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67.ほばくしゅうれん。

 迷宮内、作戦小会議室。

「……モンスターが無秩序に、任意の場所に出現する可能性……ですか?」

「ええ。

 今回の同時多発大量発生案件は、その可能性を示唆していると思います。

 モンスターが出現する条件などについても、これまでにまったく判然としていないわけですし……。

 わかるのは、いくつかの経験則のみだったわけです。その経験則のうちのいくつかが、今回の件で破られました。

 今後はより一層の警戒を要するかと……」

「具体的には?

 治安維持隊の増員……でしょうか?」

「具体的な対策としては、そうなってしまうでしょうね。

 冒険者さんたちが日常的に入り浸る場所なら、本音をいえばさほど心配はいらないと思います。そんな場所にいきなりモンスターが出現したとしても、本職の彼らならばすぐに対処してしまいます。

 でも、共用部など、外来者向けの空間においては、今以上に有事の際に動ける人員を配置するようにしないと……」

「……ちょうど今、薬物被害対策の件がらみで治安維持部隊の増員計画が提出されております。

 それに便乗して、もっと増員をかけちゃいましょうか?

 今の時点で計画されているのは三百名から五百名、警邏隊とのはなし合いいかんでは、もっと……と書かれていることですし」

「千名以上を預けて、具体的な運用に関してはお目付役の頭脳種族をつけて改めて考える……ということにしましょう」

「……あ。

 今日から、百名以上の人たちが治安維持隊に編入されて専用の修練メニューをはじめていますね。

 大多数は、冒険者登録はしてあるものの、長いこと現場には出ていない半リタイアの冒険者崩れみたいですけど……。

 よくこんな人たちを見つけて集めてきたなあ……」

「ええっと……指導教官は、カスカ教官……と、剣聖様!」

「シナクさんとリンナさんの仕業ですね。

 流石に素早い対応」

「直接呼び出して連絡を取ってみますか?」

「あ。

 今頃、警邏隊の人たちと会議している最中じゃないかな?

 今日の午後一でそんな予定が入っているとかいってたから……」

「じゃあ、仮想文に書いて伝えておくか」

「あとは、念のため、治安維持隊の本部に文書も届けておきましょう」

「あそこに事務所、今、人いたっけ?

 前までは、何日かにいっぺん、決まりきった事務を行う人が巡回して仕事片づけていたけど……」

「事務員の募集もかけていたし、誰かしら留守番くらいはしているでしょう」

「事務員も増やすつもりなんでしょうね」

「手順書作るの好きですからね、シナクさん」

「面倒だけど、あれが一番効果ありますからね。

 決まりきった対処法を急いで大勢の人にたたき込むのには」

「少学舎の方にも声をかけているようでしたが……最近の状況だと、すぐには集まらないかなー……」

「こちらもご迷惑をおかけしているわけですし、少し優先的に人を回しますか?」

「労働者外来、だったけ? 最近新設するとかいってた部門。

 あそこにいって、優先的に人を回してもらう?」

「それがいいね。

 事務員みたいな知的労働の需要は、他の肉体労働と較べたら少ないようだし……」

「今後必要なのは外で働く農夫さんとか工夫さんだっていうしね。

 長く住み着くつもりで一家丸ごと移住してくるのなら農夫さん。半年くらいの出稼ぎで帰るつもりなら工夫さん。

 どちらも遠い外国からはるばるやって来るというはなしだし」

「迷宮内の人手もまだまだ足りてないんだけど、外の荒野を本格的に有効活用しようとしたら何人いても足りないんだろうな」

「それこそ、桁が違うっていうか」

「うちのギルド、お金を持っているからね、今は」

「その金蔓である迷宮を守るためにも、治安維持隊の屋台骨はしっかり補強しておきませんと……」

「薬物被害の根絶と、いつどこに現れるのかわからないモンスターへの対応……。

 厄介なお仕事ばかりですが……」

「まあ、あの人たちがやることだし」

「案外、やりはじめるとすぐにでもなんとかしちゃうんじゃない?」

「今までだって、さんざん無茶なお仕事を押しつけてはなんとか解決して貰ってますしね」


 迷宮内、修練所。

「で……あちらにいるのが、カスカ教官と……あれ? 剣聖様?

 それに、グリハム小隊長と副官さんまで……」

「おお。

 遅かったではないか、シナクよ」

「へへへ。どうも。

 昨日のおはなしを聞きまして、早速こちらの修練の模様を見学させていただいております」

「……ご協力、感謝します。

 手回しがよすぎるのがいささか気にかかりますが……。

 その、いいんですか? 上のご意向は?」

「そっちは、それ。

 書類さえ整えれば、あとはなんとでも。

 部署は違えど同じ王国の組織です。協力して事にあたっても、なんの不都合がございましょうか?」

「小隊長は少々退屈していたところでして。

 それに、先の水竜作戦においては柄でもない役回りを演じてしまったのでここのところかなり不機嫌になっておりました」

「……お前、余計なことをいうなよ」

「シナクさん、こちらの方々は?」

「王国軍の、グリハム小隊長になります。

 今回の件でも、協力をしてくださるように頼んでいたところでして……」

「ああ! あの、野盗狩りのグリハム!」

「へへへ。

 そのように呼ぶ方もいらっしゃるようで。

 軍属とはいえ、ここでは冒険者として登録してかなり自由にやらせて貰ってます」

「いえ。

 ご高名な小隊長どのにご助力をいただけるのならば願ってもないことです」

「こちらのつもりとしましては、小隊長たち軍籍冒険者の方々には警邏隊の方々と組んで積極的な捜査活動を行って貰うつもりでしたのですが……」

「なるほど! それは妙案ですな!

 こちらとしましても、名高い小隊長どの手腕を直に見聞するいい機会となりましょう!」

「詳しい打ち合わせはあとでじっくりする事にしまして……この場では、修練の実際を見学してみましょう。

 カスカ教官、よろしいでしょうか?」

「いつでもよろくしてぇ。

 剣聖様と一緒に考慮した修練内容となっております」

「……長い棒、ですか?」

「それが、基本装備になりますねえ。

 状況により、楯とか麻痺銃とかも使用しますが、捕縛する相手を傷つけず、同時に自分が負傷することもなく……という条件を満たすとなると、こんなものになるかと。

 ぶっちゃけ、なにを使おうとも大勢で取り囲んで押し包めば、取り押さえるだけならどうにもなるんですけどねぇ。

 ただ、武装して錯乱した相手に安全にそれを行うとなると、相応の練度が必要になるでしょうねぇ」

「なるほど。理には、適っておりますな」

「捕縛組だけでもまずは三百名以上が必要と聞いておりますが?」

「最初のうちはそれでも間に合いますが、もっと増える可能性もあるそうです」

「では、そのように手配をしておきますぅ」

「その……あては、あるのですか?」

「はぁい。

 多国籍軍から流れてきた人たちの中に、少なからず探索業務に馴染まない方がいらっしゃるのでぇ。

 そのような方々に薬害撲滅の趣旨をご説明申し上げると、それは騎士にふさわしい仕事だと一にも二にもなく飛びついて来られますよぉ。

 そうした方々はすでに武の心得がございますぅ。そこに剣聖様とかブレズの騎士ダメル殿とかのご指導を仰げば、それこそあっという間に即戦力ぅ」

「だ……そうですが?」

「いや、実に、有り難い。

 数百名もの人員を動かしての一斉捜査。

 職務冥利に尽きますな。

 王都でこれほどの大規模捜査を行おうとしたら、いったいどれほどの書類と打ち合わせが必要になることか……」

「……警部……。

 遠い目をするのは後にしてください」

「……は。

 す、すまぬ。

 もう少し修練の様子を詳しく見学させて貰いたいのだが……」

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