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10.ふあんようそ、それぞれ。

「そういうティリ様は、今日も大軍を率いてきたわけで?」

「おうよ。

 新人どもを連れて、ひたすら死霊の群れを潰してたわ。

 現場に慣れていない輩に限って功を焦って突進するから始末に悪い。

 怒鳴りつけて隊列を維持するのも骨が折れるわ」

「現状、高位の指揮ランクの方も少ないですからね」

「レニーとコニス、それにティリ様くらいか?

 百名以上を率いることが出来るって、ギルドのお墨つきがでたやつって」

「あと、軍籍冒険者の方にも何名かいらっしゃいますけど……」

「いずれにせよ、人数としては絶対的に少ないわけだ。

 普通に冒険者やっている限りでは、そっちの素養は必要ないもんな」

「そうですね。

 大小の大量発生案件も、当初はここまで連日頻発するとは思いませんでしたし……」

「過去の対処法を蓄積して手順書を作り、大人数を投入することでどうにか出来るようなら、そうする。

 いや、客観的に見て、かなりよくやっていると思うよ。

 うちのギルド」

「そうですね。

 最初からどこかの軍隊が主導していたら、ここまで柔軟な運用も出来ていなかったでしょう」

「軍隊ってのは、そこまで駄目なのか?」

「統制が取れていて、組織的な破壊力には優れていますけどね。

 逆にいうと、上下の命令系統が固定しすぎていて、突発的なトラブルには弱い側面があります。

 それに……軍隊内部の階級以外にも、生まれついての身分という要素もあって……」

「……堅苦しい、ってか……」

「一言でいうと、そうなります。

 組織としてとかく硬直しがちで……今も、多国籍軍の野営地では、主導権争いをしている最中じゃないですかね?」

「主導権争いだぁ?

 十日後には、一緒に作戦を遂行する仲間内でか?」

「それぞれ、本国の威光を背負っている身ですからね。

 みなさんなかなか、引くに引けない状態にあるわけで……」

「本国の威光……面子ってやつか?

 馬鹿馬鹿しいといえば、馬鹿馬鹿しいはなしだな」

「それが、外交というものですから。

 今頃、多国籍軍首脳部は、高価なワインでもがぶ飲みしながらどこの軍が号令をかけるか、先陣を切るか、とか……そんな、どうでもいいようなことを侃々諤々とはなしあっている最中だと思いますよ」


 荒野。多国籍軍司令部。

「しかし、ギルドに渡された資料によれば、ずいぶんと大きいものですな。

 この、水竜とかいうモンスターは」

「これほどの大きさとなると……騎兵は、役に立たぬか」

「おそらくは。

 やはり、攻城兵器や大規模な攻撃魔法が主力となるかと」

「なに。やつが魔法により転移されてくる場所は固定されておるのだ。

 そこに照準を固定し、出現と同時に一斉に攻撃をすれば、問題はなかろう」

「いずれにせよ、これほど大きさともなれば、遠巻きにして近寄らない方が無難ではあろうな」

「当然だろう。

 むやみに近寄れば、尻尾の一振りで一軍が壊滅しかねん。

 やつに尻尾があるのかはどうかは、知らぬがな」

「いぜれにせよ、転移予定地点を中心としてぐるりと取り巻くよう、円環状に陣地を構築する……ことに、異論があるものはおらぬな?」

「異論はない。

 が、問題は……」

「その円環の中でも、どこの軍がどの場所を取るか、であるな」

「なにぶん、円環状であるゆえ、どこの場所が有利とか不利とかいうこともないと思うが……」

「転移予定地点よりあまり遠ければ、大砲一つとっても櫓を組んでその上に備えつけねばならん。

 友軍を巻き添えにして派手にやってもよいというのなら、はなしは別であるがな」

「大砲隊は前列に、魔法兵その他は後列に配置すればよかろう。

 どのみち、大砲の射程距離は大規模攻撃魔法よりも短いことであるし……」

「しかし……そのモンスターが巨体であることはいいとして……ここまで安全距離を取る必要が、本当にあるのかどうか……」

「その水竜とやらは、魔法に似た力により水流と雷を操ると聞くぞ。

 雷に打たれて焼死したいのであれば、止めはせぬが。

 この資料にある安全距離とやらも、むしろ大砲の射程距離から算出したものではないのか?」

「では……これだけの安全距離を設けても、それでも完全には安心できぬというのか?」

「だからどうした?

 これは、モンスターを相手にしたいくさであろう。いくさであれば、多少の危険は見込んだ上で、平然と受け流すものだ」

「なにぶん、未知のモンスターが相手であるからな。

 確実なことは、なに一つ断言できぬ」

「出陣を表明した四十余国のうち、現在まで到着が確認されている国は三十二国の軍勢となる。

 今、揃っている者だけで陣地の配置を考慮すること、これに異存がある者はいないな?」

「異存はない」

「ないな」

「ああ。

 早い者勝ちでよかろう」

「では、実際の割り振りであるが……」


 迷宮内、射撃場前広間。

「ふぅ。

 ハイネス率いる実習組。

 今、帰還した」

「おお、ご苦労。

 で、どうだった?」

「どうも、こうも……新人さんたちは、今、早速休憩させているけど、まあこっちはいつもの通り。

 ただ、どうも……」

「……三人組、機嫌、悪かったか」

「いつものことながら、子守のような仕事がお気に召さないらしくてね。どうも」

「かといって彼ら三人だけパーティを組ませるのも、今の迷宮ではキツいし……」

「おれたち以外に、彼らと組んでくれそうな人に心あたりはないし……か」

「ままならないもんだなあ、いろいろ」

「まったくだ、マルサス。

 それで、あっちにシナクさんたちが来ているぞ。

 もう耳に入っていると思うが……」

「今日はギルドから召集がかかっていたとかいってたからな。

 おそらく、水竜作戦に関係したことだろ」

「らしいな。

 おれも、その作戦についてはまだ詳しくは聞いていないんだが……」

「じゃあ、いって先に聞いてこい、ハイネス。

 どうせ今夜には、詳しいことも聞けるんだろうが……」

「そうか。それじゃあ悪いけど、ここを頼むな」

「ああ。

 射撃所の見張り番なんて、実質休んでいるようなもんさ」

「インストラクターの嬢ちゃんたちもいるしな。

 それじゃあ、ちょっと行ってくる」


 迷宮内、管制所前。

『オラス』

『待たせたな』

『ああ。

 で、飯はどうする?

 どこかの食堂にいくか、それとも射撃場に戻るか』

『……今日はあまりお腹すいていないから、羊蹄亭で軽く済ませよう』

『あそこも、軽食くらいはあるからな。

 お前たちがそれでいいのなら、おれもそれで構わない』

『ラキルは今以上に太ることを恐れている』

『ニクルだって』

『どっちでもいいから、はやくいくぞ』

『ああ……オラス』

『なんだ?』

『今も、ニクルとはなしていたのだが……いいのかな、わたしたち。今のままで』

『……どういう意味だ?』

『ハイネスたちにも気を使わせちゃっているみたいだし、それ以上に、もう何ヶ月も本部から返信がないし……』

『本当に……わたしたちの報告書、役に立っているのかなぁ、って……』

『そんなことか』

『そんなことか……じゃないでしょ。

 こっちは真剣に悩んでいるのに』

『おれたちが不要になったのなら、その旨連絡が来る。

 その連絡がないのなら、任務を続行する。

 それだけだ。

 それとも、お前たちは……今の任務を放棄して、おれたちみたいなのに行く宛があるとでもいうのか?』

『そ……』

『それを、言われると……』

『強いていうのなら、相談をすれば、ここの人たちなら真剣に行く宛を探してくれるかなぁ、って……』

『仮に真剣に探してくれるにせよ、確実に都合がいい働き口を探してくれるって保証もない。

 だったら、今の仕事を淡々とこなしている方がいい』

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