18.みうちかいぎ。
「魔女さん。
やはり……ピス族の方々がいう、最終兵器を用意して貰った方がよろしいでしょうか?」
「ピス族か。
確かに、あいつらが持っている兵器ならば、あるいは水竜を滅することも可能ではあろうが……」
「なにか、問題があるのか?」
「威力がな、大きすぎるんだ。
水竜ごと、多国籍軍を全滅させてもよいのであれば、使用することを考えてもいいのだろうが……」
「確か……大きな都市を、一瞬で破壊することが可能な兵器も所持しているとか、いっていたよな……」
「ピス族ならば、出来るだろうな。
もっとも、そんなことをしても誰も得をしないから、実際にはそうした兵器を使う機会は訪れないだろうけど」
「そのような強大な破壊力を持つ兵器、か。
……想像つかんな」
「つかない方が、よい。
やつらは、汚い兵器も綺麗な兵器も、両方持っている。
せいぜい、やつらを怒らせないようにすることだな」
「そんな強大な兵器に、綺麗も汚いもあるのかよ?」
「あるのだなあ、これが。
そうだな。
汚穢や害毒があとに引き兵器と、そうでない兵器といい直せば、少しは想像がしやすいか……」
「……汚穢や害毒?」
「放射能といってな、生命の形そのものを根本から歪め、そして何百年もその土地に染み着く害毒をまき散らす、核反応兵器というものがあるのだ。
それ以外にも、ごく単純な物理的作用ではあるのだが、強大な破壊力を持つ兵器も存在する」
「その両方を……ピス族は、所持している、と……」
「だからこそ、そちらの帝国は、ピス族の知識、その一部を封印指定しているのだろう?
こちらの世界でそのような強すぎる兵器を作らせないために……」
「公害とか環境破壊とか市場破壊とか、他にも諸々、禁止するための理由はあるのだが……確かに、強すぎる兵器の生産を抑制することも、封印指定の大きな根拠となっているな」
「賢明な判断だ。
ピス族の知識の大半は、こちらの世界に取っては早すぎる」
「喜ぶべきかな。
五賢魔の一人に認められるとは」
「好きに喜べ。
余計な欲をかかず、足ることを知ることは、特に為政者がそうあろうとすることは、出来るようでなかなか出来ることではない」
「ふふん。
この世界は……ピス族の世界と比較すればまだまだ遅れているのであろうが……これはこれで調和はそれなりに取れているからな。
現状でも問題は多いが……」
「知識を蓄え科学や技術に長足の進歩が合ったところで、完全な理想郷なんかは作れやしない。
多少の問題を解決したところで、すぐに別の問題が発生するだけだ」
「別の世界の知識に頼ったとしても完全な解決は望めず、だとしたら……自分の足で歩いていった方がよい。
仮に失敗をしたしても、自分の選択や方法が悪かったのだと、まだしも納得がいく」
「そういうことだな。
では……水竜退治についても……」
「これ以上の干渉はなしにして貰おうか、不眠のタン。いや、塔の魔女よ。
これはもはや、われらの問題だ」
「それがいい。
どこまでやれるのかは、今の時点では不明だが……」
「せいぜい、足掻かせていただこう。
カク、スケ。
一度、帝都に戻るぞ!」
「もう……で、ございますか?」
「帝国派遣軍の編成を再考する!」
「作戦日まで、もう十日……いえ、実質、九日しか、ありませのに……」
「今のはなしを聞いていたであろう!
敵は、水竜は予想以上に危険な相手であると判明した!
で、あれば……あとで後悔せぬように備えるだけ備えておかねばならん!」
「「は!」」
「では……準備はよいな?
ティリよ。
すぐにまたまみえることになろうが……そのときまで、壮健であれ!」
「主上、転移します!」
「いけ!」
しゅん。
「……いっちゃった……」
「よかったんですかね、あれで……」
「いいんじゃあ……ないでしょうか?
少なくともあれで帝国軍は、水竜を見くびることがなくなると思いますし……」
「あいかわらず、慌ただしい父様であった」
「よきかな、よきかな。
なかなか面白い見世物であった」
「団長さん……も、そんな、無責任な」
「われらは北方の、吹けば飛ぶような私兵集団であるかの。
今回の水竜作戦においても、自発的に参加してはいるが、多国籍軍内部においては戦力として少しも期待されてはおらん。
各国王家の肝いりで当地に渡ってきた軍勢と比較したら、装備や戦力ではどうしたって見劣りをする身。
ならばわれらは、われらで好きにやらせて貰うさ。
大国には大国の、弱小騎士団には弱小騎士団なりの、おのおのにふさわしい役割があろう」
「そこまで割り切っているのなら、今さらおれたち外野が口を挟めるものでもないのか……」
「ときに、ギリスといったか?
ギルドの長よ」
「はい。
確かにわたしはギリスですが、ギルドのマスターは別にいて、ですね……なんでしょうか?
北方自由騎士団の団長さん」
「さきほどももうした通り、われら北方騎士団は、多国籍軍に参画するよりは、この迷宮内で今回の作戦に従事した方が、より効果的にその実力を発揮出来ると思うのだが、いかがであろうか?
もし差し支えないようであったら、現在ギルドが企図している、あのような強大な水竜を外部に放り出す作戦の詳細を、この場で詳らかに明かしてはいただけまいか?」
「……えっと……あの……。
どう……しましょう?」
「と、いわれましても……その手の判断は、一回の冒険者であるおれがするべきではないと思うし……」
「……くすん。
シナクさん、冷たい」
「とりあえず、その方の身分は、確かなようです。
こちらのオラスさん、ラキルさん、ニクルさんが昔からご存じだったようでして……」
「……はぁ。そうですか、レニーさん。
まあ……ここまで来て、作戦の詳細を伏せておいても、なんの益もありませんものね……。
もう少し早く当地に到着していらっしゃれば、昼間の会議に参加していただくことも可能だったのかも知れませんが……」
「……という構想になっております」
「なるほど、なるほど。
つまり、迷宮内に潤沢に存在する魔力を有効利用し……」
「今回の作戦に限らず、現在、迷宮探索事業全般が、迷宮内の魔力に依存して行われています。
そうでなければ、経験の浅い新人さんたちを危険な現場に放り込むなんて無茶は、到底不可能だったでしょう」
「よきかな、よきかな。
今の作戦であれば、われら、北方自由騎士団が活躍する余地は残されている」
「は……はあ」
「わからぬか? わからぬか?
われら北方自由騎士団の異名は、海賊狩り。
水場での戦闘は、お手の物じゃ。特に船上での戦いを得意とする」
「あ!
そういう……」
「さよう。さよう。
そちらに異存がなければ、明日でもその鍾乳洞とやらでわれらの実力のほどを披露してみせるが……」
「そうですね。一度、見せていただければ……。
いえ、わたしが見ても正確な判断は出来ませんので……レニーさん、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「そうですね。それがいいでしょう。
ちょうど明日から総合演習に入りますし、北方自由騎士団の方々に入っていただくのであれば、出来れば、その前に……」
「詳細については、レニーさんにお任せいたします。
鍾乳洞内の総司令役は、レニーさんですから」
「では、そのように手配をさせていただきたく」
「総合演習、ってことは……」
「そう。
ルリーカたち魔法使い組も参加して、本番通りのスケジュールで進行する」
「そういうことをやるとなると……いよいよ、って感じがしてくるな」