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34.けっちゃく。

 荒野。多国籍軍総司令部。

「水竜の反応消失。

 これにて本作戦の目的を達成したと見なします」

「作戦終了!

 合図の銅鑼を鳴らせ! 景気よくな!

 ……ん? どうした? 皆の衆。

 勝利した割には、意気が上がらぬようだが……」

「恐れながら、主上。

 勝利したとはいえ……犠牲も、決してくなくはなく……。

 後方に位置していた帝国軍は比較的軽微な損害で済みましたが、それ以外の参加国に関しては、全軍の半数以上が重軽傷か行方不明扱いとなっております。陣地を張った場所によっては、壊滅に近いダメージを負った国軍も少なくはなく……負傷者の収容と治療行為も、いまだ続行中であり……」

「……勝ち鬨をあげるよりも、そちらを始末をつけるのが先になるか……。

 残った将兵に交代で休憩を取らせ、それが済んだ者から負傷者の救助と搬送を手伝わせよ。

 残った兵糧もすべて開封して分け与えよ。

 あとは……王国軍とギルドに連絡を取りつつ、適宜必要な処置を行え」

「はっ。

 そのように、手配をいたします」


 迷宮前広場。

「想像していた以上だな、こりゃ……」

「関心してないで、シナクも手伝うがよい」

「あ。

 ティリ様、いたんですか?」

「ずっとな。

 水竜作戦が開始してからこの方、ここで医師の指示に従って、負傷者を担いであっちにいったりこっちに搬送したり……であったわ。

 ギルドも、今は探索作業を一時中断して、動ける人員をすべてこちらに回しておる。

 なんでも、予想以上に負傷者が多く出たとかでの……」

「何千人……いや、この分だと、もっとか」

「重軽傷者とロスト分を含めて、二万とか三万とかいわれておるの。

 情報が交錯しておって、まだ正確な数値は出せないそうじゃが、ともかく、多国籍軍の半数以上がなんらかの形で被害を受けているとかいうはなしじゃ」

「……よくよく考えてみると、とんでもない数字だよな」

「よくよく考えてみるまでもなく、とんでもない数字であるといえよう。

 迷宮攻略に参画し、甘い汁を吸おうともくろんだやつらにとっては、ずいぶんと高い買い物になったことじゃの。

 ほれ、シナクもこの状況を理解したのなら、手を貸さないか」

「は、はあ」

「負傷者をこの、車つきの寝台に乗せてだな、手首に撒いた布で行き先を判断する。手首に色つきの布を巻いているのがこの場での診察が終了している証じゃ。

 転移陣の前に列が出来ておるので、行き先に迷うこともなかろう。負傷者はおおむね、麻痺の術式がかかってぐったりとしておるから暴れることもない」

「は、はあ」

「なんだったら、片っ端から負傷者を空いている寝台に乗せるだけでもいいぞ。

 寝台を転がしてくだけなら、小学舎の子どもたちにも出来るし……」


 しゅん。


「一刻の猶予もない重篤な負傷者の方は……」

「おーい!

 こっちだ!

 止血してさっきから輸液をしているんだが、どんどん脈が弱くなっている!」

「行きます!」


 しゅん。


「それでは、医局の方に運んでおききますねー」


 しゅん。


「……猫耳か。

 こういうときは便利だなあ、あいつ」

「自分で直接触れているものしか転移できないとかで、一度に一人づつしか運べないわけであるが……一刻を争う今回のような事例では、重宝する能力じゃな」


 ギルド本部。

「最終的には、三万内外……ですか?

 予想以上の被害となりましたね……」

「現在、多国籍軍それぞれの出身国に問い合わせ、症状が落ち着いた者から順番に移送する手筈を行っています。

 ただ、しばらくは動かせない重傷者も予想以上に多く、医局の負担もしばらくは増えるかと……。

 医師と看護師を含め、関係者は不眠不休で治療行為に従事しています。医師の監督の元、傷口を縫い合わせる程度の簡単な外科施術は経験のある冒険者にも任せているのですが、それでも手が足りなくて……」

「追加人員の手配は?」

「すでに大陸中の渉外さん通達済みです。

 短期のお仕事になりますので、それなりの人数が集められるとの見通しが来ています」

「そう……ですか。

 よかった……と、いうべきなのでしょうね。

 水竜は無事討伐できたものの……犠牲は、決して……」

「少なくは、ありませんでしたね。

 これで、諸外国も、迷宮探索業務に妙な色気を出さないようになってくれるといいんですが……」

「少なくとも、しばらくは……手を出してくることはないでしょう。

 モンスターとは、本来……われわれギルドや冒険者にとっても、手に余る存在であったはずです。

 これまでのところは、あれやこれやの手段を総動員してなんとか対抗してきましたが……それも、いつまで続けられるか……」

「それよりも、水竜の正体が意志を持つ水であったことで、その死体から戦利品を採取することが出来ませんでした。しかし、多国籍軍の被害は大きく、結果として討伐は成功したものの、各国首脳部の不満も膨れ上がることと予想されますが……」

「そう……ですね。

 今は、戦後処理で慌ただしい状況になっていますが……それが一段落すれば、そうした不満がなんらかの形で噴出してくることも考えられます。

 今回の作戦については、水竜を外に転移させるまでがギルドの領分、それ以降は多国籍軍の責任ときっぱり権限を分割し、その旨も作戦構想作成の初期から念を押して書類にも明記しているわけですが……」

「ギルドに逆ギレとか、されないでしょうか?」

「どうでしょう?

 でも、こちらに落ち度があるわけでもありませんから、そうなったらなったでやりようはありますよ」


 王国軍、建築中の城塞基底部。

「水竜作戦、終了……か。

 結局、この子の出番はなかった……」

「この子、なんていい方はやめてください、姉さん。

 これは……使わずに済めば、それに越したことはない……大きな災害を呼び込む大量破壊兵器です」

「そうね。

 確かにこれは、使わずに済むのなら、それに越したことはない……今のわたしたちには過ぎた代物なのかも知れない。

 でも、その威力はとても魅力的だとは思わない? テリス」


 廃鉱山、山頂部。

「水竜作戦、終了……か。

 結局、われらの出番はなかったな」

「その方がいいさ。

 これを使うとすれば、あの建築中の城塞ごと破壊することになる。

 それ以外に、町の方にも衝撃波による被害が……」

「一応、いつでも磁場を展開して発射出来るような体制を取っていたわけだが……使わずに済んでよかったな」

「まあ、今回は、な。

 この先も、実際に使う機会が永遠に訪れなければいいが……」

「磁場によって音速を超えて弾丸を打ち出すマスドライブ、別名、レールガン。

 無尽蔵の迷宮の魔力を電力に変換できるから、どうにか使用可能なわけだが……」

「高速度で打ち出された弾丸は大気との摩擦熱により途中で蒸発、プラズマ化。

 しかし、質量が失われるわけではないので着弾時のエネルギーは膨大なものとなる。

 反応兵器を除けば、われらピス族が所持する兵器の中では最大の威力を持つ。

 まったく……こいつを使う日が、永遠に来なければよいな。

 こいつの破壊力は、この世界には、あまりにも不釣り合いだ」


 荒野。多国籍軍総司令部。

「次々と見込む被害報告と戦後処理の数々……。

 まこと、いくさとは、はじめるよりも納める方が、よほど七面倒くさい。

 これではティリの顔を見るのもいつになることやら……」

「主上」

「ああ。

 仕事はきちんとこなすとも、うん。

 これでも、皇帝であるからな。

 しかしだな、この戦後処理が一段落したら、うちの奥も一緒にティリの顔を見に……」

「主上!」


 荒野。多国籍軍陣地。

「ごっ……げほっ!

 ……はぁ。

 酷い目にあった……。

 余は、泳げぬというのに……」

「よく生きておったものだなあ、ルテリャスリよ」

「どの口でそういいますか!

 余が絶対防御の特性持ちであり、水竜の中でも地に足を着けて歩けたからよいものを……。

 それでもだいぶん、水を飲みましたぞ!」

「そういきり立つな、ルテリャスリよ。

 終わりよければすべてよしというではないか」

「あんたがいうなぁー!」

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