誘われた者はどれほどいるか?

 ふ。一気に減った。

 先ほど挙手した者の、せいぜい三分の一ほどか。

 そちらにもいいたいことはあるのだろうが……この結果を見る限り、他の冒険者たちから見れば、魔法使いはそれだけ扱いにくい人種だという認識が今後速やかに広がっていくことになるであろう。

 そうした状況下において、生身の魔法使いに頼らずとも攻撃魔法を撃てるこの術式が、誰でも使用できるようになれば、ますますわれら魔法使いは忌避されていくのではないのか?

 そのことについて、貴公らはどのように考えるのか?」

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