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59.しんがたじゅつしきしけん。

 迷宮内、商工会会議所。

「まだ、在庫は増えぬか?」

「それが、あらゆる商品が作るはしから買い上げられていくものでして……」

「商売としてみれば、これほど順調なはなしもそうそうないのであるが……だかしかし、いつまでもこの状態を続けるというのも困りものだ」

「まったくで」

「……まあよい。

 武器や防具に関しては一通りの型と大きさのものを揃えて見本として保全。その上で、しばらく、十分な在庫が確保できるようになるまでは完全受注生産の予約制に移行しろ。

 誂える場合は、別途相談に応じられるようにする。

 考えて見れば、そうする方が在庫のロスが少なくて済む」

「ただし、それですと、今回のような予測外の特需に在庫を放出するということが出来なくなりますが?」

「なに、生産ペースは落とさず、このまま作り続ければよい。このような特需はそうそう長く続くものではない。

 いずれ供給が需要を追い抜いて潤沢な在庫を確保できる日も来よう」


 迷宮内、試射場併設合宿所、最上階秘密会議室。

「シナク」

「なんだ、ルリーカ」

「いますぐでなくてもよい。

 いつか、手が空いたら、新型術式の実験に協力して欲しい」

「また、新型か?

 今度のはなんだ?」

「今度のは、攻撃魔法術式。

 自動で敵味方を判別して、敵と判断したら警告なしに攻撃を開始。各種精霊魔法を駆使して一番効果がある攻撃方法を自動判別する機能もつけた。

 操作方法は極めて簡単。その術式の記述された護符を携えて迷宮に入るだけ」

「……聞く限り、なんだかとっても物騒な術式に思えるんだけど……」

「とても、物騒。

 これを持つだけで、誰もが自動攻撃機械と化す。

 冒険者の資質によらず、実質攻撃力は何倍にも膨れ上がる。

 実力の多寡を問わず、誰もがモンスターが倒せるようになる」

「術式の性能や敵味方の判別能力を脇に置いておいても、それはそれで危ないような……」

「だけど、この術式を今否定しても、いずれ誰かが考案して実用化する。

 ギルドはもっと多くの冒険者を安全な形で迷宮探索に送り出したいし、冒険者を志望しながら資質面に不備があって別の仕事に就かなければならない者も多い。

 これが実用化出来ればその不満は解消される」

「……そりゃ……そうだけど」

「これまでのように特殊な能力を持つプロフェッショナルだけが探索業務に携わるよりも、誰もが使える術式を使用してお手軽に探索業務を行えるようになった方が、投入できる人数が大量に確保でき、探索効率全体の改善にも貢献することになる。

 転移符や脱出符の活用により、以前と比較してロスト率が極端に下がった今、こういう方向に術式が改良されてい行くのは自明」

「理屈では、そうなるんだろうけど……」

「それに、心配しなくても……この程度の攻撃術式で大きく情勢が変わるほど、迷宮は甘い相手ではない。

 この手の術式が普及するタイミングで、この手の術式では対応出来ないタイプのモンスターの出現率があがるはず。

 少なくとも、今までの動きをみる限り、そのような傾向が確かに存在する」

「……かといって、こっちが手を抜いて旧態然とした手段を墨守しても、モンスターの強大化は待ってくれないわけだし……頭が痛いというか、際限がないな、こりゃ……」

「今、迷宮内の隘路の形状から特定のパターンを見つけだし、それを破壊することによってモンスターの出現率に干渉を与えようとする実験が行われている」

「ああ。

 コニスが担当している破壊工作ってやつか?」

「そう、それ。

 その結果によっては、もっと様々なアプローチが可能になってくるのかも知れない。

 これまでは、単純にモンスターとわれわれ冒険者、どちらの力が強いのかという力較べに過ぎなかった。

 これからは、それに頭脳戦の要素が加味されてくる可能性が高い。

 近い将来に迷宮がどのような動きをしてくるのか予測し、必要ならば先回りしてそれに備える。

 そうすることによって冒険者全体のリスクも軽減されるし、迷宮攻略の効率も上がる」

「そんなこと、本当に出来るのか?

 迷宮なんて、こんな、本当にわけがわからない代物を……」

「そのアプローチは、すでにはじまっている。

 一度手を着けた以上、半端なところでやめるわけにはいけない。あとは行き着くところまで進み続けるのみ」

「どこまで続くぬかるみぞ、だなあ……」


 迷宮内、某所。


 しゅん。しゅん。しゅん。しゅん。しゅん。


「……いー………」


 どどどどどどどーんっ!


「……やっ、はぁーっ!」

『どうですか? その新型術式の使い心地は?』

「ご機嫌ですね、これ!

 こいつはおれみたいな移動系の特性持ちとは、ひどく相性がいい!

 もう、良すぎるって!

 なにより、なにも考えなくても勝手に攻撃してくれるっていうのがいいっすよ!

 これさえあれば、一人魔軍のゼグスやドラゴニュートのギダルには及ばずとも、かつてのぼっち王の旦那レベルの討伐数も夢ではないかもっ!」

『断っておくが、その術式は近くにいる敵を判別し自動で攻撃するためのもの。

 敵の攻撃を察知して防御や迎撃をしてくれる機能はないし、その術式の攻撃力を上回る防御力を持つモンスターの出現も予想される。

 万能でも無敵でもないのだということを常に念頭に置いて使用していただきたい』

「わかってますよ、そんなことはっ!

 それだって、これ抜きでやっていた今までと比較すれば、全然違うんだ!

 こいつは、無力な冒険者全員に対する福音になりますよ!」


 迷宮内、少学舎事務所。

「……新型術式の、大規模実験……か。

 これは、以前、うちの子らを参加させたものであるか?」

「敵味方の判別機能を少し改訂しただけで、あとはほとんど同じ術式になるそうです。

 あのときは数名単位での試験でしたが、今回は百名以上の低年齢者を対象にした実験を行いたいとのことで。

 どうやら、非力な子どもで十分な攻撃力を持てるという事を実証したいとの意図があるようです」

「それはいいのだが、な。

 攻撃力さえ確保すればなんとかなる。力ずくでねじ伏せられる。

 ……迷宮とは、そんな安易な場所ではないはずだ。

 もしそうだとすれば、カス兄ぃ……いや、あのカスクレイド卿がとうの昔にトップ冒険者として数えられているはずである。

 だが、現実にはそうなっていない。

 何故だかわかるか?」

「いえ……いっこうに、わかりません」

「的確な知識と判断力だな。それが、圧倒的に不足しておる。

 ここ数日、多国籍軍から流れてきた者たちが従来からいた冒険者たちと少なからず摩擦を起こしておるようであるが、経験者を尊ばず単独で迷宮に挑もうと思えば、遠からず痛い目に会うことであろう。

 さて、その実験についてだが、うちの子らが参加することについては反対派せぬ。報酬もそこそこいいようだし、希望者を募って参加させてやれ。

 ただし、それと同時に座学の重要さも強調しておけよ。

 経験と知識があれば、いざというときに確実に身を助ける。

 迷宮とは力だけでは征服できない領域であると念を押して知らしめよ」

「それではその件は、そういうことで。

 次に、王子。

 剣闘場建設の件ですが、いくつかの候補や条件を検討してみたところ、やはり野外にした方がなにかと便利がいいのではないかという意見が多数を占めました。

 なにより経費が安く済みますし、地元の町の人たちや王国派遣軍兵士たちへの慰安にもなります」

「野外……か。

 そうなると、天候が心配になってくるわけだが……」

「今は水竜が呼んだ雨雲の陰で雨が続いていますが、それがなければここいらは例年ならば今時分は晴天が続く時期なのだそうです。

 迷宮全体がなにかと物入りになっている昨今、必要な資材を入手するのにも苦労しそうな案配ですし、野外の方がなにかと都合がよろしいかと……」

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