61.きょうげき。
迷宮内、入り口付近。
しゅん。
「……おやおや。
勢いがある場所だと聞いていましたが、これはまた、ずいぶんと騒がしい……。
案内所は……あれですかね?
警邏隊はすでに本部を設営していると聞いているのですが……」
「おおー!」
「すげぇ!
でっかい犬が、こんなにいっぱい……」
「おやおや。
ここには子どもまでいるのですか?
君たち。
うちの犬たちはたいそうおとなしい性質ですが、だからといってうかつにさわらないでくださいね。
うちの犬たちにしてみれば、その気になれば君たちの頚を噛み千切るくらい造作もないことなのですから……」
『……お知らせします。
ただいまより冒険者ギルドは迷宮内の非常事態宣言を発令いたしました。
冒険者として登録されている方は速やかに現在行っている作業を中断し、迷宮入り口へと集合してください。
冒険者とギルド関係者以外の方々は、その場で待機し、お近くの係員の指示に従ってください。
現在、大量発生案件が同時に四十……たった今、五十件を越えました。とにかく、本件をギルドは同時多発大量発生案件と命名、ここに非常事態宣言を発令いたします。
繰り返します。
ただいまより冒険者ギルドは……』
「……おやおや。
初日からこれですか?」
迷宮内、管制所。
「……で、どんな様子ですか?」
「あ! シナクさん!」
「現在、五十三件の大量発生案件が同時に!」
「そのうち、制圧するための戦力を送った数は?」
「現在、二十八カ所で交戦中です。
あ。
今、二十八番目の制圧勢力が送り込まれました!」
「交戦中ので、一番劣勢なところは?
そこに応援に行きます。
ひとつひとつ確実に潰していかないと、際限がない」
……しゅん。
「おお。来たか、ルリーカ」
「シナク、これも渡しておく」
「これは?」
「新型の、自動攻撃述式」
「そのまま使えるのか?」
「音声で起動。
その後は、ポップアップした仮想巻物で若干の初期設定が必要となる」
「すぐに出来る?」
「出来る。予備知識がない者でも一分とかからない」
「起動キーワードは?」
「千鳥乱舞、起動」
「千鳥乱舞、起動!」
ぴ。
「出た出た。
ええっと……非攻撃対象を設定? チェックすればいいのか。
冒険者カードを持っている者、ギルド職員、ナビズ族……。
こんなもんかな?
それで、攻撃開始キーワードが……」
「シナクさん!
こちらが今、一番劣性になっている制圧隊の座標位置になります!」
「ルリーカ。
おれをそこに転移してくれ」
しゅん。
迷宮内、某所。
……ブゥゥゥゥゥゥン……。
「ここは、これでよし。
仮に取りこぼしがあったとしても、後に残った連中が片づけてくれるだろう。
魔法兵とやら。
管制と連絡を取って、次に必要とされる場所におれを飛ばして欲しい」
「……あ……ああ。
了解した、銀腕のゼグス」
迷宮内、某所。
「ほれ。
もっとずっと後退しておらぬと、輻射熱でやられるぞ!
もっとだ!
もっと距離を置け!
いくぞ!
……ライトニングブレス!」
迷宮前入り口広場。
「……はい。
新型攻撃術式は全員お持ちになりましたね?
では、ここまでの方、前進して係員の指示に従って転移陣にお進みください。
新型術式の使用法は転移した先で係員にお聞きください!」
迷宮内、管制所。
「大量発生案件、現在三十八件……三十七件。
どんどん制圧されていきます!」
「鎮圧完了した場所にいた人たちは脱出札にて一時撤退。
休憩と負傷者の保護をお願いします」
「新型術式の効果と、以前にはいなかった大人数の魔法兵の動員。
最初はかなり驚かされましたが、体制を立て直せばこんなものですか……。
投入できる人員には、まだ余裕がありますね?」
「ええ、まだまだ。
制圧業務にも随時数百から数千名単位の人員を投入しておりますが、研修生と探索業務を中断してきた冒険者たち、併せて三万人近くが待機しております」
「ではやはり、一度出動して帰還人たちには十分な休憩時間を与えてあげてください。
このまますべての大量発生案件を完全に制圧出来ればいいのですが……まだなにかしらの変事が起こった場合、または長期戦になった場合には、疲弊していない予備戦力が必要となってきます」
迷宮内、某所。
うぉぉぉぉぉ……。
「おお、おお。
敵味方入り乱れて、すっかり乱戦になっているなぁ……。
こうまで隊列が乱れちまったら、前衛も後衛もありゃしないか。
よし。
ええっと……繚乱乱舞!」
ばさ。ばさ。ばさ。ばさ。ばさ。ばさ。
「おお。
ルリーカの攻撃魔法でおなじみの、確か、制精霊術とかいってたっけかな。
とにかく、それで出来た鳥が、こんなにいっぱい……あとは……近づいていくだけかっ!
……よっ! と」
ずしゃっ。
「……あ?」
「矮躯、尖り耳の……冒険者?」
「立派な具足だなあ。
あんたら、多国籍軍の騎士さんたちか?」
「あ……ああ。
まだまだ、こちらでの戦い方に慣れぬ故、遅れをとった……」
「だろうな。
攻撃範囲拡張の術式は、もう持っているか?」
「一般的な術式は、昨日のうちに揃えた」
「では、あとはそれぞれの癖を掴むだけだな。
攻撃範囲拡張術式を使う際、必要となるのはどこを攻撃すれば敵に致命傷を与えられるのかという知識と想像力。
今回の……なんだ、こりゃ?
巨大な鰐だか亀だか知らないが、こいつの甲羅みたいな硬い外殻を持つモンスターを攻撃する場合、その側の硬い部分ではなく、内部のみに攻撃を当てるように想像しながら、武器をふるうといい。
ま……少し落ち着いて息を整え、隊列を整えてからまた攻撃に参加してくれや」
「あ。
いってしまった」
「見ろよ。
あいつの周囲に、色とりどりの鳥が舞って、周囲のモンスターに体当たりをしていく」
「あの男一人が参戦しただけで……戦況が変わって……。
いや、それどころか、たった一人で敵の戦力をほとんど殲滅しているではないか!」
「あれが……本物の、冒険者というやつか?」
迷宮内、管制所。
「大量発生案件、現在四十二件……四十三件……」
「……なんでさっきよりも増えているのよ!
制圧業務、順調に推移しているはずなのに!」
「こっちに聞かないでください!
なぜ先ほどよりも件数が増えているかといえば、制圧が完了するよりもはやく新たな大量発生が発見されているからですよ!
今日は、なにもかもが異例づくめです!」
「……待機人員の数は?」
「現在、一万を割りました」
「最初に休憩に入った人たちから順に呼び戻すよう、手配しておいてください。
それから、大型仮想巻物を展開。
そこに迷宮の地図を大写しにして、今回大量発生が起こった場所と制圧済みの場所を、別の色で表示してください」
迷宮内、某所。
……がぁぁぁー……。
……うぉぉぉー……。
「……今度はなんだ?」
「……背後から!」
「なんだ、あれは?」
「……巨大な影が……」
「逃げろ! 逃げろ!」
「そうだ! 脱出札というやつを……」
「……巨人、だと?
なんで、やつらがここに……」
迷宮内、管制所。
「ギルドの制圧隊の背後に武装した巨人たちが出現!」
「……え?」
「現在、ほとんどの制圧隊はモンスターと巨人とに挟撃されている状況です!」
「本当に、今日は……例外ばかりの日、ですね……」