40.もぶにもそれなりのしごとはある。
迷宮内某所。
「……なんじゃ、こりゃあ……」
「死屍累々と……」
「モンスターの死体が、大量に……」
「われらの知らぬところで、何事か起こっておったのかのう……」
ぶおぉぉんっ。
「……おっとっとぉー……」
ききっー。
……たったったっ……。
「ありゃ?
誰かと思えば、コニスの姐さんじゃあねえですかい?」
「ややや。どもども。
君たちはアレだね。元猟師兄弟とパーティを組んでいた人たちだね?
予想外のところで遭遇したから、あやうく通り過ぎるところだったよっ!」
「それはいいんですが……姐さん。
この惨状……いったい、何があったんです?」
「詳しく話している時間がないから、ざっくりとわかりやすく説明すると、ごらんの通り、モンスターの大量発生があったわけだよ!
それで今、ギルドは総力を結集して対処しているところなんだね!」
「な、なるほど……」
「そ、それじゃあ……おれらもなんか、お手伝いしたほうが……いや、できることって、ありますか?」
「もちのろんだよっ!
君たちは朝から無補給で潜っているはずだけど、武器とか水とか食料はまだ保つかね?」
「食料と水はともかく、矢は全部使い尽くして、一回帰るかなーっていってたところっす」
「よしよし。
欠員も負傷者ないし、みな、顔色もいいみたいだから、もう少し働いてもらうかね!
さあ、受け取りたまえ!」
どさ。
「新しい矢だよ!
代金は例によってツケにしておくからね!
それから予備の傷薬も、念のため、多めに渡しておくからね!
休憩してからでもいいけど、君たちはこの道をこのままずうっと奥に向かって進んでくれたまえ! 途中、他の人と遭遇することがあったら、その人たちに必要な手助けをして情報交換をすること。
基本的な方針としては、相手が冒険者の場合はその人たちと合流したり、場合によっては指示を仰ぐこと。冒険者以外の人夫さんたちだったら、出口まで送り届けること」
「ええっと……相手が冒険者なら、相談の上、そのあとの行動を決める。人夫だったら、その人たちの身の安全を優先する……って、そういうこってすね?」
「そうそう。そういうことだよ!
君らヤンキーは意外に義侠心に厚かったりするから、そういうのはやりやすいでしょ!
わたしはこれからあちこち回って、補給物資を配ったりなんだりしなければならないので、もういくね!
ではではっ!」
ばひゅんっ!
迷宮内某所。
「火矢を射かけてください」
ひゅん。
「……この道は、結構残ってますね。
楯を持った方を先頭にして、もう二十歩前進。
そこで一斉射撃を行います。
精密射撃は考えないでください。道はまっすぐなんですから、横一列に並んで一斉に矢を放てば、どれかは当たります。
さあ、いきますよ。
前進、はじめ」
ざっざっざっ……。
「とまれ!
放て!」
ひゅん。ひゅん。ひゅん。
「まだまだ。
突撃は、もう少し待ってください。
もう一度、斉射。こちらに向かってくるモンスターがいたら、楯でしっかり押さえこんでください」
ひゅん。ひゅん。ひゅん。
「弓、納め。
抜剣して、ゆっくり、前進。
槍を持っている人を前にしてください。
モンスターの様子を確認しながら、慎重に。
落ち着いてみえても、近寄るといきなり暴れる場合があります。
深手を負って弱った個体から順番に、とどめをさしていきましょう」
……ききーっ!
「……レニーくん、レニーくん!
ようやくみつけたよ!」
「コニスちゃんですか。
どうですか、今の様子は」
「んー。
ギリスさんのはなしだと、シナクくんがしょっぱなに暴れてくれたおかげで、予想よりも少ない被害ですんでいるっぽいよ!
まだまだ油断できないけど!」
「それでは、こちらにも矢をいくらか分けてください。まだ備蓄はありますが、連戦でさすがに心細くなってきました。
コニスちゃんは、現状確認と補給担当ですか……」
「そうそう。
ざっとあちこち回って様子みて簡単な手助けをして、最終的には一番奥にいるはずのシナクくんと合流する予定なのだよ!」
「原因はやっぱり、ダウドロ一家のおかみさんがいってた、階段からですか?」
「モンスターの進行ルートから見て、どうもそうらしいね! 確定ではないけど!」
「それでは、ぼくもそちらに合流した方がいいですかねえ……。
こちらの方々も、朝から潜りっぱなしの上、短時間のうちに多すぎるモンスターを相手にしてきましたから、集中力的にそろそろ限界のはずですし……」
「そうだね! 地図によると……この道、すぐに行き止まりになるはずだから、そこまでいって人がいないか確認したら、一度外に行った方がいいかもね!」
「……と、いうことです。
みなさん、もう一息ですから、もう少しがんばってください。
コニスちゃん。
この方たちに矢の補充と、それとぼく用に、移動力プラス補正アイテムを……」
「はいな」
どさどさ。
「きみたち、現在地はわかるかな?
自分たちだけで出口いける?
最新の地図があるけど……。
そうかそうか。大丈夫か」
「聞いたとおり、ぼくはコニスちゃんと一緒に、さらに奥に向かいますけど、みなさんは休憩しつつ、無理せずゆっくり出口に向かってください。
今までの戦法を踏襲すれば、まず、間違いはおきないはずです」
「「「「うっす!」」」」
「それでは、ぼくらはこれで。
みなさんの幸運を祈ります」
しゅん。
迷宮内某所。
「よっ!」
ずしゃっ。
「ほっ!」
どしゅっ。
「……しかしまあ……これ全部、ほんとうにたった一人がやったってぇのか?」
「そうなんじゃねーか?
刃物傷の大きさからみて、どうも単一の得物でやられているっぽいし」
「傷口からみて、すれ違いざまに、さくっと一閃……って感じだよね。
あまり深い斬り口でもないけど、的確に大出血させたり動きを制限している」
「倒れた仲間に蹴つまづいて、そのまま倒れて骨折して動けなくなっているのも、結構多いしな」
「そんでもって、時間がたてばたつほど出血して弱っていくわけだし……なんというか、実に効率的なやり口だよね」
「最小の手数で最大の効果を引き出しているって意味でな」
「軍人、武芸者、傭兵、猟師……前歴によって、手口にもそれなりに傾向ってもんがでてくるもんだが……そのどれでもねーんだよな」
「いったい何者なんだよ、ぼっち王ってやつは……」
「とんでもない変態ってことは、確かだな」
「少なくとも、おれたちにはこんな真似はできやしねーわな」
「違いねー」
「「「「はははははは」」」」
「まあ、やつが頑張ってくれたおかげでおれたちが楽をできると思えば……」
「そうそう。
感謝こそすれ、恨む筋合いはねーわな」
「そりゃそうだ。
今回のことだって、やつがいなけりゃ……おれたちもこの大群と正面からもろにぶつかってたところなんだぜ」
「そういや、いつだったか、ぼっち王にしつこく絡んでいた傭兵崩れの三人組いただろ?
最近、やつらの姿をみないと思わねーか?」
「しっ!
その話題は、滅多なことでは口にするもんじゃねえ」
「そうそう。
なんだか、偉い人の逆鱗にふれてとんでもないことになったとか……」
「さりげに、元有力貴族とか、剣聖様夫妻とか、名門魔法使いの娘とか……結構なセレブと平然とタメ口叩いているからな、あいつ……」
「ああいうのは、間違っても敵に回しちゃあいけねーよな……」