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25.はけぐちをつくろう。

 迷宮内、小会議室。

「どうやら、リリス博士の推測は図星のようだな。

 発破で壁面を破壊するたびに、粉塵の中から討伐するのにも一苦労するモンスターが出現する。

 そのおかげで工事は遅々として進行が遅れていたものだが、モンスターがどこからともなく、出入り口がないはずの場所から唐突に出現する現場が、これでようやく押さえられたことになるの。

 そこの壁面を壊されたくはない迷宮が、工事を邪魔するために集中的にモンスターを出現させたと考えれば、辻褄はあう」

「それで、そのリリス博士のお考えでは、そこの通路に穴を開けて魔力の逃げ場を作れば、モンスターの出現率が幾分か下がると予想されているわけですが……今の時点では、以前と比較して有意な差異は認められていません」

「ついさっき、大きな風穴を開けたばかりだ。もう少し時間を置いてみないことには、はっきりとした差は出て来ぬであろう。

 ともあれ、こんな手間でモンスターの出現率をいくらかでも抑えることが出来るのであれば、専用の作業班を用意して積極的に取り組むべきであろうな。

 その方が探索業務だって捗るであろうし、それでなくても最近の冒険者たちはオーバーワーク気味だ。

 今や、ごくふつうのパーティが一日で三桁の討伐数を達成することも珍しくはなくなっている。いつの間にかそれが標準的になっているので誰も不思議には思わなくなっておるが、どう考えてもこの状態は異常だ。

 頼りになる術式やアイテムが続々完成してきているとはいえ、冒険者一人一人はあくまで生身の人間。こんな無理をいつまでも続けていたら、そのツケは必ずどこかで払わなくてはならなくなる」

「とはいえ、その冒険者の中にも短い期間でより多くの賞金を稼ぎたいと考えていらっしゃる方々も、決して少なくはないわけでして……」

「ふふん。

 ろくな休養も取らず、無理に無理を重ねて大金を得たところで、ロストしたら元も子もない。精神的肉体的な疲労は着実に蓄積するし、本人が自覚するかどうかに関わらず、そうした披露はいずれ致命的なミスを招く。

 無駄な被害を招きたくはなかったら、ギルドは十分な休養についても冒険者たちに指導することを徹底するべきであろうな」

「そうした指導は前々から行ってはいるのですが、ギルドはその性質上、冒険者の自主性を尊重しなければならず、どうしても徹底しかねると部分もありますね。

 実際のところ……」

「……そんなに報酬が欲しいものか……と、いいたいところであるが……」

「欲しいのでございましょうね。

 モンスターの討伐報奨金は、他の業種の賃金と比較すると破格といってほどに高額です。

 命がけの仕事になることをわきまえた上で、自ら志望して冒険者になろうとする方々の熱意は、おおむねそうした身も蓋もない欲望に根ざしております。

 特に少学者出身の冒険者は、それまでに最底辺に近い生活をして来た人たちが多いから……」

「金銭に対する執着、貪欲さが違う、か。

 こうしてリリス博士の提案に従ってモンスターの出現率を抑制することも必要なのだろうが、それ以外にも、別に、逃げ口や捌け口を用意した方がいいかも知れぬの」

「別口の……ですか?」

「根本的なことをいえば、ある程度金が貯まり、引退を希望している冒険者や、負傷して現役を退かざるを得なくなった冒険者たちに、別口の仕事を紹介してやる、とか。

 あるいは、必要ならば軽く別業種の訓練でもつけてやって、王都なり別の都市なりに移送する手助けをギルドが手配してやるとか……。

 一時的には、迷宮の中かあるいは近郊に、もっと遊んだりストレスを発散させる店を誘致して、仕事に熱心な冒険者に休憩をしたくなるようにしむける、とか……」

「そういえば……最近、負傷者が増加傾向にあり、それ自体は憂うこととはいえ、稼働冒険者数と比較すると警戒するまでには増えてはいないわけですが、ともかく、自分で身の回りの整理が出来るくらいに回復し、しかし本業に戻るまでには至らない方々が、昼間からお酒を飲んだり迷宮日報を片手に日長一日賭博に興じていたりする姿が散見され……」

「苦情が、来ておるのか?」

「ここでは、冒険者といえば功労者扱いですから、苦情といえるほど強いニュアンスではないのですが……それでも、外来の方にとっては、そうした方々の様子は見目麗しくないことも確かでして……」

「そういうのこそ、どこか一カ所に閉じこめておくとか出来ないのか?」

「残念ながら、冒険者の自主性を尊重するというのがギルドの方針でございまして……」

「で、あれば……一層、遊興施設を誘致する必要があるのではないか?

 体調の関係で冒険者として働くことが出来ぬというのであれば、内職でもなんでもやらせて忙しくさせておくのが一番の解決策しゃ。それも無理強いが出来ぬようであれば、どこかにガス抜きの場所を作ってそこに集まるようし向けるのが、解決策としては一番近道だと思うのだが。

 わらわは足を運んだことがないが、最近、迷宮内にも安酒横町とかいう猥雑な一角が作られたようであるし……」

「ああ。

 引退した冒険者が集まって迷宮内の空間を間借りして、小さな飲食店をいっぱい開いた場所ですね。

 あそこは、自然発生的に出現したガス抜きの場所になるかと思います。

 ああいう場所を、もっと増やせと?」

「どのくらいの規模が適切であるのか、判断が難しいところであるが……ここまで人が集まっている以上、その人出を当て込んだ店や飲食店は自然に増えていこう。

 町外れと城塞の中間くらいにある、当初は王国軍目当てに集まってきた移動慰問業者集団も、今ではかなり規模を多くしておるようだし……」

「あそこはいかがわしい業種が多く集まっているようですが、必要ではあるのでしょう。

 あそこに通っている冒険者の人たちも、決して少なくはないようですし……」

「悪場所というか、あの手の捌け口を用意するのは大軍を率いる際には必須のことであるからな。

 あれはあれで放置して置いてもいいと思うが……それ以外にももっと多様な遊興施設が、健全なのもそおでないのも含めて、必要となろうな。

 もっとこう、気晴らしにぱーっと遊べて散財出来る場所が……」


 迷宮内、射撃場。

「ということで、なにか案はないか? イオリス。

 ここの業務を拡大するのでもいいし、別の遊興施設を作るのでもいいし……」

「経営のことにい関しては、わたくしよりもククリルさんたち三人にでもご相談した方がよろしいかと思われます」

「あれらはあれらでいい経営者であるとは思うのだがな。

 いかんせん、貴族としての教育を受けてきた弊害か、保守的なところがあって、今一つ新進の気概に欠けておる。

 すでに成功しかけている事業を拡張するのには向いているであろうが、新しい事業を興すのには向いておらん」

「そうですね。ティリ様がおっしゃるとおり、ここも、順調に固定客を掴んでいて、各部門を徐々に拡大しようという意見も出ています。

 射撃場も飲食部門も合宿所も、連日連夜大入り満杯。射撃所と合宿所は何ヶ月も先まで予約が埋まっているくらいでして……」

「で、それらすべての差配をして雇人をうまく回している、いわば総支配人ともいうべき存在がおぬしであるわけだ。

 ここは、今後も順調に成長していくであろう。なにせ、まだまだ需要があるし、誰にでも真似が出来る商売はしていないからな。

 ここはこのままでいいとして……その他に、迷宮に足りない娯楽とはなんであろうな?」

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