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8.しんけんしょうぶ。

 迷宮内、某所。

「ん?」

「どうした? シナクよ」

「ええっと……ギルドより、召集の仮想文が……。

 文面からして、さほど緊急ってわけでもなさそうですが……」

「緊急の場合であれば、大音量で呼び出し音が鳴らされるからな。

 どれ、拙者にもみせてみよ。

 これは……」

「どうしました?」

「余裕があったら、登録手続き所に来てくれってさ。

 なんだか、大物がうちのギルドに登録を希望しているらしい」

「大物……ですか?」

「北方自由騎士団団長以下数名、っていや、わかるか?」

「……なっ!」

「レニーも絶句するほどの者、か。

 さてはて、どうしたもんですかねー……」

「行くしかなかろう」

「行きますけどね」


 迷宮内、登録手続き所。

「お相手つかまつる」

「役目、大儀である」

「では……はっ!」


 かんっ。


「なかなかの太刀筋。

 しかし、軽い」


 かん。かん。かん。

 かんっ!


「あっ……」

「五合まで粘ったか。

 まずまずの腕前と見える。

 今後も、修練に励むがよい」

「……恐れ入ります」

「あの……ジェニファ教官……。

 この方の、武術ランクは……」

「Sだ、S。

 現在登録している現役の冒険者の中でも、明らかに群を抜いておる!」

「は……はぁ……」


「見ろよ」

「うちの教官が、いいようにあしらわれて……」

「あれが、名高い……」

「北方自由騎士団の団長、か。

 老いて衰えず、いや、老いてますます盛ん、といったところだな」


「やれやれ。

 必要な手続きとはいえ、難儀なことだの。

 どれ、次は誰がいく」

「団長。

 おれが」

「おお。

 いって、ランクとやらを推し量ってもらえ。

 ランクとやらが確定したら、荷物を寝台に置いて案内を雇い、即座に迷宮に入るぞ。

 帰りの旅費も、稼いでおきたいからな」

「「「「「はっ!」」」」」


「おお。やってるやってる。

 やっぱ……うちの教官あたりじゃあ、役不足か……」

「無理もないでしょう。

 北方自由騎士団といえば、今の大陸の中では一番、実戦経験が豊富な兵団といわれていますからね」

「あの分だと、全員がSランク判定になりそうだな」

「登録しに来てくれる冒険者が強いのに越したことはありませんよ。

 ギルドとしても歓迎すべきところでしょうし」

「裏がなければ、そうなのであろうがな」

「どれ……教官たちに、挨拶でもしてきましょうかね、っと……」


「……待たれよ!」


「おっ?」

「ふむ。ふむ。

 その矮躯に尖り耳……報告書にしたためられている通りの風体であるな。

 貴公、ぼっち王のシナク殿に相違ないか?」

「ええ、まあ。

 確かにおれは、ここの冒険者のシナクになりますけど……」

「よし。よし。

 貴公さえよければ、一手、ご指南いただけるか?」

「指南、って……おじいさん。

 初対面から、そんな無茶な……」

「貴公は、当所において教官も勤めていると聞く。

 くわえて、当代の剣聖様も認めた腕前とか。

 一介の剣客として、剣を交える機会を逃したくはない」

「……そういうノリですか。

 ああ。

 おれ、そういうの、かなり苦手なんで……出来れば、ご遠慮願いたいかなぁ、って……」

「と、なると……この場で問答無用に斬りかかることとなるが、貴公としては、それでもよろしかろうか?」

「よろしいわけねー!

 このじいさん……にこやかな顔しながら、やけに強引だよ……」

「シナクさん、気をつけてください。

 この方は……」

「ああ。

 なんとかって騎士団の団長さん、だろ?

 おつきのやつらの態度から、推察はついていたんだが……。

 さて。どうしたもんかな……」

「受けるしかないのでは?

 彼らなら、本当にこの場で抜剣して襲いかかって来かねませんよ」

「……はぁ。

 なんとまあ、騎士道精神にあふれた方々で……。

 では、おじいさん。

 もう少し広いところに、移動しましょうか?」

「それがよい。それがよい。

 貴公は、よく足を使うと聞いておるからな。

 広い場所の方が、十全にやりあえることであろう」


「ということだから、ちょっと場所、貸してね」

「なんというか……災難、ですね。

 シナク教官」

「まったくだ。

 名なんか売れても、おれにはいいことなんか一つもありゃしねーし……。

 それで、じいさん。

 条件は?」

「本気で。

 お互い、多少のことでどうにかなるタマでもなかろう」

「……ま、自分の身くらいは、守れるとは思いますけど……。

 では、木剣ではなく、真剣で?」

「その方が、よいな。

 互い、わが身を守れぬほど不如意でもなかろう」

「ですね。

 では、真剣で、自分の身は自分で守る、と……。

 あー……でも、それだと……」

「なにか、不都合があるか?」

「不都合というか、不公正になります。

 こっちは、複合防御術式とか、そちらにとってまり馴染みがないアイテムとかを普通に使用しておりますので……」

「なんの、なんの。

 どのみち、対戦前に相手の手の内はわからなくても当然。

 それで勝敗が決するのなら、それもまた実力のうち」

「さいで。

 そうまでおっしゃるのなら、おおせのままに。

 それじゃあ……レニーでもリンナさんでもいいけど、審判役を頼むわ」

「では、二人で見届けることにいたしましょう」

「そうであるな。

 この組み合わせだと、場合によっては微妙な判断が必要になるか」

「それでは……双方、用意はいいですか?」

「ああ。

 こっちは、いつでも」

「いかようにでも」

「それでは……はじめっ!」


 キンッ!


「おっ!」

「シナクさん……本気、ですね」

「シナクの踏み込みを、余裕で止めたか……」

「老練、といったところでしょうか?」


 ざっ。

 ざざっ。


「……シナクさんが攻めあぐねているところ、はじめてみますよ、ぼく……」

「牽制とフェイントを兼ねて、攻めると見せかけて引く。

 あるいは、攻撃してもはじかれると見取ってそうそうに退く。

 直接刃を合わせることなくとも、読み合いによる攻防が……お」


 ずしゃっ!


「攻撃範囲を拡大する術式……。

 シナクさんが、模擬戦で術式を頼りにするところなんて、はじめて目にしました」

「相手が相手であることだしな。

 拙者でも、あんなのを相手にするとしたら、さっさと打てる手をすべて出し尽くす」

「その割りには……目に見えないはずの術式も、見切られているようですが……」

「その程度でどうにかなるタマでもなかろう。

 お。

 また、突っ込むか」

「シナクさんが、攻勢に出ましたね」


 キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン!


「派手な撃ち合い……というより、シナクさんが、一方的に攻めていちいちそれを防がれている状態ですが……」

「防がれているのはともかく、シナクのやり口にしては、どうにもアプローチが素直すぎるの……」

「同感です……って……え?」

「はは。

 はやく動きすぎると残像が残るというのは、あれはまことのことであったか」


 キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン! キン!


「……シナクさんご自身の敏捷性と縮地術式の相乗効果、ですか。

 その割りには、あまり効果はないようですけど……」

「なにしろあのシナクのことであるから、この愚直さも計算にいれていることと思うのだが……」


 ざざっ。


「……ふうっ。

 守りが硬いじいさんだ」

「踏み込みの鋭さだけは、認めよう」

「そらどうも。

 ついでにこれ、お返します」

「ん。

 ……踏み込みだけではなく、手も早いか」


「団長の柄頭にあった房飾りが……」

「いつの間に、切り取っていたものか……」


「団長さん、そろそろ本気でいくから……もう一本のカトラスも抜いた方がいいんじゃないのか?」

 


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