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166.きゅうじんと、かいせん。

 迷宮内、頭脳種族駐留所。

「……これは?」

(小麦ー)

「単位は……麻袋であったな。

 確か……」

「一袋につき、約五十パルほどになるな」

「それが千袋ほど、一日に入荷するのか。

 やはりこの世界は、作物の量に余裕がある」

「しかもそれも、聞けば臨時に余所から買い集めた分だという。

 いつもは、万袋単位で備蓄を行っているとか……」

「むむむ」

(ゼグスー)

『……ん?』

(ティリ様がお呼びー)(手が空いているのらー)(新手のモンスターをおぼえに来いってー)

『手が空いている、か。

 暇といえば暇ではあるのだが……』

「あ、ゼグスさん。

 なんだったら……」

『いいのか?』

「こちらで通辞役を頼んでおいてなんですけど、ナビズ族がいればこちらはどうにかなりそうなんで……」

『すまんな、あまり役に立てなくて。

 おれの能力は、書面に書かれた言葉には有効ではないようだ』

「いえいえ。それこそ、ギルドの見込みが違っていただけですのね……。

 でも、もう少しお待ちくださいね。

 念の為、別の護衛の人を、今、手配しますから。

 ナビズ族、管制に……」

(呼んだー)

「それでは、護衛の人がここに到着次第、ゼグスさんはこちらの任務を解かれるということで……」

『承知した。

 ナビズ族も、ティリ様にその旨、伝えておいてくれ』

(了解ー)


 迷宮内、増設舎。

「イリオス・カズデス、十七歳です」

「う、うむ……。

 確か、あのマスターの連れ合いであったな」

「はい」

「で、本日は求人かなにかか?

 羊蹄亭にはかなりの人数を世話しているはずであるが……」

「ええ。こちらには大変にお世話になっています。

 ですが、今日はそれとは別件で……」

「と、いうと?」

「ククリルさんのところではじめることとなった、試射場をはじめとする諸施設に必要な人材について、仲介をお願いしたいと思いまして」

「ああ。狙撃銃術式のアレであるか」

「そう。狙撃銃術式のアレです」

「そうさな、あれなら、さほど人数は必要ではないと思うが……」

「とんでもございません!

 交代要員を勘定に入れれば、優に三十名……いえ、余裕を見て五十名以上は欲しいところで……」

「……そんなにか?

 余が聞いた限りでは、そこまで大規模なはなしではなかったように記憶しておるのだが……。

 それは、販売開始時の一時的な動員ではないのか?」

「いえ、むしろ、長期的恒常的に必要となる人数です。そのように思ってください」

「……ふむ。

 わざわざこの余にアポイントメントをとったのだ。委細はあるのであろうな。

 詳しいはなしを聞こう」

「まず……お仕事はしていただきますが、それと平行して冒険者になるための修練もしかと受けていただきます。つまり、本気で冒険者になろうとしている者、これが最低限の条件となります。お仕事のシフトもそのへんの事情を踏まえて組む予定ですし、必要を感じればこちらで個別に関係冒険者のアドバイスや指導を行うこともあります。

 大部分は女性のみですが、若干名の男手も必要としています。

 業務内容は接客や飲食に伴うバックヤード作業、宿泊施設の管理維持、狙撃銃術式の指導役、その他雑用など。

 能力や年齢制限はあえて設けませんが、利発でやる気のある子たちを選抜してくださることを望みます」

「能力や年齢による制限はなし……で、いいのか?

 読み書きなども……」

「まだ修得していないようでしたら、こちらの少学舎に通わせて座学を受けさせながら働いて貰います。料理や家事などはこちらで仕込む予定ですから、経験も問いません。

 ただ、本人にやる気がないとどうしようもないので、向上心や勤労意欲の有無だけはしっかりとチェックしてくださることを望みます。

 こちらで使い物にならないと判断した場合には、即座に解雇してこちらに送り返します」

「最後のは当然のことであるが……いいのか?

 教育までそちらでやるとなると、負担がかなりかかるはずであるが……」

「どのみち、すぐに営業を始められるわけでもありませんので、正式に開業するまでの期間を使って必要な行儀や技能は、こちらでじっくりとたたき込みます。

 これだけの人数をこちらで引き受けるとなれば、少学舎にとっても悪いおはなしではないと思いますが……」

「確かに。

 指導者層が薄い現状では、願ってもないはなしであるが……」

「いっぺんに全員を、という無理もいいません。

 少しやんちゃで、こちらで持て余すぐらいに元気でやんちゃな子たちを何人かづつ、こちらに紹介していただければ……」

「そんな条件でよければ、こちらとしても異存はない。むしろ、実にありがたい。

 さっそく活きのいいのを選抜させることにしよう」

「はい。

 よろしくお願いします」


 迷宮内、某所。

「……投げて手持ちがなくなった者は、即刻脱出札を使用!

 向こうで次の攻撃の準備をせよ!」

『ティリ様』

「お、ゼグス。来たか」

『ああ。

 あれか? 例の、モンスターとやらは』

「ああ。燃えている、あれだ。

 今はわかりづらいだろうが、本来は透明無色で視認性が極めて悪い。その上、あの大きさでそこそこの移動速度。透明巨大芋虫と呼ぶ者がいることからもわかるように、生命力が強く多少のことでは動きを止めない。

 実に、始末に悪いモンスターなわけだ。

 少人数のパーティだけでは、まず、手に負えん」

『……それでこの、人海戦術か……』

「火炎瓶だの発破だのの数を揃えていてここまで持ってくる時点で、どのみち相応の人手を必要とするからの。

 討伐賞金を多人数に分配するという観点から見ても、それはそれでかまわんのだが……」

『別に、完全武装の冒険者が、かなり数、控えている。

 ティリ様は、それだけでは済まないと考えているのだな?』

「杞憂であればいいのだがの。念の為の保険というやつじゃ。

 あれの魔法無効化という特性を、ちと厄介に感じての。

 それと他のモンスターが一緒くたになって攻めてこられたら、術式を使用したアイテムをそれなりに頼りにしておる冒険者たちでは、かなり苦戦することになる」

『……それで、おれを呼び出したのか』

「念のため、ということもあるが……それ以上に、なにか新手のモンスターが出現すれば、おぬしの右腕にそれをおぼえさせて貰いたいと思っての」

『今、目の前にいるのは、発破で肉を半ば吹き飛ばされ、残りは油まみれで燃やされている最中だ。

 それでも動き続ける生命力は大したもんだと思うが……』

「つかぬことを訊くが……おぬしの右腕にあれをおぼえさせたら、黒こげの状態で再現されるのかの?」

『試したことはないのでなんともいえないが……そうなっても、おかしくはない。

 昨日のはなしでは、あの後にも何十体も続いてくるということだったろう?』

「ああ。

 昨日は、そううであったということだが……今日は、どうなるか……」

『あの巨体の背後になにが控えているのか……見物ではあるな』

「なにもなければ、それでよし。

 なにかあっても、備えは万全。

 さて、どっちに転ぶか」

『……では、あの燃えかけているやつを、まずは吹き飛ばしてみるか?』

「出来るのか、ゼグスよ。

 あれはまだまだ、かなりの大きさだが……」

『おそらくは。

 魔法が駄目でも、物理攻撃は効くのだろう?

 ならば、やりようはあるが』

「試してみよ」

『心得た』


 どごぉぉぉぉんっ!


「ほっ。

 燃えかけとはいえ、一発で粉砕するか。

 そして……ふふん。

 杞憂が、杞憂のままでは終わらなかったの。

 少学舎組は全員、脱出札を使用!

 それ以外は総員、戦闘準備!

 飛道具、機銃術式、遠距離攻撃用のアイテムを所持する者は、即座に使用!

 乱戦になる前に、可能な限り数を減らしておけ!

 なに、これだけいれば、撃てば必ず当たる!

 ナビズ族、ギルドに連絡。モンスターの背後に武装した軍隊らしき一団がいたとな!」

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