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156.おとにつつまれて。

「てい」

「ぶべっ!」


 べちゃっ。


『『『……シナクが、魔女の足を引っかけて転ばせた……』』』


「な、なにをするんだ抱き枕!」

「じゃかましいっ!

 人が寛いでいるところに予告もなしに現れて暴れているんじゃねぇ!」

「だ、だって……お前たちに設置していた猫耳センサーが反応したから、つい……」

「ついもクソもあるか!

 だいたいなんだよ猫耳センサーって!

 いったいいつ設置したんだそんな怪しげなもん!」

「いや、ちょうどこのくらいの質量が出入りできるくらいの次元の揺らぎを関知したら、即時にこっちにもそうと知ることが出来るような仕掛けをちょいちょちとつけておいたのだが……。

 このわたしも本当に、こうも早く役に立つとは思わっていなかった」

「そうかいそうかい。

 ともかくこの場では、おとなしくしてくれ。

 他のお客さんに迷惑だ」

「お、おとなしく……だと?」

「そうだ。

 別に、珍奇な願いってわけでもないだろう?」

「だか……あの、猫耳はどうする?

 捕らえられないではないか!」

「捕らえてとうするよ!

 仮に捕まえたとしても、すぐにどっかに消えちまうもんだろう、あれは!

 それとも、あれをいつまでも捕まえておける仕掛けでも作れたってのか?」

「……う、うむ。

 いや、それは、まだ開発出来ていないのだが……」

「……ふー。ふー」

「ほれみろ。

 すっかり興奮して警戒しているじゃないか」

「……前に見たときよりは、猫化が進んでいるような。

 言葉はまだ理解できるかな?

 おーい! 猫耳。

 こちらがいうことは理解できるか?」

「……なんで、言葉が理解できないという前提ではなしを進めようとしますの?」

「知性の退行現象は認められない、か。

 前に会話したときには、記憶に多大な欠落が観測されたものだが……さてそれも、この猫耳にとっても過去のことなのか、それともこれから経験することなのか……」

「なにをぶつくさとわけがわからないことをおっしゃっておりますの、この方は?」

「これはそういう生物なんだと思ってスルーして欲しい。

 どうだい? もう、気持ちは落ち着いたか?」

「ええ。

 特大の捕虫網をもって追い回されたりしない限り、わたくしも無駄に興奮なんてしません」

「落ち着いたんなら、こっちに来て座ったら?

 どうせまた、不意にしゅん、ってどっかに消えちまうんだろ?」

「ええ、それなんですけど……。

 あれからわたくし、わたくし自身のこの状態をコントロールすることに成功しましたの」

「コントロールってぇと……具体的には、どういう……?」

「五分以上、出現した場所に固定して存在出来ることが可能となりました!」

「あー。

 そうかいそうかい。

 そいつは、よかった……」

「……なんでそこでなま暖かい目になりますの?」

「いや、存在なんてものは、普通の生物なら意識しなくても固定されているもんだからなあ……」

「……そうでしたっけ?」

「そうなんです。

 なんだ、あんた。

 普通の人間だったときの記憶も、もうかなり薄れて来ているのか?」

「普通の人間だったときの……。

 そう。

 わたくしは、大商人の娘で、名前は確か……」

「目下行方不明中という扱いだな。

 ここのギルドにも賞金つきで捜索願いが出されているはずだが……今の姿についての記述はなかったから、その賞金を受け取る者は永遠に現れまい」

「……そうなの?」

「そうなのだ」

「お父様……わたくしのこと、忘れていなかったのですね」

「忘れるどころか、消えた瞬間を目の当たりにしていたからな。

 その時はかなり取り乱していたというはなしだが、どうしてもはずせない商談があったのでギルドに捜索願いを提出して旅立ったということだ」

「それで十分です。

 それでこそ……わたくしも、ぱぁーっと羽目を外すことが出来ますわ!」

「……このお嬢さんも、たいがいにいい性格だった」

「ところで……ここは?」

「いわゆる、居酒屋ってところだな。

 おもとして冒険者が利用するような店だ。

 大商人の娘さんってえと、当然のことながらこんな店とは縁がないか?」

「ええ。

 もちろん、はなしには聞いていましたが、実際に入るのはこれがはじめてのことなりますが……」


『『『……会話の内容は理解できたが、はなしの流れについていけない……』』』


『なんだ、お前ら。

 来ていたのか?』

『ゼグスよ。

 ……あれは、なんだ?』

『いきなり現れたり消えたりする、猫耳の女だ。

 それ以外のことは、おれにもよくわからん。

 あの魔女にもよくわかっていないようで、詳しく調べたがっている』

『そんなよくわからない存在に……なんであのシナクは、平然と会話を続けられるのだ?』

『ああ。

 あの人は、そういう人だからなあ。

 なぜと問われても……』

『そういう人、なのか?』

『そういう人なのだ。

 でなければ……ドラゴンから直々にコインを貰う、なんてことはなかったろう』

『ドラゴンが、人柄を見たのか?』

『あのコインは、直々に渡されたということだからな。

 あの男に渡しておけば、少なくとも悪用はされまい……と、そのように判断されたのではないか?』

『う……む』

『納得できないかも知れないけど、あのシナクは当人がのほほんと構えている割には、大した人物だぞ。

 おれだってまだ数日しかつきあっていないが、戦闘能力とかそういうのを外して考えても、あれで奇妙な肝の座り方をしている。

 未知の知的種族とも、平然と立て続けに交渉し、接触を成功裡に収めているわけだしな』

『そういえば……知的種族との交渉は、大半があの男がらみであったな』

『そんなのは、通常の冒険者の仕事ではないのだがな。

 せいぜい、通辞役を務めるくらいで……』

『だが、あの男は……その領分を越えた活動をしている』

『しかも、すべてを成功させている。

 今後も嗅ぎ回るのであれば、あの男にしておけ。

 ギルドもあの男の働きにかなりの重きを置いているし、迷宮の今後もあの男の意向によって大きく左右されることになるだろう』

『……そんなにか?』

『どうしたわけかな。

 みていると、そんな気がしてくる。

 もちろん、迷宮に関わる他の者たちが無能だとか役立たずだとか、いうつもりはさらさらないのだが……一番根本の肝心な部分は、あの男の意志で決定されている……ような、気がする。

 あくまで、短い日数で見聞した範囲内での感触だが……』

『う……む。

 ところでオラスよ。

 なんでそこまで親切に色々なことをおれたちに教えてくれるのだ?』

『いわなかったか?

 間諜には協力的な態度をとることが、ギルドの方針だそうだ。

 その方針に逆らういわれもないのでな。聞かれて答えられることには答えるようにしているのだが……』


『ねえ、ニクス。

 空気が、震えている』

『音楽』

『音楽……って、なに?』

『あれ』

『なに?

 あの、おじいさんが抱えている妙な道具』

『楽器、というらしい。より詳しくいうのなら、リュート。

 弦をつま弾くことによって音を出す道具』

『楽器。

 ……あれが……』

『そう。

 音を出して、それに、おそらく歌も』

『演奏と歌……音楽ってやつ?』

『そう。それ。

 今まで、耳が不自由なわたしたちには縁がなかったもの』

『でも……聞こえなくても、空気の震えは感じることが出来る』

『そう。

 わたしたちは今、音楽に包まれている。

 聞こえないけど』

『聞くことも、出来るかもしれない』

『ラキス?』

『ゼグスの助けか、それともシナクのコインを借りれば、あるいは……』

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