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149.しゃざいとりくるーと。

 迷宮内、頭脳種族居住区。

「関係種族たちへの聞き取り調査が一通り終わったところだ」

『そんなことより、こちらの者たちの精神凍結をいい加減に解いてくれぬか?

 われらは、おぬしたちにこのような仕打ちをされる心覚えはないぞ!』

『こんな目に遭わされなければならないほどのなにをした。

 仲間をさっさと起こせ、と』

「うむ。

 まあ、他種族虐待の疑いは、ほぼ晴れたところであるし……。

 ……ほれ」

『……んん……』

『……あれ?

 今まで、なにを……』

『あ!

 あの女だ!

 あの女に、奇妙な魔法をかけられて!』

『この恥辱、どうして晴らしてくれよう!』

「……黙れぃっ!

 まずはおとなしくこちらのはなしを聞く!

 それが出来ぬのであれば、もうしばらく眠って貰うことになるぞ!」

『彼女は自分の無礼を度外視してさらならる恫喝を行っている。

 静かにいうことを聞かないと、全員、もう一度に眠られることも辞さないそうだ』

『……なんと無法な……』

『まずは……はなしを聞くより他、手だてはないか』

『口惜しいが……今のわれらは囚われの身……』

『今はいうことを聞くより他、途はないか……』

「よし。

 静かになったな。

 おぬしらが他者の精神を操作する魔法を持っていて、こちらの世界でもそれを使用する疑いがあったので機先を征し、身動きを封じる意味で精神凍結魔法を使用させて貰った。

そうした疑いがある以上、放置してわれらの側が支配されてしまったら取り返しがつかんし、目もあてられんからな。

そちらにもいろいろいいたいことはあるだろうが、緊急避難的な措置であると思って貰いたい」

『あんたたちの種族が他者を強制的に従属させる魔法を持っていると知り、あわてて動きを封じた。

 自衛のための措置である……と、そう、主張している』

「おぬしらを眠らせている間、おぬしらと出身世界を同じくする他種族にいろいろ聞いて回った。

 そちらの世界ではどうかわからないが、こちらの世界では他者の意向を無視して強引にいうことを聞かせたり従わせたりすることは無法だ。

 向こうの世界で彼らがどのように扱われ、どのような社会的地位にあったのか、それを知りたかった」

『テオ族やグガウ族に、向こうの世界でどう生活していたのかを聞いて回った。

 頭脳種族が彼らをどのように遇していたのか、知りたかったからだ』

「いろいろ聞いてみた結果、判明したことだが……おぬしらは、あれだ。

 拙者の郷里の言い回しでいうところの、武士は食わねど高楊枝というやつだな」

『リンナ。

 ブシとはなにか?』

「それはあまり本題とは関係がないのだが……拙者の郷里の、軍事と政治を統括する役割を果たした階級の者をさす総称だ。

 その階級の者は、貧しい境遇にいても周囲にはそうではないようなポーズを取りがちだ、という意味になる」

『彼女は、あなたがたは元の世界でかなり虚勢を張って生きてきたのだなと、そのようにいっている』

『……なにをっ!』

「頭脳種族よ、そういきり立つものではない。

 高楊枝にも高楊枝なりの効能というものがある。

 おぬしらが他の種族を高圧的に抑えていたことで、おぬしらの世界はどうにか生きながらえてきたのであろう。

 聞いたぞ。

 おぬしらの世界は……ひどく、貧しかったようだな」

『頭脳種族が高圧的な支配体制を敷いたことで、生産性に乏しいあなたがたの世界の秩序はどうにか保たれていた。

 そうした体制について、彼女は、恥入る必要はないと思っている』

「おぬしらが内心でどのように思って、あちらの世界で生きていたのか。

 それについては、拙者が知るところではない。

 だか、おぬしらが圧政を敷いたことで無駄な混乱や死者が出ることを事前に防いでいたという側面はあろう。

 そのことは、評価せねばならない」

『頭脳種族が出身世界でなにをたくらみ、考えていたのか詮索することはしない。

 強引な手段も弄したのであろうが、頭脳種族の治世により治安が保たれ、それなりの社会秩序が保たれていたであろうことは予測できるし、それは評価に値にするものとも思っている』

「また、他の種族への聞き込みの過程で、おぬしらが持っていた他者を強制的に服従させる魔法とやらも、かなり昔もものであり、少なくとも現在ではすぐに使用することは不可能なものであることも確認できた。

 よって、この世界でもおぬしらの身柄を拘束しておく理由はすでになく、この場で精神凍結魔法を解いた次第である」

『頭脳種族の持つ従属魔法が時代遅れなものであり、今となっては実用的代物とはいえないことを聞き込み中に確認した。

 これ以上、頭脳種族の自由を奪っておく理由がなくなったので、拘束を解いた』

「こちらの自衛のためとはいえ、事実関係が明瞭になるまで不自由を強いたことは詫びねばなるまい。

 これより先は、こちらの世界の法に従っている限りにおいては、何者もおぬしらの動きを妨げることはない」

『身の危険を感じてとっさに頭脳種族を無力化してしまったが、その理由もすでになくなった。五階からとはいえ、これまでの不始末についてはお詫びしたい……と、彼女はいっている。

 また、無法な真似をしない限りは、これ以降、頭脳寿族の自由は保障される』

「拙者からいいたいことは、以上になるな。

 あとは……フェリス。

 ギルドとして、こちらといろいろはなしたいところがあるのであろう?」

「はい!」

「では、交代だな。

 拙者は護衛として、しばらく後ろに控えていることとする」

「どうも、冒険者ギルド所属の事務員、フェリスといいます。

 今日は、頭脳種族のみなさんにお願いしたいことがあるので参上いたしました」

『この、冒険者ギルド所属のフェリスが、頭脳種族に仕事を頼みたいのだそうだ』

「みなさんは、元の世界では複数の種族の上にたって統治をしていたそうですね。

 その手腕を買って、こちらでもお仕事をしてみませんか?

 具体的にいうと、各種事業の進行や施工状況を管理したり、統括したりするお仕事です。

 専門の知識を持つ職人や冒険者さんはそれなりに増えてきましたが、そういった人たちを管理するための人員は、まだまだ大幅に不足しています。

 業務や経営が多角化した割には、人を使うための教育を受けてきた人はあまりにいなくて、とても困っています」

『ギルドは、多くの種類の仕事を同時に進行させている。

 そのため、多くの計画や事業の統括をする人材が不足している。

 多数の人間を効率よく働かせるための教育を受けてきた人材は、こちらでは貴重である。

 ギルドは頭脳種族に、その穴を埋めて貰うことを期待したいようだ。

 ……なあ、フェリスとかいったか。

 これって……ようするに、中間管理職として口説いているわけか?』

「しっ。

 ゼグスさん。

 上からも下からも突き上げを食らう中間管理職は、誰もが嫌がってやりたがらいのです。

 こちらの頭脳種族の方々は、下手に出ればいい気になって口説きやすくなると、そのように聞いているのです」

『……それ、訳していいか?』

「やめてっ!」


 迷宮内、試射場予定地。

「……うーん。

 カウンターが出来て、危ない場所には立ち入れなくしたし、休憩のためのベンチも出来た。

 試射場自体は、なんとか格好がついてきたか。

 炊事に必要な水回りの整備も今、やっているところだし、職長さんは図面が出来次第、見積もりを出してくれるといっていたし……。

 ナビズ族。

 例の、縮小版の狙撃銃の方は、うまくいっているのか?」

(順調ですがなー)(今夜か明日にでもー)

「そうか。

 ちょっと、標的に使う壁紙を発注してくる。

 しばらくここを空けるけど、留守番を頼むな。

 なんか適当に、おみやげも買ってくるから」

(いってらー)

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