62.かくじのたいしょほう。
迷宮内、某所。
「どうか皆さん、落ち着いて。
あの巨人たちも冷静に対処すれば決して倒せない相手でもありません。
隊列を崩さず、前衛の人たちはモンスターをせき止めて後衛の人たちは距離を取ってモンスターを撃破。
敏捷ランクに自信がある人と銃器の術式を持っている方は後方の巨人に立ち向かいましょう。
攪乱をしつつ数名で狙い撃ちにすれば、どれほどの巨体を誇ろうとも労せず倒せるはずです。
魔法使いの人たちは、殲滅戦に向いているのでモンスターの群れに対処してください」
迷宮内、某所。
……どぉぉぉぉぉんっ……。
「……果たして、効いてくれますかね?
リンナさんに分けていただいた混乱させる呪術弾とやらは……。
あ。
巨人たちが同士討ちをはじめましたね。
知能は低いものの、どうやら彼らにも精神らしきものはあるようです」
迷宮内、某所。
「フルアーマードコニスちゃん、行っくよーっ!
……どっかーんっ!」
迷宮内、某所。
「……せいっ!」
ずしゃあっ。
「おお!」
「臑を斬った!」
「彩り豊かな鳥たちが次々と巨人たちに体当たりしていって……」
「……おまえーら、こっちを見物している余裕があるんなら、さっさとそっちのモンスターどうにかしやがれっ!」
迷宮内、管制所。
「巨人たちの出現に一時は動揺したもの、ほとんどの制圧隊はすぐに混乱を収拾。
今では何事もなかったかのように反撃を開始しています」
「思ったよりもタフですね、うちの冒険者の方々は」
「今まで、色々と経験してきましたからね。
古参の人たちの機転に引っ張られて、経験の浅い冒険者の人たちも勢いを盛り返しつつあるようです。
今までより制圧するペースは落ちるかも知れませんが、巨人の出現も大きく不利な要因として作用しなかったようです」
「不意討ちでさえなければ、普通に対処出来るはずです。
あれと同程度のモンスターは日常的に相手をしているわけですからね」
「それと、新型術式を貸与した隊の討伐攻略の改善が著しく。
やはり、あの術式はかなり使えるようです」
「初期設定さえ完了すればあとは自動的に敵を攻撃してくれるわけですからね。
反面、性能的な限界があるので、万能とは言い難いようですが」
「術式使用者を守るための措置としてデフォルトでは至近距離の攻撃が封じられているそうです。
それで、懐に入られた敵に対しては自力で対処する必要があるそうですが……」
「それでも、あれだけの魔法攻撃を常時自動で発動してくれるのですから、攻撃力をかなり倍増出来ているはずです。
現在の大量発生案件数は? あれから増加はありますか?」
「現在の件数、二十六……二十五……二十七……。
殲滅完了と新規案件発生とがせめぎ合っている状態です。
待機組も最初に出動した人たちが短い休憩を挟んで再出動しはじめています。その際、一度こちらに戻った人たちに対しては新型攻撃術式を配布しておりますので、実際の戦力はかなり増強されているはずですが……」
「フル回転で余剰戦力がほぼない状態、ということですね?
……これ以上、向こうで新しい動きがなければいいのですが……」
「ほぼ均衡して……いえ、こちらが段々と優勢になっている感じですか?」
「新型術式だけではなく、Exランクのお二人や人狼、吸血鬼などのこの手の力押し強い強い方々は、近くに魔法使いがいる場合は直接次の戦場に移転して転戦して貰っていますからね。
彼らは極めて短時間で大量のモンスターを処理する能力がおありですから、このような時には大変に助かります。
それ以外にも……以外と、後衛管制ランクが高い人たちが善戦して周囲の人たちに指示を飛ばして討伐効率化に貢献しているようです」
迷宮内、某所。
「管制!
こちらシナク!
次はどこにいけばいい?」
『近くにナビズ族か魔法使いはいますか?』
「ああ。
魔法使いがいる。
あんた、名は? 転移魔法は使えるか?」
「はっ!
グリダイ王国のリスイといいます!
もちろん、転移魔法は使えます!」
「グリダイ王国のリスイって人がすぐそばにいる。
彼に座標を教えてやってくれ」
『はい。わかりました。
グリダイ王国のリスイさんの冒険者カードをコールします』
ぴぴぴ……。
「……わっ」
「取って。
使い方の講習は受けているはずだろ?」
「は、はい。
こちら、グリダイ王国のリスイ。
冒険者のシナク氏をその座標にさせればいいのですね?
了解しました。
では、用意はよろしいですか?」
「ああ。いつでも」
しゅん。
「……冒険者シナク……。
たった一人で劣勢を覆し、戦線を立て直してしまった。
さぞや、名のある冒険者であるのに違いない……」
迷宮内、某所。
しゅん。
「……さて、と。
こっちはどうなってんのかな……って、早速自動攻撃術式が発動している。
ってことは、かなりの劣勢なのか?」
……うぉぉぉぉぉぉ……。
「ああ。
大量発生したモンスターが、元々かなりの大型タイプだったのか。
慣れていないと、あの手の相手は確かにきついし倒すのに時間がかかるか。
おまけに、後ろからは巨人たちが攻めてくるし。
どれ。
ひとつ派手にやって、意気を上げてやっかっ!
せいっ!」
ざっ! ずしゃっ! ずばっ!
「え?」
「お……おい!」
「あの人……単身で、巨人たちの手足を撫で斬りにして……」
「あれが……ヒト族の動きか?」
どどどどどどどどどどど……んんんんっ……。
「……大量の、魔法の鳥があの人の後ろをついていって、巨人たちに体当たりしていって……」
「こっちはおれが片をつける!
お前たちはあっちのモンスターに専念しろ!」
「お、おう……」
「行くぞ!
あんなのを見せつけられた上で黙っていては騎士の沽券に関わる!」
「マイグリア魔法兵の腕の冴え、とくと味あわせてやるわ!」
「……そっか。
ここのは……経験豊かな冒険者がたまたまあんまりいない隊だったんだな。
それで、今まで体制の立て直しが遅れていたわけか……」
迷宮内、警邏隊本部。
「やれやれ。
こちらでは、いつもこのように騒がしい有様なのですか?」
「われわれと当地へ着いたばかりなので、いつもの様子に詳しいわけではありませんが……。
それでも、本日はかなり特別な事態に見舞われていると聞いております」
「それは、重畳。
犬は順応性が高い動物ですが、それでもやはり繊細な生き物ですからね。
静かな環境が保てるのならば、それが一番ですよ。
それで、お約束の第一陣、二十頭の調練済み犬とその面倒をみるための調練士を数名、こちらにお連れしました。
まだまだご入り用だそうですから、最終的には五十頭以上をこちらに融通出来る勘定になります。
ただし、条件として以前にお話しましたとおり……」
「ええ。
本件が長引くようでしたら、当地での繁殖と調練が可能な環境の保全をお約束します。
犬の餌については、迷宮からいくらでも生肉が供給されるので心配する要素はまるでありません。
場所も、ご覧の通りの敷地を無償で与えられておりまして……。
それとも、野外の方がよろしかったでしょうか?」
「どちらかといえば、野外の方が好ましいことは確かです。
しかし、こちらでも特段の不都合はないでしょう。
これほど広々とした場所を占有して使用できるとあれば、文句をいっては罰が当たるというものです。
それで、犬たちはいつでも出動できる状態に調整してあるわけですが……」
「当地のギルドや関係者と意見調整をしてから改めて回答させて頂くことになりましょうが……。
そうですね。
早ければ、明日から……狩りをはじめることにしましょう」