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39.でぐちふさいで、まちのいって。


「おらよっ、っと」


 ずしゃ。


「おお、おお。

 うじゃうじゃといやがるなあ、おい……。

 このだだっ広い場所に、まあうじゃうじゃと……何百もひしめいていやがる」


 けぇー。けぇー。けぇー。


「ええっと……向こうになんか、見えるな。

 暗いし遠すぎるからよくわからんが、モンスターの大きさと比較すると……めちゃくちゃでかい、あー……門、か?

 あれは……」


 ずしゃ。ずしゃ。ずしゃ。


「っと。

 これ以上、深入りすると、いくら何でもやばいな。

 幅が制限される通路ならともかく、だだっ広い場所でこんだけの数にとり囲まれたりしたら、しゃれにならん。

 いったん、通路まで下がるか」


「……よ、っと……」


 ずるずるずる……。


「見かけよりも、だいぶ軽いな……。

 羽が生えているし、やっぱりこいつは獣よりも鳥に近い生き物なんかな……。

 こいつらの死体を、土塁代わりに積み上げて……っと……」


「ふう。

 とりあえず、こんなものでいいか。

 で、これを踏み越えてこようとするやつを片っ端からしとめてここを通さなければ、これ以上被害は拡大しようがないな。

 あの、奥にみえるどでかい門が、おそらくおばさんたち一家が見つけたとかいう階段で、見たところ、外への出入り口はここしかないようだし……。

 あとはここで見張りをしつす、増援の到着を待っていりゃあいい、って寸法だ」


 どさ。


「一段落ついたか? 抱き枕」

「……そのクソ重たい脂肪袋ふたつ、おれの頭の上からどけろやこら」

「確かに、これは重い。重すぎて肩が凝ってしかたがないから、もう少しここに置かせてくれ」

「あんた、おれが人夫たちと出会ったあたりから姿を消してたろ?

 まあ、いいけど……」

「まだまだ初対面の人と顔を合わせるのはきつくてな。

 で、これで今回のお前さんの仕事は、終わったことになるのか?」

「さあ、なあ……。

 まだまだどう転ぶかわからんけど……あとは増援の到着待ちと、それにこいつらモンスターどもの出方しだいだ。

 今回のこいつらの動き、いろいろとつじつまが合っていないような気がするんだよな。今までの行動パターンと微妙に食い違うというか……」

「ふむ。

 そのあたり、お前さんの見解を聞いておこうか」

「まず、同一種のモンスターがこんだけの数、いっぺんに出現した例は、おれが知る限り、ない。

 それから、こいつらが一斉にひとつの方向……この迷宮の出口方向へ向かって走り続けていたのも……前例がない。

 今まで見たことがない新種という以外にも、おれがこれまで相手にしてきたモンスターとは、いろいろと感触が違うかなあ、と……」

「なるほど。

 それで、お前さんは違和感を持った、と……その違和感を解消する仮説をいくつか思いついたのだが……聞いてみるか?」

「まあ、これ以上、あそこからモンスターがあふれてこない限り、暇だからな。

 いってみろよ」

「まず、こいつらは、これまでこの迷宮内に発生したモンスターとは違って、単なる野生動物だと思う」

「……野生動物? こんだけの数が?」

「群をつくるる動物なんて、別段珍しくはなかろう? いくらでも類例はある。

 で、この群は、あそこの門あるいは階段を経由して、一斉に移動してきたんだ。

 やつらにしてみれば、やむにやまれず移動した先が、やつらにとっての新天地にあたるこの迷宮だった、というだけのことで……」

「あの、どでかい門、ってのは……結局のところ、なんなんだ?」

「お前さんにも理解できるようにめちゃくちゃわかりやすく説明すると、別の世界とこの世界とを繋ぐための、おおがかりな仕掛けだな」

「つまり、今回大量発生したこいつらは……別の世界の野生動物で……こいつらの移動先に、たまたまあの門……世界を移動する仕掛けがあったから……今回の事件が起きた、と……」

「あくまで仮説、ではあるがな。

 世界を越えて物質を移動させるのには膨大な魔力を必要とするわけだが……ことによると、この迷宮はその魔力を備蓄するためにしつらえられた、冗談みたいにスケールが大きな罠なのかも知れん。

 この迷宮は、外の世界よりも濃い魔力が漂っている、ということは、そちらの魔法使いも確認していることだろう。モンスターを呼びだしてそれを餌に冒険者を呼び寄せ、内部で倒れたものの生命エネルギーを魔力に変換して内部に備蓄する……そういう罠、なのではないのか?

 この……いや、過去に発生したすべての迷宮は……」

「そいつは……あんたみたいな魔法使いなら……そういう、悪い冗談みたいなものも造れるもんなのか?」

「術式としては、むしろ単純な部類だな。

 ある種の食虫植物のように獲物を呼び寄せて養分とし、自分を育てる……徐々に大がかりで複雑な構造になっていく、そんな自動展開式の術式だ。

 最初はちっぽけなものだったのだろうが、長い長い年月をかけて魔力を蓄え、ここまで成長した。数百年という長い間隔をおいて出現することにも、これで説明がつく」

「……具体的な被害がでるほどに、迷宮が育つためには……それぐらいの時間が必要だった、と……」

「……」

「……」

「頭、いてぇーな……」

「同感だ」

「で、そういった仕掛けで膨大な魔力を蓄えたとして……その魔力は、最終的に、いったいなんのために使われるんだ?」

「そんなもん、わたしが知るもんか。

 それこそ、この悪趣味で回りくどく非効率的な術式を作ったやつにでも、直接問いただしてみるんだな」

「その仮説とやらが本当のはなしだったとして、だ……そうなると、こいつらも、どちらかというと被害者なわけか? わけもわからず、こんな場所に放り込まれているわけだから……」

「野生動物に被害者もなにもなかろう。

 こいつらはこいつらで、自分らの都合によってまっしぐらにここまで来たんだ」

「なんだよ。

 こんだけ大勢の動物が一斉に動かなけりゃならない都合、って……」

「こいつらを何十何百と屠ってきて……お前さんは、どう感じた?」

「どう、って……あー。

 数は多いけど、意外に手応えはなかったな、って……。

 と。

 ちょ、ちょっと待て!

 そういう……ことなのか?」

「ああ。

 こいつらは、おそらく草食か雑食……つまり、もといた場所では補食される側の、比較的弱い存在だ。

 だから、自分たちを狙うハンターから遠ざかるために群をつくり、一斉に逃げて移動している最中だった」

「って、ことは……」

「この群を食い尽くすような肉食獣が、こいつらを追ってあの門からやってくる可能性があるな」

「ええっと……あの門は……高さでいえばおれの背の十倍以上はあるな」

「横幅も、同じくらいだろうな」

「……」

「……」

「ここで、増援を待とう。

 おとなしく」

「それがいい。

 あの門を通れたとしても、この通路を通れるものとなると、大きさ的にかなり制限される。

 あそこの、門の広場であの竜脚類がいくら食い散らかされようが、こちらにはあまり影響はなかろう。

 落ち着いてからなら、あの門も詳しく調べてみたいもんだが……」


 GUOoooooooo……。


「まだまだ、落ち着いてくれねーか……。

 門を通って、新手が来た」 

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