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9.にとうりゅう。

「しかり、しかり」


 すちゃっ。


「おお。

 団長が、もう一方のカトラスを抜いたぞ!」

「団長が二刀を抜いたのは、いったい何年ぶりか……」


「……取り巻きどもが、賑やかになっておるの」

「さて、シナクさんの挑発が、吉とでるか凶とでるか……」

「しかし……カトラスの二刀流、か。

 二刀流というのも、使いこなせるものは滅多におらぬものだが……」


 しゅっ。


「あ」

「投げ短剣?

 このタイミングでか?」

「投げた短剣を追いかけるようにして、シナクさんが迫撃。

 だけど……」

「短剣も、次の攻撃も今までのように受け止め……」


 カッ!


「あ……もう一本の短剣!」

「カトラスの刀身を斬り飛ばしたか!」


「面白い。面白い。

 こうでなくては……」

「実力差があるんだから、せいぜい足掻かせていただきます」


「二刀対二刀。

 しかし、一方は半ばほどで刃を欠いたカトラス」

「もう一本は、術式つきの野太刀と並の剣くらい軽々と斬り飛ばす鋭利な短剣。

 それでも、あのご老人は……」

「まだまだ、余裕で対応していますね。

 直接受けることが出来ない短剣をかわしつつ、射程が読めない野太刀の剣先からも避けて……」

「シナクのあれを相手にここまで保たせることが出来るのは、あのご老と剣聖様くらいなものであろうな」


「おぬしの足裁き。

 それは、西方由来のものに似ておるな。

 とはいえ、かなり濁って、原型を留めておらぬようだが……」

「そこまでわかりますか?

 育ての親が皇統の関係者だそうで、直接剣やら体術を習いおぼえた記憶もないのですが、自然と滲みでるものがあるのでしょう」

「自然と、か……」

「ええ。

 見ての通り、おれのは我流もいいところですから……」

「ほ。

 我流で、わしをここまで追い込むかね。

 その割りには、今一つ踏み込みが浅いのは……。

 ふむ。

 おぬし、対人戦の経験が浅いか。

 人よりも、鳥獣を相手にした数の方が多いと見える」

「何度か、盗賊やら野党やらを狩った経験はありますが……本気のいくさってやつは、未経験なもので」

「いや、むしろそうである方が好しかろう。

 人を斬ることに躊躇いがない者よりも、ある者の方が人の姿として正しい」

「ご老人。

 まだ、続けますか?」

「いや、このへんで止めておいた方がよかろう。

 これ以上続けると、年齢のせいかどうも息が切れてれてな」

「それがいい。

 これ以上やるとなると、どっちかがいけないことになりそうだ」

「まったく、まったく。

 遺恨があるわけでもないのに、そこまでする必要もあるまい」

「……ふぅ。

 そういっていただいて、幸いです。

 それでは……ここまでということで」


 迷宮内、射撃場前広場。

「……えらい目にあった……」

「ほぅ……。

 それで、わらわが仕事をしている隙に、おぬしらはそのような面白いことをしていた、と……」

「おれは自身はぜんぜん、面白いとは思いませんでしたけどね。

 面白かったのはもっぱら、周囲にいた見物衆で……」

「終わった瞬間、拍手喝采に包まれていましたもんね」

「いやはや、見事な立ち会いであった」

「……みんな他人事だからって、気楽にいいやがって……」

「それで、その老人たちは?」

「北方自由騎士団の人たちは、何組かに分かれてさっそく迷宮に入っています。

 今日到着したばかりですが、実力的には問題ありませんし、しかし迷宮の内部の事情には不案内でしょうから、一つのパーティつき二、三名、案内役の人がついて行きましたが……」

「シナクと団長の立ち会いをみた後であると、それにも志願者が殺到するようなありさまでな」

「おれ的にはそっちよりも、その前の会議のことが気になるな」

「水竜とやらか?」

「図体だけでも超デカいってはなしですからね。

 それに詳細な能力とかがほとんどわからない、ってのは不気味だし危険です。

 確実に相手を倒すつもりならば、もっと慎重に情報収集に勤しまないと……」

「でも、ギルドとしては、今以外のタイミングは考えられないのでしょうね」

「ギルド内部の戦力が充実してきたからか?」

「それもありますけど……これ以上、遅らせたら……会議のとき、ギリスさんもおっしゃっていたでしょ?

 ギルドの権益を狙い、あれこれ難癖をつけて干渉しようとしてくる勢力は多いんです。

 それを排除するためには……」

「迷宮内部の問題は、おおむねギルドだけが解決する必要がある……か」

「今回、多国籍軍が集まっているのも、どちらかというとギルドが呼び集めたというより、半ば強引に向こうから押しつけられたようなもんですし」

「……そうなのか?」

「迷宮攻略の際、発生する権益は欲しい。

 しかし、自分たち自身で迷宮に入っても成功する確率はあまり高くない。

 くわえて、迷宮の外で強力なモンスターを討伐出来る機会なんて、滅多にありませんから……」

「モンスターくらい、迷宮の外にもそれなりに出現するもんだろう。

 おれだって、何度か別の土地のギルドで討伐以来を受けているし……」

「今回の水竜ほど大きいモンスターの討伐作戦は、それこそ普通なら何百年に一回、あるかないかですよ。

 それに諸外国にしてみれば、これに成功すればうちのギルドに大きな貸しを作ることが出来る……という動機が、一番大きいかと」

「……はぁ。

 いろいろ面倒なもんだなあ、娑婆の事情ってのも」

「ええ。

 まったくの同感です」

「でもよ、レニー。

 万が一……今回の作戦が失敗した場合、そのときはどうなるんだ?

 水竜を外に出せなかったり、よしんば外に出せたとしても多国籍軍が水竜をしとめられなかった場合とかは……」

「前者の場合は……ギルドの主導権が、外部権力によって握られることになりますね。

 王国か、帝国か、それとも、諸外国の共同統治になるのかまでは予測つきませんが。

 後者の場合は……ギルドが多国籍軍の残存兵力と連合して、水竜に対することになるでしょう。

 この場合、ギルドがその責を問われることはありませんが、おびただしい人命が散っているはずです。

 それ以外にも、水竜を無事討ち果たすまでに、どれほどの被害が出ることか想像もつきません」

「危険を予測できた上で、あえて手を出さなければいけない状況……か。

 はは。

 笑えねーな……」

「迷宮に入るぼくたち冒険者が背負うリスクとは別種のものですが、ギルドの職員さんたちも普段からキツい判断を迫られているわけでしてね」

「それで、肝心の作戦とやらは、万全なのであろうな?」

「さきほどもいいましたように、相手の正体や能力がまだ知れていない部分がありますから、おおよそ万全とはいい難いのですが……。

 それでも、相手の能力がこちらの想定する範囲内に収まっているようでしたら、今回の作戦は成功すると思います。

 各国正規軍精鋭による攻撃力は半端なものではありません。彼らが討伐を出来ないような相手であれば、今の人類には到底対抗できない相手であると思うしかありませんね」

「あくまで相手の実力次第、というわけか?

 それは……いい予想なのか悪い予想なのか、判断が難しいところであるな」

「今のギルドには、ゼグスとかギダルとか、人外のEXスキル持ちがいるからな。

 多国籍軍で駄目だった場合でも、それなりに挽回のしようもあると思うけど……」

「最終的な勝敗よりも、ギルドとしては、まずはやつを迷宮の外に引きずり出せるかどうか……それが、肝要であろう」

「そのへんは……今のギルドとしては最上の作戦案だと思いますよ。

 これで駄目だったら、もう他に手はない」

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