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0.すいりゅうさくせん。

 王国派遣軍、建設中の迷宮城塞基底部、某所。

「パスリリ家の姉弟、参上しました」

「入ってください」

「参謀総長。

 他の者たちは……」

「人払いをさせて頂きました。

 これからあなた方にお見せするものは、特級の機密事項になりますので」

「機密事項……で、ありますか?」

「ええ。

 見てください。これを」

「……厳重に封印をほどこした……棺桶、ですか?」

「そうです。

 これこそが、この城塞の存在意義にして、わが王国の最終兵器。

 事実上、あの迷宮に対応できる唯一の、魔法兵器です」

「魔法……兵器、ですか?」

「今となっては、兵器として扱われている……というべきですかな。

 封印が厳重にすぎて、あなた方にも禍々しい魔力を感じられませんか?

 これには、ですね、さる高名な魔法使い、かの五賢魔のひとりにも数えられたことがある者の怨念が封じられています。

 生けとし生ける者すべて、それに自分自身を呪い、その生涯を破滅と破壊に関する魔法の研究に捧げたという、災厄のデジュシュの……そう、確か、あなた方魔法使いの用語では、化身アバターというのでしたね。

 とにかく、そういったものが封印されています」

「参謀総長!

 では……この、城塞は……」

「そうです、そうです。

 現在建築中の、おそらくは大陸一頑強なこの城塞は、いざというときに被害を最小限にとどめるため、この化身アバターの封印を解除するための時間を稼ぐため……唯一、その機能のみを期待されてるだけの建築物です。

 あなた方パスリリ家の方々には、これより、この化身アバターの封印を解く術式をおぼえて頂きます。

 こちらの手順書は、この部屋のみで閲覧してください。外部の持ち出しは許可できません。

 それから、すでにおわかりのことと思いますが……この部屋で見聞したことはすべて、外部に漏れることがないよう、くれぐれもお願いしますよ」


 迷宮内、作戦大会議室。

「おお。

 集まっている集まっている。

 人数も人数だが……ええっと、ピス族に、リザードマンに、ギルマン……。

 いつもの打ち合わせよりかは、異族の割合が心持ち、多いかな……」

「シナクくん!

 どうやら今回は、水場での作戦のようだね!」

「おお、コニスにレニー。

 お前らも来てたのか」

「これほど大規模な作戦ともなれば、シナクさんやぼくらは必ずお呼びがかかりますよ」

「そういや、そうか……。

 あー、おれ、今回の作戦について、なんも聞いてないんだけど……」

「初期にシナクさんが発見した、鍾乳洞があったでしょ?」

「ああ、あれな。

 今、リザードマンとギルマンの居住区になっているやつ」

「最近、ようやく戦力が充実してきましたので、あそこの主を相手にしよう、ということになったみたいです」

「主、っていうと、あれか?

 やたら大きくて、素早くて……」

「すぐに去ってしまうので、確実なことはなにもいえませんが……これまでの目撃例を総合すると、どうも、暴君級の優に百倍以上の体重であると予想されているそうです。

 それ以外にも、水流や雷を操るという証言もあり……」

「滅茶苦茶でけぇ!

 加えて……攻撃魔法みたいな真似も出来るってのか!」

「水棲生物は、体が大きくなりがちですからね。モンスターも、その例に漏れないわけで……。

 大きさや攻撃力だけでも十分に脅威ですが、加えて、その主は水中で高速度で移動します。

 こちらの攻撃圏内に捕らえ続けるのが、まず第一の課題でしょう」

「そんな大それたもん……おれたちに、討伐できるのか?」

「どうやらギルドは、今のぼくたちなら対処が出来ると判断したようです。

 ほら、ギリスさんの到着です。

 いよいよ、今回の作戦の詳細が明らかにされますよ」


「……本日は、ギルドの召集に応じてくださり、まことにありがとうございます。

 三ヶ月前から水練修練を受けていた方々はすでに予想済みのことと思いますが、今回の作戦は迷宮内の鍾乳洞にときおり出没する、通称、主と呼ばれている超大型モンスターを討伐することを目的としたものになります。

 こちらの模式図を見てください。

 代表的な大型モンスターの大きさを簡略化して図にしてみました。

 こちらが、最初の大量発生時に出没した暴君級の平均的な大きさ、そのとなりが、標準的なジャイアントオーク、さらにそのとなりが、ときおり迷宮内に出没する乙型ゴーレムと丙型ゴーレムの大きさとなります。

 それで、今回の主……今次作戦において、これ以降は該当モンスターを水竜と仮称することにします……の大きさになります」


「「「「「「「「「「「「……おおおおおお!」」」」」」」」」」」」


「……なんだ、あれは……」

「ほとんど、壁一面を覆って……」

「あんな巨大な生物が、存在出来るものか……」


「お静かに、お静かに。

 この水竜については、その存在こそ確認されているものの、目撃例も少なく推測に頼る部分が多いので、この大きさについてもあくまで目撃証言を元にしてギルドが予想した不確定なものでしかありません。正確なデータとはいえないということを、くれぐれも頭の中にとどめておいてください。

 大きさに限らず、この水竜についてギルドが把握している情報は極めて限られています。

 水竜は常に高速度で移動し、目撃されることがあるにしてもわずか数秒で視界の外に姿を消してしまうからです」


「……雲を掴むようなはなしだな……」

「大丈夫か?

 そんなあやふやな情報を元に作戦をたてて……」

「いや、でも……この巨体に高速度で移動となると……。

 一度、討伐戦をはじめてしまえば、逃げ切ることは適わぬだろう」

「……出たとこ勝負ってわけか。

 ぞっとしねーはなしだな……」


「お静かに、お静かに。お静かに!

 すでにご承知の向きも多いかと思いますが、ギルドとしても最大限のリソースを割いて今次作戦に望んでおります。

 五百名以上の冒険者を確保して長期間に渡る水上戦演習、容易なことでは溺死出来ない救命具や、小回りが効き足の速い船の開発、ピス族や魔法使いさんたち、リザードマンやギルマンの方々などと入念な打ち合わせを重ねて立てた作戦の立案。

 具体的な事はこれより順を追って説明させていただきますが、現在のギルドが準備可能な事はすべて、やり終えております。もちろん、今次作戦に参加する方々すべての安全を第一に考慮した作戦案です。

 それでも不安でしょうがないという方がいらしたら、今この場で退室なさっても結構です。

 今次作戦についても、他のギルドのお仕事同様、参加については完全に冒険者各位の自由意志にお任せしています。

 参加については強制は、一切いたしません」


「……なあ……どうする?」

「どうするったって……なあ」

「これまでの討伐と比較しても、数段危険であることは確かなんだろうが……」

「危ない橋をあえて渡らないで、何が冒険者か!」

「そうだそうだ!

 この水竜ってやつは、これまでのモンスターとは比較にならないくらいの超大型だ!

 この作戦に成功したとなれば、参加したおれたちは一生自慢ばなしには困らないぜ!」

「お静かに、お静かに。お静かに!

 お静かに!

 ええ。

 退室者はいないようですね。それでは、作戦についての説明を続けたいと思います。

 まず、今次作戦の名称についてですが、討伐対象モンスターの仮称に準じまして、以後水竜作戦と呼ぶことにします。

 この水竜作戦は、直接戦闘に参加する冒険者だけでもヒト族異族合わせて千余名、バックアップ人員も含めればその五倍は軽く超える、当ギルド発足以来の大規模討伐戦となります……」

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