36.ぼうけんしゃたちはめいきゅうにつどう。
迷宮内、入口付近広場。
「大判地図、持ってきました!」
「そこの壁に貼りつけて。
現在地がだいたいでも判明している人たちは、地図の上にピンをさしてその場所を明示」
「冒険者と人夫の名簿持ってきました。
現在、冒険者二十三名、お助け人夫七十二名が迷宮内にいるはずです」
「安全確認がとれた人からチェックしていってください。
人命救助を最優先に対処します」
「冒険者の緊急召集信号、準備できました」
「信号、あげてください。
冒険者が集まり次第、救助班を編成して迷宮内に残った人たちを救出にいきます。
誰か、手が空いた人夫さんたちを何人か捕まえて、ギルド本部から例の最終兵器を取ってきてください」
「……え?
あの……危ないヤツを、使うんですか?」
「緊急事態です。
手段を選んではいられません。
責任は、わたしがとります」
迷宮前。
「緊急召集信号、うちあげます」
ひゅー……。
……ひゅー……。
…………ひゅー……。
町外れ某所、娼館。
「……ふぁ……。
なにかと思えば、しょっぺぇ花火だ……。
珍しいねー、ギルドの召集信号だわー。
おれも、はじめてお目にかかった……。
……ふぁ……。
まだまだ宵のくちで眠てーんだが……たまには真面目にお仕事でもして、ギルドの連中に恩でも売っておきましょーかねー……」
某武器屋。
「おじさーん!
なんでもいいから在庫、ありったけだして。
あの信号があがるってことは、かなーりやばいことになってるはずだから……」
迷宮内某所。
「うわぁっ!」
「おやおや。
誰かと思えば、巡回訓練をしていた新入りさんたちですか……」
「レ、レニーの旦那!」
「モ、モンスターがそこいら中にあふれて、おれら、固まって防御に徹するしかなくって……」
「いえいえ、それでいいんですよ。命大事に、で正解。
負傷者とかはいませんね?」
「全員、今のところ、なんとかかすり傷程度ですんでます」
「そいつは重畳。
ところでこの班は、予備の、余っている武器とかはないですか?
できれば弓矢がいいんですけど……」
「食料と水、武器は余分に持つよう指導されたんで、そちらは大丈夫です」
「いいですね。
それではここからは、みなさんをぼくが指揮していきます。
とはいえ、モンスターの目抜き通りはシナクくんがかなり頑張ってくださったんで、われわれの仕事は、手傷を負って弱ったモンスターに、片っ端からトドメをさしていく作業になるわけですが。
新入りさんたちの経験値稼ぎとしては、ちょうどいいかも知れませんねぇ……」
迷宮内、入口付近広場。
「わはははははは。
ここまでくれば、まずは安心ですなあ」
「ふう。
どうも、ありがとうございます」
「わはははははは。
帝国官吏様になにかあったら、それこそ外交問題になりますわ。礼を言われる筋合いのものでもありますまい」
「それもそうですか。
しかし、赴任早々、こんなトラブルに遭遇するとは、運がいいやら悪いやら……」
「バッカス、こっちに来て」
「わはははははは。
ルリーカか。
それに、ギルドの職員さんたちも総出で……」
「緊急事態ですから。
早速ですが、バッカスさん。
中の様子がどうなっているのか、教えていただきたいのですが……」
「わはははははは。
例によってシナクが先行してるから、そうそう心配することもないと思うんだが……。
ええっと、この地図でいくと、出入り口からだいたいこのあたりまでは、くる途中でおれが一掃しておいた。
で、ここから奥へは、シナクのヤツがいっている」
「それ……一人で、ですか?
シナクさん一人で、大丈夫なんですか?」
「わはははははは。
他のやつならともかく、なにしろ一人勝ちのシナクだからなあ」
「シナク、健在。
今、シナクにとりついている魔法使いから通信が入った。
ここから……ここまで、出会ったモンスターを片っ端から攻撃して半ば無力化しながら、走り抜けた……と、いっている」
「ここから………………ここまで、ですか……。
平均的な冒険者なら、探索するのに五日以上かかる距離のはずですが……」
「シナクだし」
「わはははははは。
シナクだから、なあ」
「…………一人勝ちのシナクさんの、面目如実……ということで、納得しておくことにしておきましょう。
では、シナクさんが通ったあとには、手負いのモンスターが放置されているわけですね? それを処理しつつ、迷宮内に残った人たちを救出する、という方針でいきます」
「それじゃあ、わたしらダウドロ一家はその掃討戦を担当する、ということでいいのかい?」
「おかみさん……。
申し出はありがたいのですが……長期間の潜行から帰ったばかりで、大丈夫ですか?
二重遭難とかいうことになったら、こちらも困るのですが……」
「なあに、見かけほど疲れてもいないよ。
わたしらダウドロ一家は、自分たちの手で斬ったはったするわけでもないからね」
「そのお言葉、信用させていただきます。
でも、くれぐれも、ご無理はなさらないよう」
「ああ。
無理はしないし、少しでも危なっかしい要素があったら即刻、引き返すことにするよ。命あっての物種だからね。
ザッシュ、巣箱を担いでこっち来な!
マチュアも笛吹いて、さっさとお友達を集めて!
ほらほら、リーチィーとデッシュもこっちに集まって! もうひと稼ぎしてくるよ!」
「……よぉぉぉぉぉーっ、とぉ!
移動力重視の神速モードコニスちゃん、参上!
今、召集信号あがってたけど、いったいどういうことになっているのかな?」
「迷宮からモンスターがあふれかけました」
「ありゃま。
そいつは大変」
「一番先行しているのがシナクさん、その次がレニーさん、たった今、ダウドロ一家が迷宮に入って、迷宮内に残っていた人たちの救出に当たっています。
それまで迷宮内で探索とか作業をしていた人たちは、ほとんど取り残されています」
「よっしゃあっ!
だいたいの状況は把握した。新たな武器も調達してきたところだし、わたしはこのまま中に入って状況を偵察しつつ、必要とあれば現地の人たちと合流して補給とか手助けとかを臨機応変にしてくるよ!
なにしろ今のわたしの装備だと、シナクくん並に速いからね!」
「コニスさん!
出発する前に、最新の地図の写しを何枚か持って行ってください!」
「はいはーい!
では、いってきまーす!」
「……ふぁ……」
「あっ……ゼリッシュさん……。
来た……ん、ですか……」
「なんだなんだ。
来ては悪いような言い方だなぁ、ギリスちゃん。
せっかく、緊急召集信号をみて馳せ参じたってのに……」
「そういうわけでもないんですが……その、意外だったもので……」
「で、今、どういう……っと、そこの地図をみれば明瞭か。
そうかそうか。
モンスターが、出過ぎたんだな……」
「ギリス、この、薄汚い中年男……誰?」
「薄汚い、って……容赦ねーなー、魔法使いの嬢ちゃん。
昼組の嬢ちゃんたちとは面識はねーが、これでも夜組の賞金王なんだぜ、おれ……。
おれは、ゼリッシュ。
人狼のゼリッシュだ」