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53.きょういくがかり、げっと。

 迷宮内、入り口付近。

「失礼。

 そこもとが、剣聖とかいうご仁であらせられるか?」

「いかにも。剣聖の称号を得ておる者である。

 貴君は?」

「それがしは小国ブレズの騎士、ダメルと申す。

 こたびの若き騎士たちへの無道に対し、かうような処置を申しつけたのはそこもとであるのか?」

「そうであれば、なんとする」

「感謝を。

 それがし、小国の騎士ゆえこれまで他国の者とよく交わらず、特に大国においてこれほどまでに騎士道が廃れていようとは思わなんだ。

 かといって、差し出がましい口を利けば祖国に類が及ぶ。

 内心苦々しく思いはすれども手も口も出せず、隔靴掻痒とはまさしくことことよと歯噛みしておったところ。

 今後も引き続き、身分を笠に着て不埒な振る舞いをする者に対してはこのような沙汰を所望する所存である」

「いいのか?

 このような公衆監視の場で、大声でそのようなことをいって?」

「かまわぬ!

 これまでは歯噛みして黙認しておったが、称号一つでどこに身分を保障されているわけでもない貴君のなさりようをみて目が覚めた。腹をくくった。

 これよりはそれがしも、相手を選ばすに非道をなすものがあればこの身を持って諫めて回る。

 それがこの老い先短い老骨が若い者に残してやれるせめてもの訓戒であると思い定めた」

「……ふむ。

 おい、シナクよ。

 この老人を引き入れるという案はどうか?

 行儀の悪い騎士を躾直すにはうってつけの人材であると思うが?」

「いいですね。

 どうせ、人を増やさなければならないのは決まっているわけですし、だったら役に立つ人を引き入れた方がいい。

 ブレズの騎士のダメルさん。

 あなた様もよろしければしばらくギルドの常雇いとなって行状不行き届きな身分の高い方々を諫め、身を慎むための教育係として働いてみませんでしょうか?」

「……は?」

「わかりませんか?

 若くて行儀悪い、身分の高い方々にこれから小うるさいことをいってせいぜい煙たがられようという了見なんでございましょう?

 で、あれば、ギルド公認でそれをやっていただくことには、お互いに利益があることを思いますが。

 こっちのギルドは、なにぶん、ほとんどが平民で構成されています。相手に非道があっても身分を笠に着て開き直られると、どうにも分が悪い。

 その点、ダメルさんのような分別を弁え、それなりの身分の方ならば同じ非をならすにしてもまだしも相手が聞く耳を持とうというもの。

 もしダメルさんと同じような志をお持ちの方が他にもいるようでしたら、是非ともご紹介をしていただきたいところでございますが……」

「待て、待て。

 そこもとがいうことは……それがしを、雇いたいということか?」

「いかにも、そういう魂胆でございますが。

 不肖、軽輩の身にておれは騎士道がなんたるかを知りません。

 が、ダメルさんはご存じなけございます。

 だったら、不行き届きな若い者を教導するべきはダメルさんのような方の方が適任かと存じます。

 それに……正直にぶっちゃけちまうと、ギルドとしてはその他にもいっぱい問題を抱えておりましてね。

 多国籍軍から流れてきた人たちの倫理問題にまで干渉しているほどの余裕はありません。

 他の冒険者と問題を起こしさえしなければ、そのまま放置しておきたいくらいでして……。

 で、まあ、他にやる気があって能力や資質にも問題がないダメルさんのような方がいるのであれば、そっちに丸投げしちまいたいところなんです」

「……本気で、言いたい放題にいう男だな、おぬしは。

 おぬし、名はなんという?」

「シナクと。

 一介の冒険者でございます」

「ふぉふぉ。

 冒険者とは、ここまでも痛快な連中であったのか。

 よかろう。

 その任、引き受けよう。

 どのみち、本国に帰ってもやることもない隠居の身。

 水竜作戦においても死に損なった老骨にどこまで出来るものか、はなはだ心許ないところであるが……それでも、やり甲斐はありそうな仕事だ。

 ふふ。

 相手が誰であろうとも非道を非道と呼んで譲らず、身を挺して非道をならす、か……。

 もっと若いときからこのような機会に恵まれておれば……」

「では、剣聖様。

 おれは、こいつら、気を失ったやつらの手当と事情聴取の手配を準備しておきます。

 その後、身分の高い方々は……」

「ああ。

 ダメル殿に任せて再教育をして貰うこととしよう」


 しゅん。


「……はぁ。

 今日一日潜って、ようやく十八体討伐か……」

「セスフルさんー。

 わたし、こっちの事情には詳しくないんだけど、それってやっぱり少ない方なのー?」

「……少ないっすねー。思いっきり。

 一日百体以上をコンスタントに討伐できるようになって、ようやく一人前扱いですよ」

「やっぱ、あれ?

 意地でも縮地を使わない人がいたから?」

「そりゃあ、もう。

 移動効率が違ってくると、アカウントする回数にも違いが出てきますし……」

「まあ、まあ。

 過ぎたことは過ぎたこととして、もしよかったらこれからみんなでぱーっと飲みましょうよー。

 お近づきの印っていうかー、わたしもせっかくお知り合いになれた冒険者さんたちともっとお話をしたいしー」

「……いいですね。

 気分転換っていうか……うん。

 過ぎたことをいつまでも悔やんでいても仕方がない!

 明日から、魔法嫌いの人とはパーティを組まないように気をつければいいだけだ!

「そうそう!

 あ。シャロムさやリザードマンさんもご一緒にどうですか?」

「いいですか? おれなんかもご一緒して」

「おれなんか、なんていわないでくださいよー」

 ピリピリピリピリ。ピリピリピリピリ。

『悪いが、おいとまさせて貰う。ヒト族の酒は体に合わぬし、それにそろそろ卵が孵る時分でな』

「卵ですか?

 ひょっとして、リザードマンさんのお子さんで?」

 ピリピリ。ピリピリピリピリ。ピリピリピリピリ。

『そうだ。ちょうど今の季節に、まとめて孵る。帰って、給餌するのを手伝わなければならない』

「あー、それは、おめでとうございます!

 はやく帰ってあげてください。

 また今度、ご一緒することがあればそのときはよろしくお願いしますー」

 ピリピリ。ピリピリピリ。

『そうだな。次の機会があれば』

「じゃあ、みんなで行きましょうか!」

「あ。おれ、一度行ってみたい店があるんですけど」

「わたしもー。

 あの、入り口付近の目立つ場所にある……」

「羊蹄亭な。

 あそこ、昼はともかく夜の酒場は、いっぱしの冒険者にならなけりゃ入っちゃいけないような雰囲気があるかなら」

「そうそう。

 一人前になってから堂々と行きたい店だよね、あそこは。

 マスターも元冒険者だっていうし……」

「わー。

 そういう店があるんだー」

「ええ。

 お酒を出すところだったら、まだまだ安っぽい店がいくらでもあるんですけれどね。

 羊蹄亭はマスターが強面だから、下品な騒ぎか方をする人は即刻叩き出されるんで、客質がいいんですよ」

「お……おい!

 …………おれは?」

「「「まだいたんですか? 騎士様」」」

「魔法嫌いとかいいながら、最後の最後には結局脱出札を使ったし」

「行きと同じ距離を歩いて帰れっていうのも酷でしょう」

「ま、一緒に来たければ、お好きにどうぞ。

 どうせ今日一日だけのおつきあいですし」

「だよねー。

 魔法嫌いを公言する人とはパーティを組んではいけない、って、今日はいい教訓になりました」

「今の迷宮では、術式抜きでは禄なこと出来ないもんな。

 効率悪いったらありゃしねー」

「でもさあ、リザードマンさんって、今日初めて間近にみたけど渋くて紳士だったねー」

「下手なヒト族よりもはなしのわかる人でしたねー」

「同じヒト族でもぜんぜんはなしが通じない人がいますからねー」

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