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4.とくしゅあいてむしょうさい。

 迷宮前広場。

「おい。お前。筋力Aランクか?

 それだけあれば、前衛として引っ張りだこなんじゃないのか?」

「駄目駄目。

 力任せの解体屋は、かえって今は流行らないんだと」

「機銃とか狙撃銃とかが便利すぎるんだよな。

 先に放免されたやつらも、研修中に学んだことがちっとも生かせないってボヤいてたぜ」

「魔法や物理攻撃が通じないとか、特殊なタイプのモンスター以外は銃撃戦でなんとかなるそうだからな。

 今は、直接的な打撃力よりも探索作業についてこれる体力と移動力、それに、臨機応変な対応がこなせる判断力のが評価されるらしい」

「そっか……体力と移動力はともかく……判断力、か……。

 そっちを養うのは……」

「グレシャス姉妹ってのが、うまいらしい。

 なんでも、このギルドではじめて女だけでパーティを組んだとかで、非力さをカバーするための知恵をいろいろ蓄えて来ているとか……」

「ああ。

 交代で、少学舎で教えているらしいな」

「少学舎で?

 流石に、そっちまではチェックしていなかったな。おれたち元魔王軍兵でも、彼女たちの教えを受けられるんだろうか?」

「おれたちが少学舎に潜り込んだら、それこそ不審者扱いされるだろう。

 直接仮装文を出しておけば、希望者が一定量に達した時点で向こうから日時を指定して講座を開いてくれるそうだ。

 もちろん、無料とはいかないが……」

「金額によっては、払えるな。

 ここのところ連日、応援要請で出動しているし……。

 そんなに極端に高値ってわけでもないんだろう?」

「参加料は一回につき、銀貨一枚と聞いている」

「……受講希望、出しておくか。

 宛先は……」

「グレシャス姉妹で、ちゃんと届くらしい」

「ええっと……グレシャス姉妹様、か。

 なんだかんだで、こっちの言葉も不自由はしない程度におぼえちまったな、と……」

「おれは……ククリル宛に追加講座申請の仮装文を……」

「なんだ、お前。

 力任せの前衛なんか流行らないといいながら、今さら武術技能の強化か?」

「だからこそ、よ。

 以前ほどの需要はないかも知れないが、それでも、まったく必要とされなくなっった訳でもない。

 せっかく体力膂力に恵まれたんだ。そっちを生かせるだけの技能を身につけておかないとな……と」

「しかし、おかしな巡り合わせだよなあ。

 ついこの間まで魔王軍をやっていたおれたちが、今では平然とした顔をして冒険者カードから仮装巻物を引き出してお互いのランクリストを参照したり、冒険者の見習いをしていたりする……」

「わけもわからず命令されたままに動いていた以前よりは、よっぽどやり甲斐はあるけどな」

「まったくだが……それよりもおれは、おれ自身の環境に順応する能力に驚いている。

 こんなに短時間のうちに、こっちの世界にここまで馴染むとは思わなかった」

「おれもだ。

 こっちはまあ、よっぽどのヘマをしない限りは飢える心配もないからな。

 気楽っちゃあ気楽だが……」

「それでも……なんだ。

 なんか、周りの雰囲気に引きずられている面ってのは、あるよな。

 ギルドの職員も冒険者も、なんかこう、みんな奇妙な熱気を持っているし……」

「こっちの町にいったことはあるか?

 あっちの人たちはな、動きでもしゃべり方でも、迷宮内の人たちと比べると、よっぽどゆったりとしているんだ。

 おそらくそっちがこの世界の標準で、迷宮の中の連中のがこの世界では例外的な存在なんだろうな。

 長いこと、迷宮攻略なんて剣呑な仕事についているってことも多少は関係しているのかも知れないが、それ以上に、あの迷宮の中には……こう、奇妙な熱気がある」

「迷宮の中と外とでは、人が歩く速度も違えば、物価やなんかもぜんぜん違う。

 迷宮の中ってのは、ようするに人の手を加えて急いで形を整えられた人工的な環境であって……維持するだけでも、余分な手間や物資を必要とする。おまけに、今ではちょいとした都市並の人口密集地帯だってはなしだ。さらにいえば、おれたちのように別の世界から来たヒト族や異族でごった返しているし……。

 あそこは、あの迷宮は……この世界の坩堝なんだよ、おそらく」


 迷宮内、作戦大会議室。

「作戦の概要については、休憩の前に説明した通りとなります。

 これからは、より詳細なご説明を……」


 しゅん。


 ……ふごー。しゅー。


「……なんだ、あれは?」

「今の、転移魔法か?」

「ってことは……魔法使い?」


『わたしはお前の父親……ごふっ!』


「え?」

「いきなり倒れた」

「なんだなんだ?」


『痛いではないか、抱き枕。

 今、なんのためらいもなく投げ短剣、命中させただろう』


「いいから、その暑ぐるしい黒づくめの被り物、脱げ。

 おれは、ネタかぶりには厳しいんだ」


『……しかたがないな……。

 本当は、まだこんな大勢の前で素顔を晒すのには抵抗があるのだが……』


 ぱかっ。


「おお。

 真っ黒な仮面と兜のなかなからいい感じのおねーさんが!」

「顔はともかく……背は、高すぎないか?」

「ええ。

 皆さん、お静かにお静かに。

 こちらの方が、今紹介させていただこうと思っていました、タン氏になります。

 一部で高名な魔法使いで、今回の作戦の立案についても色々とご助言をいただいています。

 あるいは、こういえばわかりやすいでしょうか?

 この方が、以前からギルドに出入りしていると噂されている、塔の魔女その人です」

「「「「「……おおおおお!」」」」」

「あの猫耳娘に莫大な懸賞金を賭けたとか……」

「おれは、ぼっち王のパトロンだか愛人って聞いたぞ」

「あれ?

 あの人、ときどき羊蹄亭にいたりしねえ?」

「皆さん。お静かに、お静かに。お静かに!」

「しゃらーっぷっ!」


 ばしゅんっ!


「……うわっ!」

「目が! 目が!」

「……今のはただの目くらましだ。しばらく目を閉じたままでいれば、視力はすぐに回復する。

 目を瞑ったままでいいから、そのまま静かに聞くように」


 ……しーん……。


「よし、静かになったな。

 ギリスよ。議事を進行させてくれ」

「……は、はい」

「……滅茶苦茶だ、あの全裸……」

「ですが……あとは、タンさんから、詳しいご説明をお願いします。

 この作戦専用に開発した特殊なアイテムについてとかは、タンさんの方がお詳しいでしょうし……」

「む。

 そうか。

 それでは……そうさな。

 毒薬やマーキンング術式を込めた弾頭についてはすでに説明されているそうだから……。

 マーキングされた対象を追尾していく側のアイテムについてでも、説明しておこうか。

 現物は、ここにあるのだがな。どうだ、小さいだろう?

 いや、大部分は網膜を灼かれて目を閉じている最中か。はははははは。

 まあ、これは、どれもすごく小さいのだ。うん。ほれ、二本の指で摘めるくらいに。

 これがだな、水中に投じられると、途端に膨らむ。あるいは、広がる。

 マーキングされた対象を追尾するアイテムは、今回、二種類を用意した。

 浮き……ブイとして作用する、浮力のある物体。これは、水中で巨大な球形の物体になる。比重は極端に小さく、水はおろか大気よりもさらに軽い。

 それに加えて、帆、あるいは水中凧として作用する、薄っぺらい円形の物体。半径はヒト族の身長よりやや長い程度で、こいつが球形ブイと一緒にマーキングされた対象と特殊な力場によってつながれて、どこまでも追尾していく。

 マーキングされた側からしてみれば、それら、よけいな抵抗を生むだけのブイやら帆やらを引きずって泳ぎ回るわけだから、かなり邪魔くさいと感じるはずだ。

 これらの特殊アイテムは物理綱などで繋がっているわけではなく、力場で固定されているわけだから、どんなに負荷がかかっても千切れたり振り切れたりすることはない。

 これにより、対象となる水竜の機動性を大幅に減じようとする……のが、これらのアイテムの役割だ」

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