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69.けんせいさま、そそのかす。

「シナク!

 シナクはおらぬか?」

「おや、王子。

 どうしました? こんなところまで」

「どうしたもこうしたもあるか。

 またそぞろ、一人で目立つ真似をしおって。

 商工会の見本置き場で大暴れしたそうだな。

 その件について詳しく語って貰うぞ。

 いやとはいわせん。

 こちらも、色々と便宜を図っているのであるからな……」

「いやとはいいませんけどね。別に。

 リンナさん、こっちは……」

「もう、いいのではないか?

 あちらで小隊長と警部がはなしだしたことであるし、序盤の繋ぎは取れたと見てもよかろう」

「そうっすね。

 では、こんなところではなすのもなんですから、治安維持隊の方にでも……」


「……王子!

 王子ではないか!

 ちょうどよかった。ちと、こちらへ参れ!」


「……王子様。

 ほら、剣聖様がお呼びですよ」

「なにやら……いかにも、いやな予感がするな。

 そもそも余は、あのような強気系のおなごは苦手とするところ」

「でも、いうことを聞かないと、それはそれでひどい目に遭わされることと思われますが」

「……仕方がない。

 ちくと、行ってくるか」


「で、一国の王子を呼びたてるとは、どれほどの大事であるか?」

「なに。

 ちょいと、この王国中の地下組織を潰して回ろうと思いたってな。

 しばし、王子の名と日報の紙面を貸せ」

「…………は?」

「聞こえなかったか?

 この王国中の地下組織を潰して……」

「いや、聞こえた。

 聞きたくはないが、しかと聞こえた。

 そんな無茶に……どうして、余を巻き込む。

 だいたいにおいて、そうした組織もそれで潤う連中がいるからのさばっておるのだ。

 いたずらに刺激したところで受益者どもの反発を招くだけであるし、その受益者の中にはそれぞれの地元にしかと根を張っている者も少なくはない。

 今のバランスを壊すと、どのような災害を招くことになるかわからぬぞ」

「では……反旗を翻す気にもならないくらいに、徹底的に叩き壊して回ればよい。

 その為の戦力は、この地にすでにある。

 おぬしは……そもそも、領主どもの権限を制限して、民の権限を拡大することこそをまず第一の目標としていたのではないのか?」

「それは……そう……なのであるが……」

「この迷宮のモンスターと、それら地下組織。

 どちらを敵に回した方が怖いと思うか?」

「そこいらのチンピラよりも、モンスターの方が怖いに決まっておる」

「ここの冒険者たちが、地下組織の連中を前にして二の足を踏むと思うか?」

「……いや。

 むしろ、その逆に面白がって参加したがる者が多いくらいであろう。

 少学舎に来た子らの多くも、それぞれの地元ではそれなりに苦労してきた。

 復讐……いや、逆襲の機会を与えれば、率先してしたがる者の方が多いはずだ」

「では……今となっては内外に大きな影響力を持つ迷宮日報と、その主幹でもありこの国の第一王位継承者であるおぬしが迷宮内のみならず、王国中、いや、それ以上に広範な地域に向けて薬害撲滅のキャンペーンを行ったら、それなりに盛り上がるのではないのか?」

「期間ややり方にもよるが……世論を盛り上げることは、可能であろうな」

「そのことは、王子であるおぬしの世評を傷つけるか?」

「いや、傷つけぬな。

 逆に、よい評価に繋がろう」

「そうして世論が盛り上がってきたとき、おぬしの号令でギルドの戦力が大々的に地下組織を潰していったら……世の人々は、喝采を叫ぶのではないか?

 おぬしがギルドにそのようなクエストを発注したことにしてもよいし、おぬしとギルド首脳部が意気投合してそういう流れになったとしてもよい。

 理屈は、あとでどうとでもつけられる」

「喝采を叫ぶ……というより、表だって反感を示しにくくなることは確かであろうな。

 世論が盛り上がっていさえすれば」

「では……いったいなにが問題か?」

「いや……それは、しかし……。

 うむ……」

「決断するまでには、まだ時間がある。よく考えればよい。

 こちらの警部は、迷宮内の薬害を撲滅する任についてこの場にいる。

 しかし、迷宮内の薬害を一掃しようとすれば、外から流入しようとする薬物をどうにかしなくてはならない。

 そのためには、違法な薬物を扱う組織を片っ端から潰していくのが一番確実な方法となる。

 たとえそれらの地下組織のいくらかが地域経済としっかり結びついていたとしても、そんな結びつきは後に世代にとっては負債としかならぬ。

 そうした負の資産はあらかじめ片づけておいた方が、来るべきおぬしの治世にとってもよろしいのではないのか?」

「……ああ。

 ……うう」

「はなしは、それだけだ。

 あとは、とくと考えて返答いたせ。

 ほれ、シナクのやつが待っておるぞ」


「剣聖様、なんのはなしだったんですか? 王子」

「あれは……とんでもない、正義の味方であるな」

「……なにを今さら」


「剣聖様。

 その……今のおはなしは?」

「たった今思いついたことを口にしてみただけなのだがな。

 思い返してみるに、なかなかにいい案ではないか。

 警部よ。

 おぬしの任にとっても十分な益があろう」

「十分な益といいますか、もっとそれ以上にとんでもなく根本的な解決策と申しましょうか……」

「なに、既存の組織をいくらきれいにしたところで、悪とはそもそも人間の本性に根ざしたもの。

 かわりの地下組織はいくらの時間も必要とせずに立ち上がろう。

 しかし、例えかりそめにでもそうした組織を潰して回ることは、決して無駄ではない。そうすることによって助かる人間が、間違いなくいるからだ。

 それに、な。

 わたしもずいぶん長いこと正義の味方をやってきたわけだが、これまではあくまで個人営業で出来る範囲の仕事しかなしえなかった。

 一度くらいは正義の戦隊というものを率いてみたくなっての」

「正義の……戦隊……ですか?」

「幸い、今のギルドでなら、それが可能だしな。

 王子の号令に応じるという形ではあるが、どこかの国や既存の権力による専横ではない形で犯罪組織に立ち向かえる機会なぞ、そうそうあるものではない」

「確かに……今、こちらのギルドが抱える冒険者を動員出来るのなら……かなりのことが可能でありましょう」

「警部。それに小隊長。

 おぬしらは、この案に反対か?」

「反対という事もないですが……少々、こちらの想定を遙かに越えておりますので……なんとも判断をしがたく……」

「おれは、賛成ですね。

 実に、面白そうな案でございます。

 是非とも、わが小隊にも参加させてください。

 うちの小隊の連中は、使えるの揃いですよ」

「小隊長!」

「いいじゃねーか。

 たまにはこういう面白そうな仕事に手を着けなけりゃ、退屈でしかたがねー」

「そうかそうか。

 おぬしらの意見はわかった。

 わたしはこれからギリスの元に赴いて存念を吐いてくることにする。

 この場の修練は任せてよいな? カスカ」

「はぁい。剣聖様ぁ」

「では、失礼する」


 迷宮内、治安維持隊本部。

「……へぇ。

 剣聖様が、そんなことを……。

 いわれてみれば、あの人が考えそうなことではあるよな」

「暴走型正義の味方であるからな、あれは。

 仮に余がここで反対をしたとしても、あの強引さにいつの間にか引きずられてしるような気がする……」

「それ、たぶん正解でしょう」

「はい。お茶です」

「あ、どうも」

「すまんな」

「ミルレイ。

 留守中、なにかあった?」

「書類がいくつか回ってきました」

「どれどれ。

 あ。管制からか。

 ふんふん。

 治安維持隊、千五百名以上確保……かあ。

 今日みたいな騒ぎが頻繁にあるようだったら、その程度の備えは必要になるか」

「お。

 そうであった。

 まずは、今日の騒ぎについて語って貰うぞ、シナクよ」

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