51.まほうぎらいにいばしょはない。
「ナビズ族よ。
次の店は?」
(五人、いるよー)
「了解した。
しかし……こんな、ごちゃごちゃした場末にも、昼間っから飲んだくれているのがそれなりにいるものだな。
この一角すべてを回って勧誘していけば、元冒険者が数十人かは集められる。
やつらにとっても、いつまでもこんなところでくすぶっているよりは、いくらかはマシというものであろう……」
迷宮内、軍籍冒険者修練所。
「シナクさん。
つまり、今いった捜査活動ならびに治安維持活動に従事する人員を、こっちから回せと」
「ええ。
可能ならば、ご協力をいただければと。
もちろん、立場的なことを考慮しましても、あくまで協力をお願いすることしか出来ないわけですが……。
警邏隊も派遣軍も、もともと王国の命を受け、王国の利益のために動いている組織です。
命令系統が異なるため、実際に合同して動く例は少ないのでしょうが、ともに王国のために動いているわけですから、お互いにとってメリットがあるのならば、協力し合ってもいいと思ます」
「……なるほど。
おはなしの趣旨のほどは、よく理解できたと思います。
しかし、仮にもこちらにいるのはすべて王国軍に籍を置く軍人。上の者の指示を確認してみませんことには、小官の一存では判断をしかねます。
一度、上の者の意向を確認してから返答させていただく……ということで、よろしいでしょうか?」
「ええ。是非、そうしてみてください。
その際、うちのギルドの仲介が必要ないと思われましたら、直接、警邏隊の方々と交渉をしてくださっても結構です。
ギルドとしましては、どのような形であれ、迷宮内から薬害を一掃するためのお力をお貸し寝返れば、それだけで感謝したいところです」
「これで、よし。
彼らの小隊は、もともと潜入捜査などの経験を持った者が多い。
あとは放置しておいても、警邏隊と協同して勝手に動いてくれる。
その分、こちらの負担は軽くなる」
迷宮内、迷宮日報編集部。
「また、おぬしか」
「すみませんね。たびたび。
先ほどもお願いした、薬物うんうんに関連したことで、追加のお願いがあってきました。
仮想文でしたためてもよかったんですが、こちらからお願いする以上、やはり直接顔を合わせた方がいいのかなーとか思いまして……」
「それは、別によい。
おぬしのような顔が知られている冒険者が会いに来ると、編集部内での余の株もあがるのでな」
「は……はぁ」
「それで、追加とは、なんだ?」
「まず、ひとつめ。
治安維持隊人員募集の広告を、迷宮日報の紙面で行っていただきたいということ。
これについては、広告料金としてそちらが規定する金額をお支払いいたします。
期間は、短くても半月。ひょっとすると、延長をするかも知れません」
「うむ。
日報の紙面を広告に割けと。
おぬし、それは自分で思いついたのか?」
「……え、ええ。まあ。
それが、効率的かなぁ……って」
「ふふ。
相変わらず、面白い男だな。
余の前世ではそれが当たり前にあったが……」
「あ。
そっち方面のおはなしは、長くなりそうなんでまたの機会にお願いします」
「そ、そうであるか」
「で、二つ目。
こっちは、日報の編集長としての王子様ではなく、少学舎の責任者としても王子様へのお願いになります。
……読み書きが出来る人、何名かご紹介していただけませんかね?
事務員をまとも募集しても、今はなしのつぶてでございまして……」
「……水竜作戦からこっち、どの部署も業務を圧迫されて、人手なぞいくらあっても足りない状態だからな……。
前のように、かろうじて読み書きが出来る程度の者でもかまわないのか?」
「ええ。
最低、それくらい出来れば、あとの細かいことはこちらで仕込むつもりです」
「人数は?」
「最低、十名。
いや、最初のうちは不慣れで効率も悪いだろうから、それも勘定に入れて二十名。
もっと多くても受け入れる余地はあります」
「了解した。
探しては見るが……いくつか、条件をつけさせて貰いたい」
「条件、ですか? それはまた、どんな……」
「ひとつは、少しでも、相場より多めの賃金を保証して貰いたい。
不足な分、割高になるのは者でも賃金でも同じであろう。
極端に高騰するのも困り者だが、水竜作戦の余波が収まらないうちは割高の賃金を保証した方が人も集めやすい」
「ああ……ごもっともで。
そうですね。後で予算とか確認して相談してみないことには、即答は出来ませんが……可能な限り、ご希望に添えるよう、検討させていただきます」
「それと、もう一つ。
人を集める際、おぬしの名を出してもよいか?
おぬしは、今となっては冒険者の中でもかなりの有名人であるからな。
その手伝いを出来る仕事です、ということになると、これまた人を集めやすくなる」
「……ま、まあ。
それで、人を集めやすくなりようでしたら……ご自由に、どうぞ。
個人的には、節度を持ってそこそこにしていただけるとありがたいのでございますが……」
迷宮内、某所。
「……だからねー。
魔法兵ってのは、兵隊さんの中でもかなり特殊なのよー。
他の兵科はやはりほとんどがむさ苦しい野郎ばかりで構成されているわけだけどー、魔法兵だけはどうしたって生まれ持った資質、体内に魔力をどんだけ蓄えられるかってことが強さの目安になるわけでー……」
「だから、男女の比率がだいたい半々になる、と?」
「そ。
筋肉とか身体能力、関係ないからねー。
魔法使いは。
もちろん、魔法兵の中には、鍛えて魔法抜き出も十分に戦える人もいるわけだけど……。
冒険者って、セスフルさんみたいな女性の人も多いの?」
「多くは、ないですね。やはり、女性よりも男性の方が多いです。
詳しい統計とか見たことはありませんが、自分の経験する範囲内でみたころ、女性は全体のざっと三割からせいぜい四割くらいじゃないですかね」
「あ。でも、意外に多いんだ」
「最近は、術式の銃器とか、身体能力にあまり左右されない便利な武器が多くなりましたからね。
それに、グレシャス姉妹とかカラスさんとか、身体能力に劣る女性でもパーティに貢献できる技術を蓄積して後続に伝えてくれる人たちが増えてきたので、どちらかといえば増加する傾向にあるようです」
「おい! 貴様ら!
迷宮内を探索中にそんなにぺちゃくちゃと会話を……」
「かなり広い範囲を式紙によって捜索していますので、敵モンスターの不意打ちを食らう可能性は限りなくゼロに近いです。
式紙の捜索行為をすり抜けるような特殊な隠蔽法を身につけたモンスターでもないかぎり、こちらが襲われる心配はまずありません。
それよりも、騎士様。
まだ、縮地の符を使用する気にはなりませんか?
この速度で前進する限り、モンスターと遭遇する確率も格段に落ち、引いては討伐数にも影響が及ぶのでございますが。符をお持ちでいらっしゃらないようでしたら、予備のものを差し上げても……」
「魔法の力は借りぬ!」
「……はぁ。
ご自由に。
騎士様におかれましてまだ初日でございますし、なれるためにゆっくりペースで過ごすのもよろしいでしょう」
ピリピリピリピリピリピリ。
『明日以降、このヒト族の戦士と組むのは断るがな』
「同感だ。
いつまでもこれでは、ちっとも稼げない」
「……なんだとう!
この、異族と下郎めが!
おぬしらなど……」
「あら?
グガヌの騎士は味方に剣を向けるのー」
「……くそっ!
やってられるかっ!」
「……パーティから離脱したいようでしたら、ご自由にどうぞ。
しかし、騎士様がお嫌いな魔法による脱出札をお持ちでしたら、このようなときに一瞬で迷宮の出口にまで移動できますのにね」
ピリピリピリピリピリピリ。
『命が惜しくば、不本意でも外に出るまでは行動をともにしておいた方がよい』