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157.はじめてのおと。

 さらさらさら。

『コイン、貸して』

「ドラゴンのコインのことか?

 なんでまた?」

 さらさらさら。

『音楽を、聞いてみたい』

「……あ。

 そういうことか。

 こいつにそういう機能があるのかどうか、よくわからないけど……。

 そういうことなら、まあ、いいか」

「あの、この方たちは……」

「ああ。

 耳が不自由なんだそうだ。この子たち。

 ほれ、コイン。

 大事なものだから、用事が済んだらすぐに返してくれよ」

「その大事なものを、あっさりとお貸ししてしまうのですか?」

「別にいいだろ?

 それで、誰かの害になるってわけでもないし……。

 猫耳は、そこのピザでも食べてなさい」

「わたくし……猫舌なんですよぅ。

 以前は、そんなこともなかったはずなのですが……くぅー。

 このお料理、熱々のを食べたらおいしそうですよね?」


『ニクス、この手を取って』

『二人でこのコインを握れば……』

『『きっと、音が聞こえる。

 ……あ』』


『これが……』

『音……』

『音楽……』

『音色……』

『雑踏……』

『雑音……』

『こんなにも……』

『わたしたちを取り巻く世界は……』

『音に、満ちていて……』


『おい!

 お前ら、どうした?

 二人で手を繋いだまま、ふらついているぞ!』


『声を出せないはずのオラスの声まで、聞こえる』

『はじめて聞いた、オラスの声』

『……へんなの』

『ふらついたのは……』


『お、おい!

 どうした? 気分でも悪いのか?』


『いきなり、いっぺんに雑多な音を聞いたため』

『頭が、くらくらする』

『みんな……こんな音を聞きながら、暮らしているんだ』

『同じ世界にいながら、別の世界の住人なんだね、わたしたち』


「おい、大丈夫か?」


『あれは……』

『シナクの声』


「手を繋いだとたん、ふらふらとその場に膝をついて……。

 例のコインのせいか?」


 ぱら。

『大丈夫』


『コインのせい、というよりも……』

『わたしたちが、音に不慣れなだけ』


 さらさらさら。

『コイン、ありがとう』

『今は、もういい』

『また、借りることがあるかも知れない』

『そのときは、よろしく』


「お、おう。

 なんともないんなら、それでいいんだ」


『目を白黒させている』

『ドラゴンと対峙しても平然と交渉を続けたという男が』

『こんなことで、動揺するなんて』

『……へんな男』


 ギルド本部。

「ピス族三十名は本日無事、現地でうちの渉外さんと合流。

 原油を精製するための設備の組立作業に入りました」

「現地の人たちの反応は?」

「物珍しさから見物に集まる人は多かったそうですが、渉外さんから事前に十分な説明がなされていたこともあって、今のところ、否定的な反応ではないようです」

「異族も慣れてしまえば、多少風変わりな外見を持つだけの生き物ですからね」

「紙の供給量を増やす件ですが、すぐには無理でも数日の時間を見込めば十分に可能なようです。各地の工場では、お金になるのならもっと増産にいそしみたいという意向を示し、むしろ歓迎をする意向を示しています。

 輸送にかかる日時も勘案すると、実際にここまで増産された分の紙が届くまでにはそれなりの日数を見なければならないかと思いますが……」

「では、少学舎が主導する新聞とかいうものは、発行可能なのですね?」

「一月か二月、それくらいの準備期間は必要となりますが」

「では……許可を出すより他、ありませんね。

 どのみち、発行に必要な人材を育成するのにも、それなりの日数が必要となるでしょうし……」

「その少学舎ですが……」

「なにか問題でも?」

「王都から送られてくる人数が当初の見込みよりも多く、寝具や服などの生活必需品の供給が追いつきません。

 このうち、服などは機織機を動かしてなんとか自家生産をして間に合わせていますが、毛布などの寝具などは宿舎を利用している現役冒険者たちに声をかけて有償で借り受けて間に合わせているような状態でして……。

 あと、このまま推移しますと、浴室やトイレなどももっと増設する必要があるようです」

「……予算の増額が必要となりますか?」

「おそらくは。

 福利厚生用の予算は、元魔王軍兵士のためにずいぶんと削られていますので……」

「なんとかしましょう。

 どのみち、彼らの何割かが稼働するようになればすぐに取り戻せる計算になるわけですから……」

「順番からいえば、彼ら少学舎組よりも元魔王軍兵士たちが冒険者として仕上がる方が早いと思いますが。

 それで、その魔王軍がらみと、少学舎の方からそれぞれ企画書が届いています」

「その二つ……というと、シナクさんと王子様から、ですか?」

「そうなりますね。

 このうち、魔王軍がらみの企画は今までの方針の延長で特に問題視する部分もないのですが……」

「王子様の……これは……ようするに、冒険者の成績を当てさせて、それを賭博にしようということですね?」

「そうですね。

 少学舎の運営資金を集めるための、苦肉の策のようですが……」

「……法的には、大丈夫なんですしょうか?

 この手の賭博は、締めつけがきつくて一部の宗教機関にしか公的には許可されないことになっているはずですが……」

「その辺はまだまだしっかりと調べてみる必要があるかと思いますが、検討する価値はあるかと。

 この案については、もう少し法律面も含めてもう少し時間をかけてみるべきかと……」

「そうですね。

 それに、もう一つの企画案も……。

 現役の冒険者たちが、見込みのある新人さんたちに資金援助する……ですか?」

「自分たちのパーティに欲しい人材を育てるために援助する、という風に考えれば、お互いにメリットがあるということですね。

 迷宮に入るときにも、実習も兼ねて頻繁に同行させたりして……。

 援助を受けた人が自立して稼げるようになったら、かかった費用を返却するシステムになっているようです。

 その分、資金を貸す側は、援助に値する人かどうかを研修中の人の中から真剣に精査する必要が出てくるわけですが……」

「一種の借金というか投資というか……。

 あの王子様も、いろいろ変なことを考えますね。

 この案については、特に反対すべき理由もないのでそのまま進めさせてください」

「あと、リンナさんが調査していた頭脳種族の件ですが、詳しい報告書は後であがってくる予定ですが、当座の結論としては、疑いはおおよそ晴れた、とのことです。

 頭脳種族が過去に他の種族を強制的に従える魔法を使用していたことは確かなようですが、それを今、ここで使用できるかというとそれもあやしく……。

 その魔法を使用するためにはかなり大規模な準備を必要とし、また、今となっては専門的な知識にいくらかの欠落があるみたいでして……」

「リンナさんは、魔法の中でもとりわけそちらの方面に明るい方ですからね。

 当初の熱意から見ても、見落としはないものと見ていいでしょう」

「それで……さっそく、頭脳種族の凍結を解いて話し合いをはじめたのですが、どうも、彼らがいうことには、現在の迷宮の運営は大ざっぱで無駄が多すぎるとかで……」

「彼ら……頭脳種族の方々が、そういったんですか?

 なぜ彼らが、迷宮の運営状況を知っているんでしょうか?」

「すいません。

 独断で、支障がない程度で迷宮の資料を渡してみました」

「……フェリスさん。

 そういうことをするときは、事前に知らせてからにしてしてくださいとあれほど……」

「彼らが情報を悪用したとき、責任をとる人数が少ない方がいいかと思いまして。

 それで、彼らがいうことには、自分たちに任せて貰えばもっとうまく運営できるとかで……」

「現実問題として、重要な部署をいきなり新参の種族に任せることはできません。

 翻訳とかきちんとして、誤解がなく資料を理解されているという保証はあるのですか?

 改めるべき部分を認めたのであれば、面倒でもいちいち改正案を提出させてください。

 必要に応じて検討させていただきます」

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