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13.じゅんびもろもろ。

 迷宮内、射撃場付属合宿所内、執務室。

「はい、お茶をどうぞ」

「あ。

 どうも、イオリスさん」

「最近の売り上げですか?」

「ええ。

 客商売だから毎日それなりに変動がありますので、それをチュックしつつ改めるべきところを改めていかないと、将来的にキツくなっていきますから」

「でも、どの部門も好調なんでしょう?」

「合宿所は連日満員御礼。三月先まで予約で埋まっていますし、射撃場だって昼夜を問わず空きがない。ククリルの武術修練と射撃修練のセットメニューも好調。

 飲食店部門も、イオリスさんのおかげで外に売りに出しているパンまで大好評。厨房もフル回転している状況です。

 もう少し様子を見て、射撃場にせよ飲食部門にせよ、人が育ってきたところで暖簾分けを考えてもいいかも知れない。

 大金を預かって経営している身としては、一安心といったところです。大変に有り難い状況ですね。大ゴケはしないだろうと踏んでいましたが、正直なところ、はじめた当初はここまでうまくいくとは想像していませんでした」

「この迷宮では、なにもかも、激しく動いていきますからね」

「まったくです。

 予想以上に仕事の回転が速くなったもので、新たに各部門の求人も出さないといけなくなったところで……。

 最初に雇った人たちは早くから仕事をおぼえて、今ではいっぱしの古株になっていますからね。

 たかだか三月前のことだってえのに……。

 早いものですよね、時の流れってやつは。

 おれたち自身だって、ほんのちょいと前までは、義勇兵あがりの冒険者で終わるとばかり思っていましたもん。

 巡り合わせっていうか、なんてぇか……とにかく、不思議なものです」

「ハイネスさんたちは、そもそもこの迷宮に来ようとした時点で、それまでの人生とは別の軌道に乗ったのだと思いますけど……」

「はは。

 違いない。あのまま、自分の領地と王都を往復する生活を続けていたとしたら、それはそれで平穏な生活だったのでしょうが……たぶん、かなり物足りなく感じていたはずですね、おれたちは」

「この迷宮が発生したことで、いったい何人の人たちの人生が、本来の姿を変えたのでしょうね」

「ぼっち王先輩のような生粋の冒険者はともかく……それ以外の人たちは、おおむね、いい方向に変わっていると思いますよ。

 職や知識、戦うすべを習い……なにより、何万人って貧しい人たちに食べるものと将来の希望を与えた。

 王子ほど楽観的にはなれませんが、これは大きいと思います。

 ときとして件の水竜のようなとんでもないモンスターも出てきますが、それらモンスターをうまく討伐出来ればその後の恩恵は膨大なものだ。

 こちら側が勝ち越している限りは、この迷宮は際限なく富をもたらしてくれます」

「本当に、いつまでも勝ち越していられるといいんですけど」


 建築途中の城塞、最上部某所。

「きらびやかな旗印がぞろぞろと……」

「また、新たな手勢が到着したんじゃないのか?

 ほれ、あそこ」

「ああ。あれは、リキラタル共和国、だな。

 あそこはどちらかというと反帝国派だから、今回の作戦には参加しないと思っていたが……」

「反帝国っていっても、リリラリル運河の商圏を巡って反目感情があるってだけだろう。

 そいつとこっちの迷宮に貸しを作りたいかどうかは、別問題だと思うぜ。

 今やあの迷宮は、帝国とかおれたち王国がどうのという以前の、もっと大きな利権を生み出す金の成る木だ」

「聞いたか?

 迷宮が去年、王国に納めた税収。

 例年の、王国の国家予算の六倍にも達したとよ」

「王国に納めた税だけでも、その有様だ。

 あの迷宮が、今、日々どれだけの富を生み出していることか……。

 今でも、モンスターの討伐数は日毎に増加する一方だというし……」

「……王国はもとより、各国が目の色を変えるわけだ」

「今となっては……影響力が、強く成りすぎたんだろうな。それこそ、大陸中、どこからみても無視出来ないくらいにな」

「それでいて、迷宮の攻略は、あのギルド以外には不可能だといわれている」

「ほんの一年も前までには、王国でも辺地にある弱小ギルドだったはずが……な」

「うちの軍だって、二万からの人員をあの迷宮に送り込んでいるが、結局はギルド共同体制をとってどうにかやっていくのが関の山だ。

 モンスターを討伐出来るところまでは兵を育てられるが、討伐したモンスターを金に変えるところは、依然としてあのギルドにがっしりと握られている」

「そういう、一番金になるところは向こうだっておいそれと手放しはしないさ」

「ごく短期間のうちに、大陸中に通商網を展開したってはなしだからな、あのギルドは。

 いったい、どんな手品を使ったんだか……」

「そんで、おれたち王国軍の城塞組は、迷宮攻略にも多国籍軍にも加わらず、こうして遠くから成り行きを見守るだけ……」

「その見張りだって、日長一日、粉や砂や水にまみれて建築人足をやっている連中よりはましだろう」

「違いない。

 だけど……本当、なにを考えているのかねえ、うちの上層部は……。

 迷宮派遣軍がいつまでも建築工事で済ますわけにもいかないだろうし……」


 ギルド本部。

「多国籍軍への参加は四十五カ国、兵員は二十万人を越えました。最終的には、三十万人に迫る勢いです」

「こちらは協力を要請しただけで戦利品の譲渡も確約していませんので、直接ギルドへの問い合わせなどがない限りはそのまま放置しておいたください」

「は、はあ……。

 一応、要請があれば水竜の最新情報はそのままお渡ししていますが……」

「それで結構です。

 食料など、物資の供給を要請されても決して応じないように。応じはじめたら際限がありませんし、一度でも甘い顔を見せればとことんしゃぶり尽くされます」

「そのような要請は、今のところありません。

 どうも、各国が威信をかけて意地を張り合っているようで、必要な物資もすべて、自前で揃えているようです。

 多国籍軍野営地では、夜毎に他国の将兵を誘い合って郷里料理を自慢する宴会が催されています」

「はぁ……。

 お気楽で、まことに結構なことですね」

「それで、肝心の帝国軍について、なのですが……作戦決行予定日の、前日か前々日に、魔法で全軍一気に移動してくるとのことです。

 そう、連絡が入りました」

「真打ちは最後に……ということですか。

 その手のパフォーマンスは得意だしお好きですからね、帝国は」

「帝国軍は、魔法兵一千名、工兵五千名、その他将兵五千名からなる計一万名構成。

 しかも、皇帝自ら全軍の指揮を執るご親征になるとのことです」

「……王子に連絡を。

 日報で、そのことを大々的に知らしめてください。

 帝国皇帝のご親征ということが伝われば、他の軍も手を抜くわけにはいかなくなるでしょう」


 迷宮内、鍾乳洞内某所。


 ぴぃー、ぴぃー、ぴぃー。

「……と、こんなときに呼び出しかよ。

 今、手が放せないんだけどな……。

 ええっと……冒険者カードを……」


 ざっぱんっ。


「シナクくん!

 その板は後で回収するから、こっちに飛び乗って!」

「おう、助かる!」


 とん。


「コニス。

 この水中船、このまま陸地まで進めるか?」

「任しておいて!

 水の中に沈まないのだったら、このままいけるよ!」

「じゃあ、頼む。

 ……っと!

 いきなりスピード上げるな!

 ……あー、どうも、シナクです。

 なんかありましたか?

 はあ、はあ。

 みんな、他の大量発生で待機組が出払っていて……そんで、ちょっと扱いが厄介なモンスター、ですか?

 知能はなさそう。

 でも……ええ?

 そりゃ……確かに、困るでしょうねえ……」

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