66.ぎるどのけいかく。
ギルド本部。
「同時多発案件の影響により、現在は通常の探索事業を一時的に全面停止しております。
案件に対する根本的な対応策も一通り終わっておりますので、もう少し後片づけが進んだら通常の業務を再開する見通しです。
事実上、今回も問題なく処理できたとみていいでしょう」
「うちもぼちぼち人数が揃ってきましたし、その半分以上がそれなりに場数も踏んでいることですし……」
「大半が、通常の大量発生案件を現場で体験してきているということが強みになっているかと。
冒険者さんたちのおはなしによりますと、実践に勝る修練はないそうですから」
「それでなくとも、一日当たりのモンスターアカウント率は増える一方。
探索事業開始当初の数日分の実戦経験を、今では一日で体験することが可能です。モンスターの扱いにも、自然と慣れてしまうのでしょう」
「今回の同時多発案件によるモンスター討伐数は、目下集計中で詳しい数字はまだまだ出ておりませんが……百万の単位を越えるものと予測されております。
あまりにもモンスターの遺体が多すぎるので、外部へ希望を問いかけ、無償で配布しはじめたそうです。なんらかの加工するにしても、こちらでの人手も限られておりますので……」
「それで、ですか。
迷宮の入り口前広場や町のそこここでいきなりバーベキューがはやりまじめたのは」
「新鮮なお肉が大量にタダで出回りはじめましたからね。
町の人たちも含め、探索事業が休止されて時間を持て余した冒険者たちも大勢参加しての宴会があちこちで行われている模様です」
「戦勝祝いというわけですか?
……あまり浮かれすぎて問題を起こさなければいいのですが……」
「迷宮内外の飲食店も、以前と比較すればかなり増えて来ているはずなんですが……それ以上に、迷宮内の人口が急増しておりますので、普段はともかくこういうときに行くべき場所はすぐに満杯になってしまいます。
出来ることならば、そのままにしておいた方が今後の彼らのやる気にも影響してくると思うのですが……」
「わかっています。
問題を起こさない限りそのまま放置の方向で。
ここのところ長雨が続いていましたので、町の人たちにも気晴らしが必要なのでしょう」
「次の案件です。
商工会をはじめとして、冒険者向けの武器や装備、その他消耗品などの品不足は相変わらず続いております。
職人さんたちもフル回転で製造を急いでいるそうですが、モノによってはすぐに補充が効くというわけでもなく……急場しのぎで外部からの輸入を渉外さんに頼んでおります。
ただ、たいがいのものは迷宮内で製造するよりも品質が落ち、割高になってしまうので、消費者にとってはあまり歓迎出来ない状況になっているようでして……」
「生産が消費量に追いつくまでの辛抱です。しばらくはそれでやり過ごすより他、方法がありません。
一時的な現象ですから、もうしばらく我慢して貰いましょう」
「次の案件です。
警邏隊による薬害汚染対策の方ですが、こちらの治安維持隊と本格的な打ち合わせがはじまりました。
シナクさんは、軍籍冒険者の方々とも連携を取ることを考えているらしいいですが、警邏隊にどこまではなして許諾を得ているのかまでは不明です。
本格的な捜査活動がはじまるのはまだ少し先になるかと思いますが、こちらはこちらで順調に推移しているようです」
「あの人がやることですから、お任せしておいても問題はないでしょう」
「またそんな、やつがつけあがるようなことを……。
次に、外部から人を集める件ですが……」
「なにか進展がありましたか?」
「業種を問わず以前から広く募集をかけていたわけですが、ここに来てようやく大きな反響に恵まれるようになりました。
水竜作戦で迷宮の認知度が国外にも轟きはじめたという要因が大きく影響しているようです。母国に帰った兵士たちの口からこちらの様子が伝えられているようでして……」
「なんにせよ、人が来てくださるのなら歓迎すべきことですね。もうじき、大規模農園事業も本格的に開始することですし……」
「現状のところ、人手は、いくらあっても余ることはありませんからね。
その農場の方は?」
「数日前から、ドラゴンハンターの大型車両に土を耕させております。あれは馬力がありますから、一気に広い領域をほじくり返すことが可能でして、非常に効率がいいですね。
まずは迷宮内で発酵させた生ゴミを土と混ぜて様子をみるようです。大雨が降ったばかりですから、通常なら季節的にも雑草が生い茂るはずなのですが、肥料となる発酵した有機物を混ぜることよって植生が良くなり保水率も高くなるとか。
そうした雑草を飼料として利用しつつ、徐々に穀物や野菜も栽培できるよう、土壌改良を試みていく予定だそうです。
この手のことは時間がかかるそうで、すぐに作物が穫れるようになるわけではないというはなしでした」
「そのかわり成功したら、かなり広大な不毛の荒野を、飼料や農作物を生産するための農地となります。あせらず地道にやっていくしかないでしょう」
「平行して、王国軍の城塞の外から各所へ向かう街道の整備工事を開始しました。こちらは、単純に人手に任せた人海戦術となり、もちろん、かなりお金がかかります。
目下のところ、ギルドは儲けすぎの傾向があるのでいい出資先だとは思いますが……」
「森林部はともかく、荒野が広がっているだけの地域はさほど手をかけずとも道路として十分な機能を果たすはずです。
もう半年もすればまたそぞろ雪が降りはじめますので、手を着けられやすい場所からどんどん着手していってください」
「はい。
関連して、城塞外部に倉庫街を造る計画も発動しており、すでに基礎部を立ち上げはじめていおります。
撤退したり迷宮内に入ったりして姿を消した多国籍軍と入れ替わりに大人数の土木や建築に必要な人員が城塞の向こう側に集まりつつあります。
当然のことですが、住宅やそうした人手を当て込んだ商店もすぐに建てはじまることになるでしょう。
あらかじめ用意した都市計画に基づき、順番に建物を増していくそうですから、大きな混乱は起きないものと予測されております」
「城塞のすぐ外部に街道が交錯し、穀物や商品を備蓄する倉庫が立ち並ぶ。その外側がどこまでも続く農地となる……。
この計画が当初の予定通り完成すれば、迷宮が攻略し終わっても、この土地はこの地方の要衝として長く栄えていくはずです。
完成しさえすれば費やしたお金はすぐに返ってきますので、多少の無理をしても完成を急がせてください。
農地を立派なものにするためには長い期間が必要になるのかも知れませんが、建物や街道はお金さえ費やせば完成を急げるはずです」
「まずは上物から……ですね。
街道の方もすでに工事を開始していますし、これまでにため込んだお金を吐き出して出稼ぎ労働者を呼び込んでいる最中です。
具体的な成果が出始めるまでいましばらくお待ちください」
「この地方は一年の半分近く、大地が雪によって覆われてしまいます。
そのことも考慮して、急ピッチでお願いします」
「心得ております。
でも……本当に、ギルドに余剰のお金を残さないでよいのですね?」
「無駄に残しておいても外部の勢力につけ狙われるのが落ちです。
当座の運転資金まで使い込むのは問題がありますが、五年先十年先まで見越して貯め込む必要もありません。
ことによると、そう遠くない将来には迷宮を攻略し終わっているかも知れませんし……」