42.こうていごいっこう、さんせん。
迷宮内、管制所。
「ティリ様。
あの、ひょっとしてそちらの方は……」
「わらわの父上であるが」
「……皇帝閣下でいらっしゃいますよね?」
「いかにも。
スケもカクも父上も、すでに冒険者としての登録をすませてある」
「本当に……迷宮に、お入りになるのですか?」
「法的には、問題はないはずであるるが?」
「万が一の事がありますと、責任問題になりますので、出来るならご遠慮していただきたく……」
「わらわもそのように申したのであるがな。まったく、誰に似たものか、どうも父上は聞き分けがなくていかん。
なに、その万が一があっても、スケとカクがつきそっておればたいていのことは切り抜けられる。
なにがあってもギルドに責を押しつけるようなことはせぬので、ここはひとつ、わらわの顔を立てると思って通してはくれまいか?」
「は……はぁ」
迷宮内、某所。
「索敵式紙展開。走査開始。仮想巻物開示」
「姫様、それは?」
「遠くにいるモンスターを早期に発見するための術式になるな。
狙撃銃、具現化!
こいつを使うとなると、肉眼では見えないほど遠方のモンスターを相手にすることになる。早く相手を発見し、彼我の距離が開いていれば開いているほど、こちらの身の安全が確保できる。
そのためのに開発された術式じゃ」
「使用されているの術式は既存の、むしろよく知られたものですが、組み合わせ方や活用法は、かなり独特でありますね」
「ふふん。
このギルドの魔法使いは少数精鋭。
この迷宮という特殊な環境においてまさに必要とする機能をいちはやく提供してくれる優秀な者たちじゃ。
その応用力において、おそらくは帝都の魔法使いに引けは取るまい」
「ティリにも良い友人が出来たようで、なによりのことだ」
「父上は、くれぐれも後ろに下がっておるように。
狩りはわらわとスケ、カクに任せて見物に専念するがよい。
なにかの間違えでかすり傷でも負ってしまったら、あとで母上にどんな仕置きをされることか……」
「ティリ様、心中お察しいたします」
「カクは父上の護衛に専念せよ。
それでは準備はよろしいか?
いよいよこの三人で、迷宮探索に向かうことにする」
迷宮内、修練所。
「……その、ジャロムって人……」
(こっちー)
「……本当に大丈夫かなあ、ナビズ族の斡旋って。
しかも、相手もベテランではなくて同じ研修生だってはなしだし……」
「あの……」
「はい?」
「君が、その、セスフル研修生……さん?」
「そうですが。
あなたは?」
「同じ研修生の、シャロムといいます。
ナビズ族に君と合流するように進められて……」
「ちょうどよかった。こっちも捜してたところ。
早速で悪いけど、ランクのリストを見せて貰える?
こっちもあなたが頼りになるのかどうか、それを見定めてからパーティを組むかどうかを決めたいから」
「わかります。
命を預ける相手ですものね。慎重にいきませんと……。
仮想巻物を展開。
……これで、いいですか?」
「……へえ。
武術関係はAランクばかり並んで……結構、優秀じゃない。
前衛としては、すぐにでもやっていけるんじゃない?」
「そのかわり、索敵とか射撃のランクが低いですからね。
今はそっちの人材の方が不足していますから、前衛はどうしてもあぶれ気味なんですよ」
「みたいね。
こっちのランクもチェックしておく?
仮想巻物を展開」
「……セスフル研修生さんこそ、優秀じゃないですか。
索敵や射撃、それに救急医療技能まで、すべてにおいて高いランクで……」
「そろそろデビューしようかな、って思ってた矢先に水竜作戦でしょ?
あれのおかげで何日も多国籍軍の相手をさせられて、だいぶん稼ぎ損ねたわ」
「ああ、なるほど」
「ひとつ、聞いていい?」
「なんでしょうか? セスフル研修生さん」
「ただのセスフルでいいわ。
その装備からすると、あなた、魔王軍だった人でしょ?」
「ええ、そうです。
有名ですもんね、量産型のバケツ頭、って」
「元魔王軍兵士って、仲間だけで組む傾向があるって聞いたけど?」
「そうですか?
そんなことも、ないと思いますけど……。
冒険者として独り立ちする機会があるのなら、相手をえり好みしない人の方が多数派だと思います。
いつまでも待機組をやっていても、実入りの方が限られてきますし……」
「……聞いたはなしと、かなり違うわね」
「ぼくら、人数が多いから、どうしても固まって動いているところばかりが印象に残って、そんな噂になっているのかも知れませんね」
「……そうかも。
で、いいの? あんた。わたしでも」
「え?
そういうセスフルさんは、ぼくなんかでもいいんですか?」
「そんだけ立派な成績を見せられたら、普通は断らないって。
あとは実際に組んで迷宮に入ってみて……試してみて、最終的な結論を出すことになると思うけど……。
それにしたって、新人がたった二人だけで迷宮で入るっていうのは無謀……」
(来たよー)(残りの仲間がー)
「……って、なに! あれ、リザードマン!」
「ぼく、彼らをこんな近くで見るのははじめてですね。
あ。
こっちからは、とんがり帽子の魔法兵と立派な具足をつけた騎士様が……」
「なに……こんな、バラバラの面子でパーティを組めっていうの?」
(まずは、お試しー)
迷宮内、小会議室。
「今の時点で、打ち合わせておくのはこんなところかな……」
「ですね。
あとは、こちらのギルドの上層部がどのような判断をなさるのか、ですが……」
「あ、それは大丈夫だと思います。
うちのギルド、冒険者を守るためには手間と出費を惜しまないので、今はなしたようなことならば二つ返事で許諾してくれるかと」
「はあ。
どうも、景気がよいことで。まことに、うらやましい限りですな」
「ナビズ族。ギリスさんに、この件をはなしあうために、会見のアポを取っておいて」
(了解ー)
「ギリスへの会見は、拙者が担当する。
その代わりといってはなんだが、シナクには……」
「書類作成、ですね。
はぁ。
この手の事務仕事にもすっかり慣れてしまった自分が情けない」
「それでは、こちらは引き続き、内偵と捜査活動に戻ります。
いきなり根絶させるのは無理でも、少しでもやつらの尻尾を掴んでおきたいものですからな」
「はい。お願いします。
今後ともよろしくお願いします」
「こちらこそ。
ギルドのみなさまとは、いい関係を保ちたいと思っております。
場合によっては、手入れの際に冒険者のみなさまのお手をお借りすることもあるかと思いますが……」
「承知しております。
荒事には慣れているやつらばかりなんで、そういう人手が必要なときはいつでもご連絡ください」
迷宮内、某所。
どぉぉぉんっ……。
「十体目!」
「凄いな、ティリは。
百発百中ではないか。これでは、わしらの出る幕がない」
「いちいち外しておったら、命がいくらあっても足りぬのでな。
それから、父上はくれぐれも前に出ぬように!」
「わかった、わかった」
「あと……命中したからといって、相手が必ず倒れている保証はどこにもない!
来るぞ!」
「……速い!
カク! 防備を固めよ!」
「はっ!」
「詠唱する時間を、二十秒ほどいただければ」
「保たせる!」
「式紙瓜坊、起動。
行けぇいっ!
……さて、この攻撃を凌いでこちらに迫るようなやつならば……さぞや、しぶといことであろう」