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170.じゅんたいりょうはっせいあんけん。



 迷宮内、某所。


 ……うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおん。


(兵隊虫いっぱいー)(薙払いー)


 ……うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおん。


(巨大芋虫ー)(引き裂いてー)


 ……うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおん。


(速度も緩めずー)(つき進むー)


「ゼリッシュの野郎、飛ばしてやがるな」

「まったくだ。

 後を追うおれたちの身になってみろ……っとっ!」


 ずしゃ。


「こいつら、一体一体はそんなに強くないな」

「ただ、槍や刀剣で武装しているからな。油断はできん」

「とはいっても……はっ!」


 ずしゃ。


「どれも、錆だらけでろくに手入れをしていないナマクラだ」

「使いこなしているようにも見えないし、自分たちで作ったというよりはあちこちでぶん取ってきたってところかな」

「とにかく、おれたちはあの人狼の食べ残しを漁りつつ、前進前進」

「あの野郎との距離がもっと開いたら、機銃術式使うかな?」

「いいんじゃないか?

 あれ使うと、格段に仕事が楽になるし……」

「いずれ、必要とあればティリ様から指示があるだろう」


「最前列の者、機銃用意!

 魔法無効化がどの範囲まで及んでいるのか調査しつつ、引き続き前進せよ!」

「よし来た!」


 ドドドドドドドドドドドド……。


「ゼグスよ。

 一段落したら先行して人狼や吸血鬼よりも前に出てみよ」

『……いいのか? 足並みを揃えなくても……』

「構わぬ。

 このままやつらの後塵を拝し続けるのも興ざめであろう。

 それよりももっと奥の源流には、未知の、風変わりなモンスターが控えているに違いない。

 そやつをやつらよりもはやく見つけ、一種類でも多く取り込んでおけ。

 ……いったん、機銃の使用を止めさせるか?」

『いいや。

 このままで構わん。

 もう行ってもいいのだな?』

「行け!」

『承知した』


 ざしゅっ。


「……ほっ。

 あっという間に、あんなに遠くへ……。

 あれも、なかなか使い出がある者よの」


 ……うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおん。


「こ……のぉっ!」


 ぐしゃっ。


(芋虫、一息に引き裂いたらー)(その向こうに、弓を構えた兵隊虫いっぱいー)

「……やべぇ!

 死にはしねーが、矢が体に刺さったままだと破損部位の再生が……」


 ぶおぉぉんっ。


「……あ?」


(ゼグスが、一閃ー)(兵隊虫、全滅ー)


『追い越し御免』

「あ、待て。

 お前、新顔か?」

『ゼグス。

 お前と同じ、人外になったばかりの者だ。

 おれは先を急ぐので、獲物は出来るだけ残しておく』

「あ、おい……。

 行っちまいやがった……」


「あはははははははははは。

 楽しー楽しー。

 手当たり次第に引き裂いて引き裂いて引き裂いてー。

 殺戮ちょー楽しー」

『先に行かせてもらう』

「え?

 ……はやっ!

 しかもなんか、普通のヒト族とは気配が違うし!

 そこのあんた、ちょっと待ってよ!」

『楽しい殺戮の邪魔はしない。

 先を急ぐのでこの場は失礼させて貰う』

「……あ……あーあ。

 いっちゃった。

 変なのばかり増えていくなあ、このギルド……」


 迷宮内、管制所。

「人狼と吸血鬼の投入は成功したようです。

 準大量発生案件はすみやかに収束に向けて……」

「まだわかりませんよ」

「……え?」

「モンスターが流出していくるその源流に、どんなモンスターが待ちかまえているのか、今の時点ではまるで見当がつかないのですから。

 最後まで彼らだけで対処できるとよいのですが……。

 予備戦力は、完全に安全が確認されるまで待機させたままにしておいてください」

「……はい」


 迷宮内、臨時修練所。


 カリアカリカリカリ……。


「シナクさん。

 お茶をどうぞ」

「あ、ども」

「……少しは休憩してください。

 そんなに根を詰めても……」

「……ふぅ。

 そうっすね。一息つきますか。

 あー。

 ナビズ族。

 迷宮の騒ぎは、どうなった?」

(落ち着いてきたー)(人狼と吸血鬼が参戦してー)(こちらが押してるー)

「……あいつら、片っ端か殺していくのだけは得意だからな。

 普段はともかく、こういうときには実に役に立つもんだ」


 カリアカリカリカリ……。


「……出来たぁー!」

「おお。

 お疲れっす、リンナさん」

「はぁ、はぁ。

 長く苦しい戦いであった……。

 この報告書は……」

「お預かりしす。

 本部宛に送ればいいのですね?」

「その前に、清書と複写を一部、取ってもらえるか?

 この忙しい中、手数をかけるが……頭脳種族がすでに迷宮内の運用資料を精査しはじめている以上、急いで提出しなければならない書類でもないので……」

「かまいませんよ。部署は違いますが、どのみちギルド内の業務であることには違いありませんし……。

 それに、こちらの新人さんたちに取っても、いい経験になります」

「で……どうなの?

 見習いの事務員さんたちは?」

「不慣れな仕事が多いの戸惑っている部分はありますが、周囲の者がフォローしてなんとかやっていってます。

 文字を書くだけ、書類を分類してファイリングするだけ……という単純からはじめて、徐々に扱える仕事の幅を広げていく……こちらの部署は、見習いさんに取ってもいい経験になるでしょう」

「本当にそうだといいんだけれどもな。いや、その言葉を疑っているわけではないけど……。 

 ええっと……こっち宛に送られてきた書類は、っと……」

「こちらになります」

「ああ。

 うーん……」

「なにか問題か? シナクよ」

「問題というか……修練に使う木剣が、まだぜんぜん数が揃っていないということで……かえって、実剣の在庫のが多いという……」

「まあ、数が数であることだしの。

 わずか数日ですべてを揃える、というわけにもいかぬであろう」

「ですね。

 ましてや、実用品の剣はそれ専用に扱う職人や商人がいますが、模擬戦用の木剣は完全に受注生産なわけですし……。

 ま、初日から模擬戦はあんまりやらないでしょうから、素振りとかなるべく実剣を使わせるようにします。

 重さのことを考えても、そっちのがいい修練になるでしょうし……」

「で、あるな。

 だがまあ、普通に考えれば、それこそ最初のうちは基礎とか体力づくりを重視するであろう」

「……想定している修練の内容を、事前にチェックするべきだったかなぁ……」

「なんじゃ? シナクよ。

 そんなこともやっていなかったのか?」

「あー。

 とりあえず、お任せでやったらどんな結果になるのか、見てみたいなーって気持ちがあったので……」

「それはまた、大胆な。

 やつらの発想だと、とんでもない修練内容を考案し出すかも知れぬぞ」

「ま……しばらく様子を見て、あまりにも問題がありそうなら指導していくことにします。

 各パーティに数名づつ記録係の事務員さんも随行していますし……」

「間違いは、そうそう起こらないにしても……今回、放免者を早く、多く出したパーティに報奨金を出すというはなしであったろう?

 欲と競争意識に駆られたどっかの馬鹿が暴走しなければよいがな……」

「……怖いことをいわないでくださいよ、リンナさん……。

 冒険者なんてのは、それでなくても成果を出すために無茶は厭わない人種だってのに……」

「ならば、手を抜かずしっかりと監督することだ」

「ああ、はい。

 それは、正論ですね。

 いや、今までだって決して、手を抜いているわけではありませんけど……。

 えーと。

 今、実際に修練をはじめたパーティは……」

「八つのパーティが本日より修練を開始しています」

「……後で、様子を見に行くか」

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