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4.ごあんない。

「……こちらが地上百三十八階になります。この階では主に……」

「あのよう」

「……錬金術関連の実験設備が置かれ、その何割かは常時稼働もしております」

「あのよう、って声かけているだろうが。

 スルーしてねーで返事ぐらいしろよ木偶人形」

「では、改めまして。

 なんのご用でしょうか抱き枕様」

「抱き枕、って……まあ、いいか。

 用件はいくつかあるが……まず第一に、この案内というのはいったいいつまで続くんだ? お前と一緒にこの塔の中をうろうろしはじめてから、かれこれ五日ほど経っているんだが……」

「そうですね。ちょうど今、予定の二割ほどを消化したくらいでしょうか? わたくしも塔内のすべての施設を把握しているわけではありませんが、わたくしが知っている範囲に関しましてはおおよそ五分の一を案内し終えている勘定になります」

「二割……五分の一……」

「ああ。抱き枕様がよろめいていらっしゃる。

 体調がすぐれないようでしたらご主人様に連絡をさせていただきますが……」

「いや、それは激しく遠慮させていただく。

 あまりにも非常識なスケールに眩暈がしただけだ。

 だいたい、今の百三十……何階、だったけ? とにかく、そんだけ高い建物があったら近隣でも有名になっているだろうに……。

 おれは、ここにくるまでこの塔の存在すら知らなかったぞ」

「魔法により、外からはみえないステルス仕様となっております。また、塔ないしはご主人様に害意を持つ方は、いっさい立ち入ることができません」

「……もはやなんでもありだな、魔法。

 おれの冒険者仲間にも何人か魔法使いの知り合いがいるが、そこまで何でもありなやつはいなかったったぞ。

 冒険者だから、攻撃魔法に特化したやつが多かったからかも知れないが……」

「ご主人様は、ええ。人呼んで不眠の魔女。知る人ぞ知る大魔法使いであらせられますから。陋巷で冒険者などという賤業で糊口をしのいでる雑魚雑魚しい魔法使いとは格が違います」

「なんか難しい単語列挙してさりげなく冒険者全体を貶められたよ!

 確かに、ろくでもないやつが多かったし、世間的にみても肩身の狭い職業だけどよ……。

 木偶人形にそこまでいわれるほど悪いもんでもねーぞ」

「そろそろ塔内のご案内業務に戻ってもよろしいでしょうか?」

「よろしくない。

 最初にいおうとして脱線したけど、そのご案内とやらにも飽きたしそれ以上に疲れた。

 お前のような木偶人形と違ってこっちとら生身の人間様だからな。わけのわからん魔法実験設備とかをみれられても正直、興味もなもてないし、それ以上にわけがわからん。

 第一、それ以前に、毎日毎日五十階とか百階とかの階段を昇りおりさせられてみろ。おれの場合は商業柄、たまたま多少鍛えているからここまで耐えられるけど、他の奴なら初日に根をあげているぞ」

「そうでした。

 人間というのは一定量以上の運動を行うと筋肉に乳酸がたまってダルさを感じるのでございましたね。ご主人様は移動のさい、もっぱら空間転移魔法を使用していらっしゃいますし、わたくしも筋肉を持ちあわせていませんので、うっかり失念していましたわ」

「そんな大事なことをうっかり失念しているんじゃねーよ!

 階数も非常識だが、一フロアの面積もたいがいなもんだぞ、この塔。本当にひとつの建物の中なのか?

 おれが歩き回った感覚だと、前に警護の仕事で出入りしていたかなり羽振りのいい貴族の邸宅がすっぽり収まってまだ余るくらいに広い。

 お前さんのご主人とやらは、こんな無駄に広くてでかい建物をどうやって造ってどうやって維持しているんだが……。

 いや。答えなくていい。どうせ魔法で、なんだろう。

 ここにいると、外の常識がどんどん音をたてて崩れていくんだよな。ガラガラと……。

 吹雪が続いていなけりゃ、とっととこの塔を出て行くんだが……」

「メイド服のままで? ご主人様に命を救われた恩も返さずに?」

「そんなもん、どっちもどうにでもおならぁ。恩を徒で返すつもりはさらさらないが、元のサヤに戻れば金を稼ぐ手段なんていくらでもあるんだよ!

 この服も、いつまでたってもお前らがまともな服をだしてくれないからだろうが!」

『天候のせいとはいえ、不自由をかけてすまないな』

「うわっ! いきなりっ! どこからっ!」

『事後承諾になるが、お前さんの治療をおこなった際、内耳に魔法通信末端を埋め込ませてもらった』

「おれには選択の自由もないのかよ!」

『服装に関しては、天候が回復し次第、調達することを約束しよう』

「そのお天気のことだけどよ、あんたのご大層な魔法とやらでなんとかできないのか? なんでもありなんだろ? あんたの魔法」

『うむ。

 やってやれないこともないのだが……天候の制御は膨大なエネルギーを消費するうえ、リスクも環境にたいする影響も、あまりにも大きすぎる。気軽におこなうことは推奨できない』

「わるいが、こっちちとら無学な冒険者風情でね。

 もう少し砕けた、わかりやすいいいかたでないと、なにをいっているのかもよくわからない」

『この吹雪をとめようとすると莫大な金がかかる。

 そっちはなんとでもなるが、万が一失敗したら数年から数百年におよぶ暴風長雨干ばつなどの天変地異を誘発しかねないから、やめておいた方がいい』

「ははは……はぁ。

 そいつは、まあ、やめておいた方が無難だなぁ。おれの着替えていどの問題で、そこまで迷惑をかけるわけにもいかねえ。

 しかし、いつまで続くかねえこの吹雪」

「まったく、連続殺人事件が起こらないのが不思議なお天気でございますね」

『うちのメイドは読書家でな。

 今は恋愛物にはまっているようだが、少し前までは推理物にのめりこんでいた』

「このような嵐の晩、館に足止めされた人々がひとりまたひとりと殺されていくのでございます」

「縁起でもないな。

 この塔には人間といったら、おれとお前のご主人様しかいないし……順番からいったら、真っ先に殺されるのはおれじゃないか……。

 第一……ゴーレムがそんなもん読んでおもしろいのか?」

『おもしろ半分にゴーレムに半自立型知性を組み込んでみたが、いかんせんここではサンプルとなるヒトがいなくてな。

 しかたがなく創作物を読ませて参考にさせている』

「わたくし、ご主人様に制作されて以来、実際に生きたヒトと対面したのは、ご主人様を除けば抱き枕様がはじめてなのでございます」

「……あー、そいうかい。

 悪うござんしたね、参考にする甲斐もない、ちんけなサンプルで……。

 っていうか、この塔、普段、人の出入りってないのか?」

『当然だろう。

 なにせここは、わたしが研究三昧に耽るため、俗世間との交渉を絶つために建造したんだから』

「さんざん偉そうなこといってて、やっていることは引きこもりなのかよっ!」

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