37.こうほうしえんぶたい、ふんせんす。
「……人狼?
この、脂ぎって腹がでた、髪の薄いおやじが……」
「イメージじゃないっていいたのか、嬢ちゃん?
ま、こっちにしたところで、世間様の安易なイメージに合わせて自分を変えなければならない義理はねーわな。
第一、おれが狼男だってのは、生まれついての体質でおれが選んでそうなったわけじゃーねーし……これでもはずれ者の特異体質中年としてそれなりに努力して、世間様となんとか折り合いをつけてせーかつしているんだぜ?」
「一晩迷宮に入って、その賞金で何日か娼館に入り浸ってお金が尽きたらまた迷宮に入る……という自堕落な生活態度でも、確かにギリギリ世間に適応はしてはいますね。
一応、露見している限りは犯罪にも手を染めていないようですし……」
「そりゃあないだろう、ギリスちゃん。
これでも迷宮攻略にはそれなりに貢献しているつもりだし、昼組の連中とあわせても、おれは単体の戦闘能力ではこのギルドの中ではトップクラスにはいるはずだ。
あ。
それから、初対面の魔法使いの嬢ちゃん、一応助言しておくと、そのやたらひらひらしたドレスと魔法使いのとんがり帽子とは、あまり合わないぜ」
「ええっと、ゼリッシュさん。
今回の作戦にご協力してくださるようでしたら、さっさと迷宮にはいっちゃってください。
その戦闘能力だけが数少ないゼリッシュさんの美点なんですから、思う存分暴れて他の人の役に立ってくるといいですよ?」
「はいはい。とっとと働いてこい、ってね。
いんじゃ、まあ……景気づけに、ひとつ吼えておきますか……」
……ぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉぉんんん……。
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん……。
「……やっといってくれましたか……」
「冒険者は、癖が強い者が多い」
「……ルリーカさんがそれをいいますか……。
ところでルリーカさん、魔法とか使って中の様子を見たり中の人たちと連絡を取ったりできませんか?」
「あらかじめ準備をしておけば、なんとか可能。
連絡については、あの魔女がさっき使った通信術式を真似すれば……でも、そうするのには、対象となる者一人一人に施術しておく必要がある」
「つまり、今からでは間に合わない、ということですね?
では、せめて中の様子を偵察できるようにするとかは……」
「……やってみる。
今、迷宮内の魔力濃度が急激にあがっているから、その魔力を取り込み続ける人造使い魔を汲み上げれば……長時間稼働するモノが製造可能なはず。
……おいで!
サンダーバード!
ファイヤーバード!」
「鍾乳洞方面の調査活動をしていたギルマン部隊、帰還しました。
このまま装備を調えて救出作戦に参加してくれるそうです。行き先の指示を願います」
「夜組の人たちが集結してきています。
とりあえず、何名かでパーティーを組んで貰っていますが……」
「ギルド本部から、例の最終兵器を持ってきました!
これ……本当に使うんですか?」
「最終兵器は、もう少し待ってて。
主だった冒険者の人たちに地図の写しを配って、大判地図の前に集合させてください。これから簡単なミーティングを行います。
帰ってくる人たちのために医療班の体勢を整えたり、夜食の準備をしておいてください」
「もう手配しています」
「はい。
それでは、ミーティングをはじめます。
先ほど、想定外に大量のモンスターが発生いたしました。強力な冒険者がたまたま居合わせて初動がはやかったため、今のところ大事にはなっていませんが、まだまだ予断がゆるされる状況ではありません。
実状に関しては、中に入ればつぶさに観察できますので細は省きます。
これからみなさんにやってもらうのは、中に取り残され、孤立した冒険者や人夫さんたちの救助活動ということになります。
この地図をみてください。モンスターが大量発生した場所は、この色を塗っている部分です。先行した冒険者はさらにこの先の未確認部分、おそらくモンスターの発生源と見られる場所を目指しています。彼は途中でかなりのモンスターに手傷を負わせているそうで、少なくともこの地点までは、モンスターの被害はさほど問題にはならないものと予想されます。
今後、問題なのは、このメインストリートからはずれた枝道の先に取り残されている人たちで……その枝道にも、相応数のモンスターが入り込んでいるものと予想されます。
みなさんにお願いしたいのは、そうした枝道を虱潰しに調査して、現在所在が判明していない人たちを発見し、救出することになります。
幸い、このうち大部分の地域はすでに調査が済んでいる場所なので、すでにお手元にあるように、かなり正確な地図をお渡しすることができました。
ここまででなにか質問はありませんか?
なければ、実際に担当地域を割り振っていきたいと思います。
担当地域の調査が終わったら、お手数ですがいったんここまで帰ってきて、次の指示をお待ちください……」
「……ふぅ。
ルリーカさん、中の様子、なにかわかりましたか?」
「生存者の位置、何組か確認。
地図の上に待ち針をさしている。現状、モンスターと遭遇していないか、遭遇していてもなんとか対処できてる模様」
「つまり……今回のモンスターは……ほとんどわき道に入らず、まっすぐにこの出口を目指している……というわけですね?」
「今の時点で余計な先入観を持つのは危険」
「そうですね。予測や仮説は、後回しにしましょう。
あとは、先行したシナクさんたちの現在地は……」
「……今、あの魔法使いに確認……できた。
モンスターが多くいる場所をたどっていって……地図でいうとこの地点……大きく開けた場所にでた、といっている。
そこに……シナクが、巨人の門と呼んでいる建造物があり……そこから、大量のモンスターがでてきている……と、いっている」
「ここは……ダウドロ一家が発見した、階段のある場所……。
やはり、ここが出所でしたか……」
「ギリス、ルリーカもそこにいって、いい?
そこ、今、シナク一人しかいない。シナク一人で対処できる数ではなさそうだし……なにより、開けた場所だと、単身で多数に囲まれているシナクは圧倒的に不利。
座標も判明しているから、転移魔法が使える」
「……なら、うちのとーちゃんも一緒につれていてくれ」
「剣聖様!」
「召集信号みて、来てみた。
うちの剣も、なんかヤバそうな雰囲気感じたみたいだしな。
いざというときの守りの後詰めは、わたしいれば一人で十分だろう。子守をしながら、しばらくここに待機しておくわ」
「た……確かに、剣聖様が突破されるようなら……われわれにはもう、打てる手がありませんしね……」
「緊急事態だ。うちのメイドどもも、貸そう。
みな、相応に腕が立つ」
「お心遣い、ありがたく。
ルリーカさん。
それでは、ルリーカさんとバッカスさん……それに、あと一人、うちの最終兵器を、シナクさんがいる場所まで連れていってください」
「……おい! ギリス!
こいつは……この棺桶は……」
「死者の王……いえ、この場合、死者の女王というべきですか……ここに眠っている彼女が、うちのギルドの最終兵器です。
この吸血鬼を契約術式で従わせて、ルリーカさんとバッカスさんとともに、シナクさんがいる場所へ投入します。
攻撃力という点でいえば、現状でわれわれが……わたしが用意できる、最強メンバーです」